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大好きなご主人様へ


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:にいみひろこ(ライティング・ゼミ4月コース)
 
 
ボクのご主人様は、ボクのことをとても愛してくれている。
ボクが生まれるきっかになったのは、ご主人様のお兄様が亡くなって、足の悪いお母様が一人暮らしになったことだった。その頃、旦那様と別居し、子供2人を育てながら働いていたご主人様は、お母様と子供たちを養うため、ボクを建ててくれた。そう、ボクは、ご主人様の実家の建替えという形で生まれたんだ。
 
そもそも、その実家の土地は借地だったのだけど、ボクを建てることにしたら、地主さんが土地を買ってくれと言ってきたらしい。もう早くに亡くなったご主人様のお父様や、お兄様も、何度も土地を売ってほしいとお願いしたけど、その時は、売ってくれなかったんだけどね。ご主人様は悩んだんだよ。だって、一人で、お母様と子供たちを養っていかないといけないし、土地を買うお金は想定していなかったから。
でも、地主さんが相場より随分安くしてくれたので、お父様やお兄様の思いを受け継ぎたい気持ちもあって、頑張って土地も買ってくれたんだ。おかげで、ボクは、ご主人様のものになった土地の上に、安心して生まれることができたんだ。
だからね、ボクはますますご主人様の思いの詰まった家になったんだよ。
 
ボクの間取りは、ご主人様が考えてくれたんだ。家族4人、2階建ての4LDKさ。
それまで実家ではお店をやっていて、そこからの出入りがほとんどだったから、ちゃんとした玄関がなかったんだって。だから、ボクにはちゃんと玄関をつくってくれたんだ。靴箱についているおおきな鏡で、みんなが最終チェックをして出かけるのが、ボクは好きだったな。
リビングとお母様の部屋には床暖房がついていて、冬は子供たちもご主人様も、よく床に寝っ転がってるんだ。お湯で温まっている床は、とっても気持ちがいいんだって。でも、お母様は、ガス代がもったいないって、せっかくの床暖房なのに、1、2度しか使わなかったの。笑っちゃうでしょ。
外回りの話もあるよ。
玄関前のところは、ご主人様と子供たちが一緒にレンガを敷き詰めたんだよ。やり方もよく知らないまま楽しんでやっていたから、隙間から雑草が生えてくるんだけどね、ご愛敬さ。
ボクを建ててくれた翌年には駐車場におしゃれだけどがっしりとした大きめの屋根がついたり、その2年後にはウッドデッキがついたりと、少しずつ使いやすさとカッコよさが付け加えられていったんだ。
ね、わかるでしょ? ご主人様が、いかにボクを愛してくれていたか。
 
ご主人様は、一生懸命だったんだ。家族のみんなとボクを守るために、朝から夜中まで働いて、家事もこなした。でも、それはちょっと間違った頑張り方だったのかもしれない。
子供たちが、だんだんと部屋にこもって、出てこなくなった。そしてついに、お姉ちゃんは大学にも行かなくなって、家を飛び出して行っちゃった。
それから1年半後、ご主人様は会社を辞めた。弟くんは県外の大学に行くことになってたから、それまでは家族との時間を増やしたかったし、自分のやりたいことも始めたかったんだ。
弟くんが大学に入るまでのこの半年は、3人ともとても楽しそうだった。弟くんは、今まで甘えられなかった分、「お母さ~ん、学校送っていって~!」って言うことが増えたな。ご主人様も、「またぁ?」と言いながら、うれしそうだったよ。お姉ちゃんもここにいてくれたらと思ったけど、まぁ、それは仕方ない。
そして、弟くんもいなくなって、ご主人様とお母様の二人になった。
 
その後、お母様は、認知症になった。だんだんと短期記憶が持たなくなって、夜中に目を覚ますと「助けて~!」と叫ぶんだ。ご主人様は、何を助けたらいいのか、どうしたらいいのか、聞いても何もわからなくて、夜中に何度も続く叫び声に耳を塞いでしまったこともあったんだ。5年間の介護の末、お母様は、お父様やお兄様のところに旅立たれた。その後しばらくして、お母様がいつも寝ていたベッドに座ってみたときに、ご主人様は気づいたんだって。お母様は、目が覚めたとき、そこがどこかわからなくて、不安で不安でたまらなくて、「助けて~!」と叫んでいたんだろうってことに。ご主人様は、それを気付いてあげられなかったことが、悔しくて、申し訳なかったんだ。「お母さん、ごめんね~」って、泣いてたよ。
このことは、ご主人様にとって、いろいろと考えるきっかけになったんだと思う。
 
それから数年たったある日、知らない人がやってきて、ボクのあちこちを見て回った。そして、「お見積もりが出たら、またご連絡しますね」って言って、出て行った。
え? どういうこと? ボクを売っちゃうの? ボクを捨てちゃうの?
ボクは悲しかった。どうして、ご主人様はそんなこと考えてるのかわからなかった。
もう、ボクを嫌いになっちゃったの? ボクはもういらないの?
 
でも、ボクは聞いちゃったんだ。ご主人様と友達が話してるのを……。
「私がこの家を出ていくのは、きっと施設に入るときだと思うんだ。そのときには、もうここを片付けることはできないよね。もし、認知症になってしまったら、自分で何も判断できなくなる。それが一番怖いんだよね。子供たちに迷惑かけたくないから、今のうちに、身軽になっておいた方がいいかなと思うんだ。」
子供たちのためなのか……。ご主人様にとって、認知症になるかもしれないのは、とっても怖いことなんだね。
 
そのころ、ご主人様は、ボクをよく眺めてた。壁や柱の傷には、いろんな思い出が詰まってる。それを、愛おしそうに、懐かしそうに、やさしく撫でてくれた。
ああ、ボクを嫌いになったんじゃないんだね。ずっと、愛してくれてるんだね……。
 
今、ボクは、新しい家族と暮らしてる。とってもにぎやかな家族だ。こんな幹線道路に面しているのに、このおしゃれでがっしりした大きめの駐車場の屋根の下で、家族みんなでバーベキューをするんだ。びっくりだよね。
最初にバーベキューをしたのは、ここに引っ越してきた次の日。ボクを買ってくれた時から、この駐車場でバーベキューをするのを楽しみにしてたんだって! すごく楽しそうで、それを見ているボクも楽しくなって、なんだか、とてもうれしかったんだ。
そんなとき、目の前の道を通るバスの中に、ご主人様を見つけた。ご主人様は、ボクが喜んでいるのがわかったみたいだった。ご主人様も、喜んでくれたよ。よかったね、よかったねって、うなずいていてくれたんだ。
 
ご主人様は、この幹線道路の先の方のマンションに引っ越したんだって。そのマンションにしたのは、ボクの前をよく通ることになるのも大きな理由なんだって。
ご主人様は、ここを通るたびに、いつもボクを見てくれるんだ。だから、ボクもすぐわかる。
ボクは新しい家族と、楽しくやってるよ。ボクのこと、とっても気に入ってくれたんだ。だから、ご主人様も安心してね。
大好きなご主人様、ボクを建ててくれて、ありがとう!
 
 
 
 
***
 
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2024-06-06 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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