ショートカットの天使に危機的状況を救ってもらった話
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:パナ子(ライティング実践教室)
明らかに様子がおかしい。
そう感じたのは週初めの月曜日、これから家族がそれぞれ出発する準備で忙しくなるぞという、朝七時をまわった頃だった。
まだ寝室に寝かせておいた5才の次男が呻くような声で泣いている。
先週金曜日の夜中に突然嘔吐した彼は、土曜の診察でウイルス性胃腸炎と診断され自宅療養の最中であった。
嘔吐は土曜のうちに完全に止まり、下痢は続くものの少しずつ元気を取り戻した。
昨夜いつもと変わらない感じで遊ぶ様子に、完全に油断していた。
朝ごはんを作る傍ら、リビングに敷いたクッションに寝かせて様子を見る。
「うーん……うーん……」
やはり苦しそうな表情で絞り出すように泣いたかと思うと、ほとんど開いてないような虚ろな目をする。意識がある状態と無い状態を行ったり来たりしているように感じる。
なんだかよくわからないけど、多分、これは……やばい。
母としての直感だった。
熱もなく、嘔吐もない。また、ギャン泣きして何かを訴えているわけでもない。しかし、その初めて見せる虚ろな表情は、昨夜までの回復傾向を一気に覆す危険なシグナルに思えた。
もう一度受診するべきだ。
長男と夫を送り出すと、簡単に身支度を整え、次男を抱っこして車まで運んだ。
8時15分頃小児科に到着。
受付は8時に開始するが、診察は9時からである。
小児科の月曜の朝はだいたいどこも激込みで、土日に救急に走るほどではなかった病状や、念のため登校登園の前にお薬をもらおうという小さい患者たちで溢れかえっている。
敷地内の駐車場に停めた車内で、ぐったりしている次男に「受付だけ済ましたらすぐ戻るからね」と声を掛け一人受付へ急ぐ。
既に数名のスタッフがいたが、私の受付をしてくれたのは、その中でも特に優しいショートカットの看護師だった。
保険証やこども医療症を出して、受付札をもらう。
「どうされました? 土曜に一回受診されて……再診ですね?」
メモを取りながら確認する看護師に、今朝のおかしな様子を話したあと思い切ってこう言った。
「救急車を呼んだ方がいいのかもしれない、と思った程です……」
いつもだったら受付を終わらせると待ち時間が長い場合はいったん自宅に戻るのだが、今日はなんだか嫌な予感がして助けを求めた。
それまで優しくも淡々と進めていた看護師が一瞬ペンを走らせるのをやめて顔を上げる。
「もしかしたら脱水の症状が出ているかもしれない。お子さんを連れてきてください。ここで水分補給しながら様子を見ましょう」
脱水!? まるで及ばなかった考えに、頭の中のハテナが一気にビックリマークに変わった。そうか次男は脱水症状に陥っているのか!!
普段から声を掛けなくても勝手にゴクゴク麦茶を飲み干すタイプだから、気にも留めてなかった。
急いで次男を車から連れてくると、受付に一番近い長ソファに横たわらせる。
先程の看護師が乳幼児用のイオン飲料とスポイトを持って登場した。
「30秒に1㏄ずつスポイトを使って飲ませてください」
虚ろな表情の次男を寝せたまま、口元にスポイトを近づけて飲ませる。スポイトが近づいた瞬間だけ薄目を開けてチューと飲料を吸うが、それが終わるとまた白目を剥いたような顔で寝る。
ツバメの母が子供に餌を与えるように、本当に少しずつではあったが、次男は繰り返し繰り返し「命の水」ともいえようその飲料を体内に落とし込んでいった。
20分が経過した頃だろうか。
それまでぼんやりした表情だった次男が、まるで金剛力士像のようにカッと大きく目を見開きながら起き上がって座った。思いがけない急激な反応に緊張が走る。いい変化なのか悪い変化なのか見当がつかない。もしかしたら吐き気を催したのか? そんな事を思っていると、仕事をしながらも見守ってくれていた看護師がニッコリ微笑みながら近づいてきて言った。
「起きる元気が出たね!! よかった。ここからは普通に飲んで大丈夫だよ」
はぁ~~~~~よかった。いい方の変化だった。
看護師さん、ありがとう! あなたは本当の天使だ!!
母ツバメはスポイトを握りしめながら胸を撫で下ろしたのだった。
その後診察を受け、実施した尿検査でケトン体がプラスという結果が出た。
医師の説明によると、ケトン体のプラスはやはり脱水の症状があるときに出るそうだ。特に病状回復期では脱水症状に陥りやすく注意が必要、とのことであった。
約8年母親をやっているが、いまだにこういった危機的状況は不安に襲われるし、慣れることはない。しかし、今回は看護師というたくさんの病気の子供を見てきたプロに思い切って相談する事で大変救われる結果となった。あの時、(これぐらいで大袈裟かも)(他の患者さんもじっと待っているんだし)という遠慮から相談できずに帰宅していたら、脱水の症状をさらにすすめていたかと思うと怖い。
救急車を呼ぶか、小児科の診察までただ待つか。
余裕が無くなるとついゼロ百思考になってしまう私に、プロが指し示してくれた方法は、自分では思いつくことのできない輝く抜け道だった。
ショートカットの天使のおかげで徐々に元気になった次男であったが、頭から離れないのはもちろん水分補給のことだ。
「お茶、飲んだ?」
「もう少し飲んどいたほうがいいかも!」
「寝る前にお茶飲んどこうね」
ますます暑くなる季節が到来しようとしている。
この夏、これまで以上に水分補給にうるさい妖怪茶飲ませババアが爆誕しそうだ。
***
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