知らない間に、罪人になっていた私
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:関谷陽子(ライティング・ゼミ2月コース)
「無知は、罪である」
その言葉が講師の口から発せられたとたん、なんて優しくない言葉なんだろうと、大きな衝撃を受けた。場面は、民間の心理学スクールの講義中。基礎コースだったのか、プロコースだったのかはすでに覚えていない。
私のように、子供の不登校をきっかけに、心理学を学ぶ保護者は多い。私が学びの場に選んだのは、ある民間の心理学スクールだった。講座の内容も充実しており、決して安くはないが、高すぎない値段でというのも魅力だった。何よりそのスクールの設立者である講師の話は非常におもしろく、人としての魅力もあり、体験授業を受けた時に、一度でファンになってしまったのだ。
だが、「無知は罪である」という言葉は、当時の私には受け入れにくかった。だって、知らなかったら仕方がないではないか。「知らなかったんだもん、仕方ないよ」そう言い合う文化が、私の周りでは普通だった。
だが、妙に心に残る言葉だったのだ。他にも、講師の言うことの中には、私はそれについては少し違う意見だな、と思うこともあった。それはそれで良いのだ。完全に、自分と同じ意見を持つ人なんていないのだから。でも、その言葉だけは妙に心に突き刺さった。どうしてだろう。そう思いながら過ごしていたある日、ふと思い出したことがあった。
次男が小学2年生で不登校になった後、時々ママ友の話に苦しさを覚えるようになった。そんなある日、次男が不登校であることを知らないママ友との会話の中で、「色々あるけど、不登校やニートにさえならなかったらいいわ」と言った人がいた。もちろん、本人は悪気は全くない。全くないが、私は非常に傷ついたのだ。なによりも、彼女の後ろにある、不登校という状態への偏見を感じ取って、怒りすら沸いた。
不登校は、学校に行っていないだけ。誰にも迷惑なんてかけていない。いろんな理由があって、どうしても学校に合わなくて、行けない状態なのだ。そんな苦しみを、こんな風にネタのようにあげつらう態度に、非常に怒りを感じて、同時にとても悲しくなった。そして、それまで彼女が話していた子育ての悩みに対しても、なんだかんだ言って学校には行っているんだから、贅沢な悩みではないかという怒りもあった。恨みや妬み、そして羨ましさなどがごちゃまぜになった感情に飲み込まれて、その後どうやってやり過ごしたのかも覚えていない。
無知は罪。もしかして、こういうことなんだろうか。
もし、知らなかったからごめんなさいと言われても、あの時感じた私の気持ちは、ゼロにはならない。むしろ、謝られたら許さなくてはいけないような気持ちにもなり、余計に辛くなるだけのようにも感じる。
それと同時に、他のことも思い出した。以前の職場に、不登校の子供がいる上司がいた。たまたま私は知っていたが、同じグループの他のメンバーは知らなかった。不登校でね、そう話してくれた上司に対して、確か私はこう言ったのだ。
「無理して学校になんて、行かなくてもいいですよ」と。二男が不登校になる、2年ほど前の出来事だった。
実際に不登校の子を持つ母となった今は、この言葉がどれくらい残酷なのかが分かる。無理して学校に行かなくてもいいことは、分かっている。でも、行ってほしいのだ。いや、違う。学校が、自分の子供に合った場所じゃないことが辛いのだ。友達と遊びたい気持ちも、学びたい気持ちも持っている。なのに、システムが合わないというだけで、登校できずに苦しむ我が子を見ることが、辛いのだ。
ああ、私は、私を傷つけたあのママ友と同じではないか。あの時の上司はきっと傷ついたと思う。でも、私が悪意を持って言ったわけではないと理解してくれて、「ありがとう」とまで言ってくれたのだ。
私はなんて傲慢だったんだろう。あの時、私は理解のある大人のフリをして、良いことを言ったなあとすら思っていたのだ。不登校という状態にある子を持つ親の気持ちなんて、全く理解できていなかったから。不登校について、表面上の知識しか持ち合わせていなかったから。
無知は罪である。確かにそうだ。そうであれば、私は今まで、どれだけたくさんの人を傷つけてきたのだろう。知らなかったということを大義名分にして。
あの時の講師の言葉がひっかかった理由が、やっと分かった。私は、知ろうとする努力も大してしていないにも関わらず、理解のあるフリ、器が大きいフリをしていた、とっても小さい人間だった。そのことに気付くのが怖かったのだ。
だから、まず知ろうとしよう。自分が知らないことを認めよう。不登校のこと、発達障害のこと、戦争のこと、宗教のこと、LGBTQ+のこと、など。世界は知らない価値観や風習に溢れている。全てを理解することは不可能だけれど、今の自分とは違う世界があることは、常に頭の片隅に置いておこう。きっとそうすることで、不用意に知らない世界の人を傷つけてしまう発言は、減っていくのではないだろうか。
無知は、罪である。今は確かにそう思う。優しくない言葉かもしれない。でも、実はとても優しい言葉だ。それは、見る位置が違うから。
「知らなかったんだから、仕方がないよ」という言葉は、傷つけた人に対しては、優しい言葉だ。でも、この場合本当に大切なのは、不用意に傷つけられた人ではないだろうか。
知らない間に罪を犯さないためにも、優しさの方向を間違えないようにしたいと思う。だって結局、知らない間に誰かを傷つけることなんて、誰もしたくないだろうから。
***
この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」を受講した方が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
お問い合わせ
■メールでのお問い合わせ:お問い合せフォーム
■各店舗へのお問い合わせ
*天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。
■天狼院カフェSHIBUYA
〒150-0001 東京都渋谷区神宮前6丁目20番10号
MIYASHITA PARK South 3階 30000
TEL:03-6450-6261/FAX:03-6450-6262
営業時間:11:00〜21:00
■天狼院書店「湘南天狼院」
〒251-0035 神奈川県藤沢市片瀬海岸二丁目18-17
ENOTOKI 2F
TEL:04-6652-7387
営業時間:平日10:00~18:00(LO17:30)/土日祝10:00~19:00(LO18:30)
■天狼院書店「京都天狼院」
〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5
TEL:075-708-3930/FAX:075-708-3931
営業時間:10:00〜22:00
■天狼院書店「名古屋天狼院」
〒460-0002 愛知県名古屋市中区丸の内3-5-14先
Hisaya-odori Park ZONE1
TEL:052-211-9791
営業時間:10:00〜20:00
■天狼院書店「福岡天狼院」
〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階
TEL:092-518-7435/FAX:092-518-4149
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00