メディアグランプリ

ベールダウンの記憶は、きっと心の中に


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記事:おまど(ライティング・ゼミ2月コース)
 
 
「あの……、結婚式に来てほしいんですけど」
 
4年前、結婚することが決まったとき、私が旦那に言ったのは「結婚式はしたくない」ということ。
20代で多くの結婚式に出席し、そこで感じた人前に出ることの“恥ずかしさ”を自分がすると思うと、どうしても積極的になれなかった。
また、このときは新型コロナウイルスの影響もあり、それも相まって自分の思いを強く旦那に伝えたことを覚えている。
しかし、そんな私とは逆に、けじめとして旦那は結婚式をしたい派。
話し合いは平行線をたどった。
そんなとき旦那から「じゃあ、どうしたら結婚式をしてもいいと思う?」と質問された。
「え……。じゃあ、おじいちゃんとおばあちゃんが来てくれるならやってもいいで」
「よし! じゃあ、お願いしに行こっか!!」
「ホンマに!?」
 
私のおじいちゃん、おばあちゃんは、私たちの住む京都から車で約5時間のところにある和歌山県の那智勝浦町に住んでいる。
家から歩いて5分のところに海があるため、町全体に潮のかおりがする。
夜は真っ暗になるため、星がとてもきれいだ。
近くの駅は無人駅で、電車は一時間に一本。
のどかな、いわゆる田舎町。
昔は温泉街として栄えていた名残があちこちに見られる。
有名なのは熊野古道や那智の滝。
そこに住んでいるおじいちゃん、おばあちゃんに会いに、家族でお盆と正月の年に2回帰っていた。
 
私は小さい頃、おじいちゃん、おばあちゃんの家に預けられていた。
なので、小さい頃は、のどかな環境で魚ばかり食べて育った。
おじいちゃんは桃太郎の話しか知らなかったので、毎日毎日桃太郎の話ばかり。
スイカを切ってもらったら、縁側で庭に向かって種を飛ばしたのを覚えている。
そんな私は、小さい頃から、おじいちゃん、おばあちゃんっ子だった。
 
そんな田舎町に行くことを旦那は遠足にでも行くかのように、楽しみにしている様子を見て、「めずらしい人だな……」と思うのと同時に、なんだか嬉しい気持ちになった。
旦那も小さい頃からおじいちゃん、おばあちゃんに育てられていたこともあり、迎えられてから仲良くなるまで時間はかからなかった。
「ゆっくりしてや。運転疲れたやろう。そこで転がってや」という言葉に、初めましてのはずなのに、本当に縁側のところで座布団を枕に昼寝をし始めた旦那の姿を見て、笑ってしまった。
 
「あの……、結婚式に来てほしいんですけど」
「腰が悪いからなぁ。でも、生きてたら行かせてもらうよ」
という言葉に、私は驚いた。
おじいちゃんの腰が痛いからという理由で、妹の結婚式は、ギリギリになって2人ともキャンセルした。
やはり、和歌山から京都までの距離を行き来すること、長い時間、結婚式に出席することはハードルが高い。
それなのに、こんなにもあっさり承諾したことに拍子抜けした。
「大丈夫! 生きてますよ!!」
なんて旦那が調子のいいことを言って終始笑っていたのを覚えている。
 
ただ、おばあちゃんの記憶がその前年あたりから少しずつ薄れていることが気がかりだった。
「まどちゃん、ごはん食べた?」「うん、食べたよ」「あれ? まどちゃん、ごはん食べたかいね?」「食べたよ。さっきも言ったやん」「そうやったかいね。ごめんね。すぐ忘れてしまうんよ」
1日に、何度も何度も同じ質問をされる。
どこに物をしまったのか忘れてしまう。
手順がわからないからと言って、料理をしなくなった。
年だから仕方がないと思う反面、それをうまく心で整理できない自分がいた。
私の中のおばあちゃんは、料理上手で、私のことを一番に思ってくれる優しいおばあちゃんのままだ。
それなのに、同じ質問に対してめんどくさく返してしまう自分がいる。
ハッと気づいて、心の中で「ごめん……」とつぶやく。
 
親族16人だけの小さな結婚式に向けて、どんどん準備が進んでいった。
それぞれの家族に喜んでもらおうと、自分たちなりのおもてなしを考えるのは大変だったが、楽しい時間だった。
その中で、「ベールダウンはどうされますか? お母様にしてもらう花嫁さまが多いのですが……」という話が出た。
私は、少し迷ったが、「おばあちゃんにしてもらいたいです」と伝えた。
 
当日、「本当に、まどちゃん? 大きくなったねぇ」なんて気の抜けることを言われながら、母に付き添われたおばあちゃんにベールダウンをしてもらった。
そして、私たちは家族の前で結婚することを誓った。
 
生きていると、忘れたいことがたくさんある。
頑張っても忘れられない記憶がある。
しかし逆に、どう頑張っても忘れてしまう記憶もある。
でも、だとしても、おばあちゃんとの記憶は忘れたくない。
このまま大切に、一生残っていてほしいと強く願う。
 
あのときのベールダウンの写真を見せても、「まどちゃん、結婚したの?」「これが私? 忘れてしまったわぁ」なんて言って笑っているけれど、あのときの記憶は、きっと、きっと、心の中にあるよね?
 
 
 
 
***
 
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2024-05-30 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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