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年に一度のアレを貰うためにドキドキを飼い慣らすお母さんの物語


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:パナ子(ライティング実践教室)
 
 
年に一度、王道とも言えるアレの束を貰えるかどうか、緊張の一日がやってきた。
 
母の日である。
 
街を歩けば「母の日」「母の日」「母の日」……。
花はもちろんの事、菓子、酒、小物、洋服などさまざまなギフトを母に贈ろうという店からの圧力を感じずにはいられない。
 
実母はとっくに他界しているし、義母へのプレゼントは仕事が早過ぎる夫がとっくの昔に(といっても4月上旬だが)フラワーギフトの手配を済ませてしまった。贈る側の仕事は、もはや何もない。
 
となると、残すは、母歴8年になる私がプレゼントを貰えるかどうか問題である。
 
昨年は兄弟が夫に連れられて散歩に出かけたと思ったら、手にそれぞれ小さな花束を抱えて帰宅して大層嬉しい母の日を過ごした。が、しかし、契約書も何も交わしてない母の日という行事において、必ず何かがもらえるかはわからない。
 
正直に言おう。
母の日には花が欲しい。喉の奥から手が出る程、花が欲しい。
「お母さん、ありがとう」と言われて子供に囲まれながら絵に描いたような母の日を過ごしたい。承認欲求が強いと言われても構わない。母になった喜びを噛みしめたいのだ。
 
が、しかし、それを口に出して言う勇気はない。
全く知らなかったフリをして花を貰って初めて「そっかー、今日は母の日だったか」などとほざいて余裕をかましてみたいのだ。それがかっこいいと思っているダサい自分は承知の上で、だ。
 
迎えた母の日当日、昼食の買い物をするため一人近所のスーパーに出掛けた。
まあここでも見るわ見るわ「母の日には〇〇を贈ろう」の文字。貰う側になって初めてわかるのはプレッシャーが半端ないという事である。貰えるかどうかわからない商品の数々を見て歩く時の緊張感ったらない。
きっとバレンタインの時の男子なんかもこんな気持ちなのだろう。私がもし厨二病を患った中二男子だったらとっくに発狂している。
「まじうぜー。こんなんもらっても仕方なくね???」
 
しかし、こちら一般的にはきちんとした大人のアラフォーである。店からのギフト圧には動じず(なるほど世間では『母の日』なんですねぇ)と冷静さを装い昼食に使う食材の数々を吟味して回った。
 
買い物も無事終わりマンションに帰ってくると、なんと1Fのロビーでこれから出掛ける様子の我が家の男たちに遭遇した。
「あら、どこ行くの?」
と声を掛ける私に「ちょっと、100均行って来る」とやけに素っ気ない返事。そして何度も何度も母を振り返る8才の長男。
 
はい、もう、ここで確信しましたね。
 
(もしかしてだけど、もしかしてだけど、今から商店街のちょうど角にあるアレ屋さんに行って、日頃の感謝を伝えるべく、アレを買ってきてお母さんにプレゼントするつもりなんじゃないのーーーーーーーーー!!!!!!!?)
 
早速台所に立ち、昼ご飯に食べるピーマンの肉詰めをこしらえるがいつも以上に肉を揉み込む手に力が入る。
 
どうか! どうか! 彼らが買いに行ったものが、私宛の花束であれ!!
仮にそうだとして、だ。
これは正真正銘サプライズなのだから、完全に忘れていたフリをしなければならない。あんなに欲しがっていた花を、欲してなかったフリをしなければならないのだ。ムズイ!!
 
肉詰めが完成しソースを絡めだした頃、玄関を静かに開ける音がした。
リビングに近づいてくる足音二つ。
兄弟が(せーの)と小声で囁いている。ほら、もう、絶対に、あれやんけ。
「おかあさん! いつもありがとう!」
 
「えーっ!? お花を買いに行ってくれてたのぉ? お母さんびっくりしたぁ! 嬉しいー! 本当にありがとう!!」 
主演女優賞でも狙ってんのかよ、というくらいの大袈裟な言い回しで子供たちに喜びを伝え、まだ小さい手から真っ赤なカーネーションの花束をそれぞれから受け取る。花束を一個ずつ持っているのは、きっとケンカしないようにとの夫の計らいだろう。
 
いやー! 嬉しい!!!!!
世界一わかりやすいサプライズが、こんなに嬉しいと思う日が来るなんて想像もしてなかった。
 
はにかみながらクネクネする8才も、「まさか はなやに いったと おもわなかったでしょ」とドヤ顔で言い放つ5才も、真っ赤なカーネーションの花束も可愛くて可愛くてしょうがない。ありがとうありがとう、お母さんこれでまたしばらく頑張れそうだよ。
 
母の日に関する感情の起伏は、まるで勧善懲悪のストーリーのようだ。半沢直樹が数々のヒヤヒヤした場面に遭遇しながらも最後は必ず勝つように、最終的にはおそらく貰えるであろう母へのプレゼントに思いを馳せてドキドキを飼い慣らすのに必死だ。
 
早速花瓶に新鮮なカーネーションを活けながら、夫にお礼を言う。
「お花、買いに行ってくれてありがとね」
結局、黒幕はこの男なのだ。子供たちが仮にお母さん大好きだと思ってくれたとして、まだ二人だけの買い物がままならないのだから夫が先導してくれなければ、この花束を手に入れることはできなかった。
 
来年の母の日も、世界一バレバレで世界一嬉しいこのサプライズギフトを受け取るべく、黒幕が「花を買いにいこう」と思える程度には母業を頑張る所存である。
 
 
 
 
***
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