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見た目に惑わされることなかれ


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:ともち(ライティング・ゼミ4月コース)
 
 
我が家にはコミュニケーションの師匠がいる。
4歳の娘だ。
 
当然ながら、師匠なので弟子(僕たち夫婦)に厳しい。
何が厳しいって、納得しないと行動しない。
しかも、納得する方法を言葉でハッキリとは示してくれない。
 
師匠を観察し、気持ちを読んで、適切な言葉を、適切なタイミングで表現しないといけない。
 
師匠だから弟子には遠慮しない。
頑張っているから応じてやるかという偽物の優しさはない。
見返りのために、ここは貸しをつくっておこうという企みもない。
忖度が通じない分、大人とのコミュニケーションより難しい。
 
 
例えば、毎日の入浴もそうだ。
師匠はお風呂に入るのが面倒な日がある。
 
「そろそろお風呂に入りましょう」だと「イヤだ」とくる。
「お風呂に入ってください」とこちらが少し強めに出ると「絶対イヤだ」とこれまた強い言葉が返ってくる。
さらに「あ、そんなこというんだったら、お菓子あげませんよ」というと「お菓子あげないとかいうんだったら、パパと遊んであげないからね」と鏡のように返ってくる。
力や脅しには屈しない。さすが師匠だ。
 
 
ところがだ。
 
 
「じゃあ、今日はパパの方が早く服脱げそうだな〜」というと、師匠の顔色が急変する。
「ねえ! まって! パパよりじぇったいはやいんだから!」と脱衣所へピューっとダッシュする。
 
僕はわざとノロノロ脱衣所へ遅れて到着する。
 
すると、さっきまで入浴を断固拒否していた師匠が、スッポンポンで誇らしげに待っている。
まったく、君は一体どれだけ待たせるんだ、といわんばかりの勝利の表情である。
 
「くっそー! 今日も負けたー!」と僕は全力で悔しがる。
「なんでそんなに早く服を脱げるのですか?」と聞くと「それはね」と師匠なりの工夫を教えてくれる。
 
 
「人は関心のある方向へ動く」
 
師匠は人を動かす本質を教えてくれた。
 
 
 
 
うちの師匠はよく歌を口ずさむ。
YouTubeで入手した歌や幼稚園で習った歌を披露してくれる。
レパートリーは童謡から最新J-POPまで幅広い。
 
ただし、僕の知っているオリジナルの曲とはほんの少し音程や歌詞が異なることが多い。
とはいえ師匠のことだ。きっと、より盛り上がるように原曲をアレンジしているに違いない。師匠なりの気遣いだろう。それくらいのことはやってのける人だ。
 
だが師匠も人間だ。お疲れの時には「歌を歌ってください」といくらお願いしても応じてくれない。
 
手拍子をしたら「もう! 手を叩かないで!」と怒られる。はい。軽率なあおりをしてしまい、すみません。
 
ここで僕が(わざと)間違えて歌う。
すると師匠から「違う! そこは○○だよ」と訂正が入る。
「え? ××ですか?」と僕がとぼけると、「もう〜! 違う〜!」と代わりに歌ってくれる。ついさっきまで拒んでいたはずなのに、いつの間にか全力で歌い始める。
結果的に、歌を聴きたかった弟子の思いに応じてくれる。
 
 
「困っている人がいればいつでも助けよ」
 
師匠は人間関係の本質を教えてくれた。
 
 
 
 
師匠は時々「イヤイヤ期」という技を使って弟子を試してくる。それは突然抜き打ちでやってくる。こちらの体調や忙しさなんて関係ない。
 
きっかけは単純なことが多い。
つい先日のゴールデンウィークも、公園でお姉ちゃんとかけっこをして負けたことがきっかけで、急にスイッチが入った。
 
その日は妻の妹が遊びにきており、公園の先にある街をブラリと散策する予定だった。
しかし、師匠は断固として公園から動かない。地べたに座り込んで「パパ来てー!」と弟子の僕を指名する。
 
