茶の湯で生まれる良質な問い
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:なごみ(ライティング・ゼミ2月コース)
「なんでなんでしょうね」
茶道の先生からの問いかけに、はっとさせられた。
茶の湯の世界はいつも私に良質な問いを投げかけてくれる。
私は、表千家茶道を10年近く習っている。
職人の技が凝縮された道具を使うことや、季節の移ろいをしつらえやお菓子で感じること、禅の精神性を学ぶことなど、いろいろな視点から新しい学びを与えてくれる茶道に魅了されている。
30歳代にさしかかりそうなタイミングで、私が稽古に通っている先生から若者向けの短期講習会をお知らせいただいた。これは、若い世代を家元に迎え入れ、一週間泊まり込みで茶道の修練を行うというものだ。仕事の繁忙期であったが、一生に一回の人生、この機会を逃してはいけないと直感が訴えており、参加を申し込んだ。30歳までを対象としているから、最後のチャンスである。
参加者は作文による選考であったが、参加できると連絡をいただいた時は、どんな世界が待っているのか期待でとても興奮した。
2月の終わり、まだまだ寒い京都で私たちの特別な一週間が始まった。
講習会に同時に参加するのは、全世界から集まった30人程度。日本全国から、そしてアメリカや台湾からも参加者がいた。
一週間、茶道の稽古や講義など、みっちり茶の湯漬けである。スマホをはじめに預けてから、一週間デジタルデトックスの生活をする。毎日、5時に起床し、生活を送る寺の掃除や説法、それから稽古や講義というスケジュールで、終日着物で過ごす。
食事や説法、ミーティングなどは、家元の近くの寺で行い、常に集団行動だ。
現代の便利な生活とはかけ離れた過ごし方に、付いていけるのか少し不安もあったが、不安は全くの杞憂となった。
不安どころか、体験する全てがきらきらと輝く日々だった。
茶の湯の世界では、道具の取り合わせや歴史的な背景、禅の思想、礼儀作法など様々な観点が凝縮されており、小さなことから大きなことまで疑問が湧いてくる。
なぜこの棚にはこのような飾り方をするのか。この道具はなぜこの形状をしているのか。この掛軸に書いてある意味はどういうことなのか。お菓子はなぜ右上にあるものから取るのだろう。
日中の稽古の後、その日の稽古の振り返りを集まって行った。
一人が先生に質問を投げかけた時、先生からの返答が「なんでなんでしょうね」であった。
私は衝撃を受けると同時に、茶の湯の世界の奥深さを実感した。
先生からは、何かしら答えをもらえるものだと思い込んでいた。
しかし、茶の湯の世界では違うのだ。
先生は「なんでなんでしょうね」という問いを与えてくれたのだ。
そして「答えになり得る推測はあるが、答えはわからない。自分の頭で考えなくてはいけない」と続けたのだった。
掛軸に描かれた亀が何に見えるか聞いていた時、アメリカからの参加者はチキンに見えると言った。先生は「そうですね。これは亀が描かれています」と否定せず一度受け止めて返答をされていた。
作者は亀を描いてはいるが、見る人がチキンに見えるのであればそれでいいという思いなのではないかと、私は受け取った。
このやり取りを引き合いに、良質な問いかけがあることが、茶の湯の世界で私が最もひかれていることだ。
ひとつの絶対的な答えなんてない。だからこそ、それぞれが自分の頭で考えなくてはいけない。
講習会では、通常では手にすることができないような大変貴重な道具を稽古で使わせていただき、めったに入れないような茶室に入らせていただき、特別な機会ばかりであった。
その中でも、先生方の立ち居振る舞い、言動に感銘を受けてばかりであった。
常に相手のことを考え、先を読んで行動されており、周囲への思いやりの心を学んだ。
茶道の点前には型があるが、ただ型どおりにお茶を点てるのではなく、相手のことを思うことが大事である。頭と身体の両方をフル回転させた稽古であり、集中力も体力も全力で使い果たしたのだった。
稽古時に見た光景、先生の発言から学んだことは、その場ではメモすることもできないため、ただただ脳裏に焼き付けるしかない。それを稽古が終わってから、振り返りとして記録を残す。
型ではない、目には見えない大事なものを学ぶことができた。
体感をしないと決して分かり得ないことである。
思いやりという目に見えないものを体現されている先生たちでも「和敬清寂とは、言葉ではわかっていても実行することは相当難しい。常に思いを持っていないと到底できない」とおっしゃっていた。
頭で考えることを身体で表現できる人になりたいと強く思い、少しずつでも思いやりを行動に移していきたい。
毎日稽古が終わって見上げた月が満ちていくこと、寺の梅の花がほころぶ様子、一日一日の変化を普段よりも大きく感じ、かみしめながら味わった。
家元で過ごす時間、全てが美しく愛おしいものであり、私にとってかけがえのない財産となった。
特別な経験から学んだことを、一つ一つ反芻して、日々に取り入れていきたい。
***
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