メディアグランプリ

まわりのものすべてにモヤモヤするし腹が立つんだけど


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:山本優子(ライティング・ゼミ集中コース)
 
 
※この記事はフィクションです
 
 
「学校に行きたくない」
最初に僕がそう言ったとき、母さんが動揺するのがわかった。ただ、今どきの親らしく、無理に行かせようとはしなかった。学校の専用アプリで欠席の連絡をした後、落ち着きを装いながら聞いてきた。
 
「なにか嫌なことがあった?」
「べつにないよ」
「そうなのね。学校を休むのはいいんだけど、いじめとか、誰かに何かされたとか、先生と合わないとか、何か理由があるのなら、それは解決したほうがいいと思うの」
「ないんだって」
「そう。それならいいけど」
すっきりしない表情のまま、朝食の片づけを始めた。
 
「じゃあ、母さんは仕事に行ってくるね。お昼は冷蔵庫にあるもの、何でも食べていいからね。なにかあったらいつでも連絡して」
平静の裏に不安が見える顔つきで、母さんは出て行った。そりゃあそうだろうな、どんな顔したらいいか、わかんないよな。それくらいのことは僕だってわかる。僕だってうっすら緊張した顔をしていただろうし。
 
 
中学に入学したばかりのころは、まだよかった。よかったっていうか、何も考えずに、小学生の続きのままで学校に通っていた。モヤモヤし始めたのは、中二のゴールデンウィークが終わった頃だった。なんか腹立つ。なんでだろう。いわゆる「反抗期」であることはわかったが、急に自分が自分じゃないみたいで、周りのすべてがそう仕向けているようで、コントロールできない感じが余計に腹が立った。
 
 
それからしばらく、学校に行かない日が続いた。担任が毎日電話をかけてくるのはウザかったけど、それはそれで仕事なんだろうから仕方がない。昭和の熱血教師モードのでかい声で「明日は来いよ!」と言ってくるのだけは勘弁してほしかったが。
 
 
正直、自分でもどうしたいのかわからなかった。学校を休んだところで、何かが変わるわけじゃない。でも、今までと同じように学校に行っても、何も変わらない。
 
「ああ、もう!」とつぶやいてみる。
 
反抗期といっても、お決まりの
「うるせえ、くそばばあ!」
は口にしない。ましてや、暴れたり、物を投げたり、そんなことはする気になれない。むしろそれができればスッキリするのかもしれないが、僕はそういうタイプではないのだ。
大人の事情も気持ちもわかる。ただ、モヤモヤは出る。だからなるべく接触を減らすようにしていた。
 
母さんは何気ない感じで
「今日は何をしていたの?」
「何を食べたの?」
と聞いてくるので、適当に答えている。心配されていることに腹が立つ。
 
父さんは平日はあまり顔を合わせないが、こないだの休みの日に
「学校行ってないんだって?」
と聞いてきたけど
「うん」
と僕がうなずいて、それっきりだ。何を話したらいいかわからないのだろう。そのことにもまた腹が立つ。
 
そして子どもっぽい自分の態度にも腹が立つ。
 
 
ある日、テレビで地元の中学校の制服についてのニュースを見た。ジェンダーにも配慮した新しい制服に代わって数年がたったというもので、顔を隠してインタビューを受けている保護者も、スタジオのコメンテーターも
「いい話ですね」
みたいな雰囲気でまとめられていた。
 
冗談じゃないぞ!
 
自分でも驚くほどカッとした。腹が立つどころじゃない。僕ははっきりと怒っていた。今まで自分でも気づいていなかったモヤモヤの一因を見つけたのだ。
 
制服のズボンをはきたくない!
 
それが、僕が見つけた、学校に行きたくない理由の一つだった。
 
新しくなった制服はブレザーで、ボトムスが3種類ある。長ズボン、スカートに加え、スカートに見えるがキュロットというものだ。僕は迷わず長ズボンを選択していた。実際の学校では、ズボンの女子も珍しくない。
僕が納得できないのは、キュロットだ。見た目はスカートなので、気付いていないけれどはいている人もいるかもしれない。
でも! 男子の選択肢は長ズボンしかないじゃないか! どれを選んでもいいですよ、といいながら、選べるのは女子だけじゃないか! スカートにしか見えないキュロットを、男子が選ぶのは現実的じゃない! 誤解しないでほしいが、僕はスカートをはきたいわけではない。選べないことに怒っているのだ!
 
 
そこから僕は、ネットで過去のニュースを調べてみた。大人が勝手に決めたんだろうと思っていたその制服案は、選ばれた中学生も参加した会議で決まったらしかった。
「現役中学生が考えてこれかよ」
なぜそうなったのか。たまたま参加した中学生が、女子ばっかりだったのか。そんなわけないだろう。たぶん、そこにいた男子たちも、自分が長ズボン以外のものを選ぶという発想がなかったんだろうな。
 
誰に対して怒っていいのかわからないまま、僕はスマホの画面を閉じた。
 
 
次の日、僕は学校に行くことにした。モヤモヤの原因が一つわかっただけで、何も変わっていない。だけど、こういう気持ちで学校にいる生徒が一人いてもいいじゃないかと思った。そういう生徒がいるべきだと思った。口に出さなくても、何かのきっかけで、何かが変わることだってあるだろう。これも一つの「反抗」なのかもしれない。じぶんでもよくわからないけれど。
 
 
朝食を食べながら言った。
「今日は学校行くよ」
「あら、そう」
母さんは少しうれしそうに見えた。
腹は立たなかった。
 
 
久しぶりの登校準備を済ませてから、僕は、制服のズボンに足を通した。
 
 
 
 
***
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2024-05-03 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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