メディアグランプリ

自分の足跡を残すということ


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記事:藤川 勝知(ライティング・ゼミ集中コース)
 
 
年の瀬も迫る12月、仕事中に珍しくスマホに着信があった。
高校時代の同級生、トヨトシからだった。席を外し、廊下に出て電話を受ける。
 
「森ヒロシが亡くなったって知ってる?」
 
森ヒロシ、電話をくれたトヨトシ、そして私の3人は高校1年生の時の同級生である。2人は数少ない私の親友だ。
 
森ヒロシが教授をしていた大学のサイトを見てみると、彼の訃報が載っており、彼が半年前に亡くなったことを知った。
 
すぐに彼の奥さんに電話をかけた。6月に癌で亡くなったとのことだ。
癌が見つかった時にはすでにステージ4だったらしい。でも、彼は闘病より家族や学生との時間を選んだ。
 
そして、週末、僕はトヨトシと一緒に森ヒロシの家を訪ねた。
「ちょっと早いよな、そのうち俺らも行くから待っててくれよ」
と御前で手を合わせた。
 
奥さんは、
「お二人のことは主人からいつも聞いていました。主人が亡くなったことをすぐに連絡したかったのですが、電話番号も住所もわからなくて、連絡できずにすみませんでした。主人のことが亡くなったことを知ってるのは職場の方だけなんです」
と言った。
 
これはSNSの弊害だと思った。
SNSで友人と繋がっているので、年賀状のやりとりは無くなった。昔、家にあった電話帳もない。本人が死んでしまえばスマホに残っている情報を家族はみることができない。残された家族は故人の死を伝えることができないのだ。
 
SNSのメッセージやコメントでお互いの状況を確認したりしていても、本人がアクションを起こさない限り伝わらない。書き込みのない人の情報は過去に埋もれ、検索しない限りは出てこない。
僕も彼がたまに投稿する記事の内容を見て、教授としての彼の活動を誇らしく思っていたものだ。そして、彼の書き込みを半年ほど見かけなかったことに今さら気づいた。
 
SNSを通じて友人の近況がわかるのは便利なものだと喜んで使っていたが、スマホを持っている本人がいなければ、決して人には繋がらない。
僕はこの時、SNSの使い方に疑問をもったが、後日、別の考えもあることに気づくことになる。
 
奥さんが、ぶっきらぼうな表情をしている彼の写真を見せてくれた。
「主人の教え子の中にカメラマンになった子がいて、その子が撮ってくれた写真です。主人は家族のことはあまり関心がないような感じで、家でもこんな風にいつもぶっきらぼうでした。私は彼が幸せな時間を過ごしてくれていたのかわからないんです」
と彼女はうつむいた。
 
僕は、高校時代に彼が話してくれた言葉を思い出し、彼女に伝えた。
「俺はずっと母親と二人暮らし。母親はいつも遅くまで仕事をしていて、俺は家にいる時はずっと一人なんだよな。だから、結婚したら子供は最低二人は欲しいんだよ。家族を持つこと、家族と一緒に暮らすことが俺の夢なんだ」
と。
そして、私は
「あいつは夢を手に入れたんですよ。照れ隠しでポーズをつけてだけです」
と付け加えた。
 
「そのことを聞けて、本当によかったです」
と微笑む彼女の顔に涙が流れた。
 
それから半年ほどたった5月のこと。
ふとSNSを見ていると
「〇〇さんは森ヒロシさんと一緒にいます」
という書き込みがあった。
 
「えっ! 森ヒロシ? 何で?」
投稿している人は知らない人だった。
投稿内容を見ると、森ヒロシの教え子の一人のようだ。教え子が、森ヒロシの1周忌を迎えるあたり、彼に学んだ人たちに声をかけ、追悼式を企画しているので協力して欲しいという内容の書き込みだった。
 
僕は、画面に表示された「#森ヒロシ」をタップしてみた。
すると、彼に関する書き込みが溢れ出てきた。
 
生前、彼自身が書き込んだ学会の発表やゼミの教え子たちとの飲み会の様子。
彼の誕生日の4月には、教え子たちからのたくさんのお祝いのメッセージが書き込まれている。
そして、彼が亡くなった6月から書き込みは止まっていた。
ところが、彼がなくなってから1年が経過しようとした頃、教え子の呼びかけをきっかけとして、彼との思い出を書き込む投稿がいくつも上がっているのだ。
SNSの中で、森ヒロシは今も活躍しているように思えた。
 
僕らの世代でSNSに投稿を始めたのは十数年前だ。SNSに残っている投稿はせいぜい数年分だろう。
でも、生まれた時からSNSが身近にある若い人たちはどうだろうか?
赤ちゃんの時、七五三、入学式、卒業式、成人式、友人との旅行、結婚式などの折り目折り目のイベント。多くの思い出がSNSに保存されているのだ。
それを、家族や知り合いはいつでも見ることができる。
動画であれば、未来の自分や子供達へのメッセージを伝えることができる。
自分の足跡を残すことが出来るのだ。
 
今のSNSは、承認欲求を満たすための他人の迷惑を顧みない投稿に溢れている。
収益のためだけの発信が溢れている。
僕らはSNSの使い方を間違っているのかもしれない。
家族、親、子孫、友人達へ自分の足跡を残すためにSNSを使うことも必要だと思うのだ。
 
 
 
 
***
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2024-05-07 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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