妻たちには先に街に行ってもらい、僕は師匠の機嫌がよくなるまで公園で過ごすことにした。5分もすれば持ち直すだろうと思っていたが、その日の師匠は違った。
 
暑いから日陰行きませんか? –イヤ。
お姫様だっこするので移動しませんか? –イヤ。
美味しいアイスを食べに行きませんか? –イヤ。
師匠の大好きなダンゴムシを探しにいきませんか? –イヤ。
なんで怒っているのか教えてくれませんか? –イヤ。
僕もイヤって言っていいですか? –イヤ。
 
何を言っても「イヤ」の一点張り。しまいには、公園中に響き渡る声で「イー! ヤー! ダー!」と連呼する師匠。
 
通りすがりの人々からは「あらま、大変ね」という視線を向けられる。
未熟な僕は焦って人目につかない場所を探そうとする。ところが師匠は堂々としたもので、他人にどう見られようとお構いなし。僕にできることは、発狂する師匠の横にただいるだけだった。
 
待つこと2時間。
ようやく落ち着いた声の師匠が戻ってきた。
僕は全身からフーッと深いため息を吐き出し、家族と合流した。
 
ただ、この2時間は僕にとって貴重だった。
豊かな緑を眺めて季節の移ろいを感じたり、最近の自分の言動を省みたりする時間になった。
 
 
「他人の目に惑わされず、自分の関心に全力で集中せよ」
 
師匠は人生における大切なことを教えてくれた。
 
 
 
ただ、冷静さを取り戻しても師匠はその原因を教えてはくれなかった。それは僕たち弟子への師匠からの課題である。
 
翌日、僕たち弟子は話し合って1つの仮説を立てた。
 
師匠は「ママに思い切り甘えたかった」のだろうと。
 
4月から幼稚園に入園し、初めてママから離れた一時を過ごした。毎日楽しそうに園に通う師匠の姿を見て、親として勝手に安心しきっていた。しかし、初めての環境に順応するため、師匠なりに神経を張り詰めて過ごしていたのだろうと思い至った。
 
だから初めて迎えた大型連休に、ママを独り占めしたかった。ママに褒めて欲しかった。自分の居場所を確かめて安心したかった。ところが、友達や家族が遊びにきたことでそれが十分には叶わなかった。
 
師匠はそれらの思いを「イヤだ」という言葉と態度で意思表示していた。
それを証拠に、妻に思い切り甘える時間をつくったら幾分落ち着いた。
 
表面上は、お姉ちゃんに負けて2時間泣いた超負けず嫌いの子ども。
でも、それは弟子たちを試すかりそめの姿でしかなかった。
 
 
「真実は、目に見えるとも言葉にできるとも限らない」
 
師匠は忙しい現代人が見失いがちな視点を教えてくれた。
 
 
 
 
僕は安易に「子育ては楽しい」と言い切れるほど人間が成熟していない。
人を育てるとは、そんな生やさしい場面ばかりではない。心の底から愛しいと感じることもあれば、信じられないほど憎たらしいと感じることもある。
 
特に幼いうちは、大人の理屈やルールが通じないことの方が多い。こちらに余裕がないと、上手に受け止めきれない時もある。
 
でも、親だって人間だ。完璧を目指してできない自分を責めるくらいなら、不完全さをさっさと受け入れて師匠から学ばせてもらっているのだと切り替える。
 
見た目はただの4歳の子ども。
でも、僕にとっては大切なことを教えてくれる師匠なのだ。
 
僕はこの師匠とのやりとりを通じて、人として成長させてもらっている途中なのだ。
 
 
またいろいろ教えてくださいね、師匠。
全力でその難題に取り組ませていただきます。
引き続きよろしくお願いします。
 
 
 
 
***
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2024-05-16 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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