メディアグランプリ

「あんな別れをするなら何か伝えたかった」と思う僕が、今ならなんと伝えるのか考えてみた


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:たぴおCA(ライティング・ゼミ4月コース)
 
 
僕にはずっと心に痛みを感じることがあります。「親友」なんて言葉では片づけられない、かけがえのない人との別れ、その日に何も言えなかったことです。あまりにも一緒にいすぎて。あまりにもそこにいるのが自然すぎて、僕はわかっていませんでした。別れが来るということが一体どういうことなのか。だから、いつもの日々と同じように過ごしてしまったのです。
 
それからずっと、なぜあの時たった一言「ありがとう」って言えなかったのだろうと、ふとした時に思い出してしまいます。もう遅い。一生会えない。そんなことは十分にわかっています。ただもし、あの時と同じ、ちょっと人をおちょくったような表情で「久しぶり!」なんて僕の目の前に現れたら、あふれんばかりのこの思いをしっかり伝えたい。でもなぜかその時がきたら、またうまく伝えられないような気がするのです。だから、今日は伝えたかったことをまとめてみます。彼には届かなくても、それがあの時の自分に対する励ましになるような気がするから。
 
 
ハルへ
ハルとの出会いは小学校でした。それから中学、高校と部活も、なんならクラスも同じ。文字通りずっと一緒にいましたね。そこにいることを忘れてしまうほど、ハルは僕にとっての空気みたいなもので、いなくてはならない存在でした。近くにいることが当たり前すぎて、お別れするということが全く想像できず、つい、いつもと同じように生活してあの日を終えてしまいました。だから、ハルとお別れをしたあの日。ようやく気付いたのです。そばにいるということが、それだけでこんなに幸せだったのだと。
 
覚えていますか? テニス部で迎えた、高校最後の大会。あと一つ勝ったら県大会に出られるというダブルスの試合。あの時、3年間で一番すごかったのではないかという素晴らしいサーブを打つことができましたね。最終的にハルのミスで負けてしまったけれど、あのサーブは同じチームで戦った仲間たちの記憶に、今もしっかり残っています。実はあの時のサーブ、あれ僕のおかげだったことに気づいていますか?   
あの時、僕がそこにいたから、しっかりと力を出すことができたのです。「たしかに応援してくれた人がいたから打てたよ」なんて思わないでください。そういうことではなく、僕があの場にいなかったらあんなに強いサーブは打てなかった、これは間違いなく事実です。「なんだよ、急にスピリチュアル的な話か?」と思いましたか。そんなことを言うつもりはないですし、もちろんハンドパワーみたいな力も僕にはありません。でも、今は「バカだな」なんてニヤッとでもしてもらえたらそれで十分です。
 
ハルとの思い出といえば、どうしたって一緒においしいものを食べたことばかり浮かんできます。中学の部活帰りに買って食べた、からあげ。冷えまくっていてめちゃくちゃかたいのに、なんであんなにおいしかったのでしょう。ハルのお母さんがおやつに作ってくれた、フライドポテトも忘れられません。ちょっと塩ふりすぎじゃないかって、友だちのなかで話題になったのを思い出すと今でも笑えます。あとやっぱりラーメン。家系とかも好きですが、サンラータンメンを見つけたら、絶対一緒に食べましたね。お酢を入れすぎて「ゴホゴホッ」とむせたのを何回見たことか。
 
そんな思い出は数えたらきりがないけれど、今思い返すと一緒にいっぱいお話したのが、最もかけがえのない時間でした。家族、恋人をさしおいて、話した時間でいうと僕がぶっちぎりの1位でしょう? ってそんなにハルは恋人いませんでしたね。何? そんなことで怒らないでください。ただの事実です。これから、もし誰かに「話が上手ですね」なんて言われたら、真っ先に僕を頭に浮かべて感謝するべきでしょう。僕と話しているから、きっと発音もよくなっています。これもスピリチュアルな話ではありません。
 
ご存知の通り、僕はあの時、病気にかかってしまいました。
それまで痛いとか苦しいなんて何もなかったのに。ある日突然
「どんどん菌が体をむしばんでいます」
なんて言われた時の気持ち、想像できますか? 
辛かった。怖かった。
「ここにいるなら、これ以上悪くならないことはあっても、良くなることはない」
そう言われたって、ずっと過ごしたこの場所を離れるなんて、そう簡単に決心はつきません。
「どうせなら、みんな同じ病気にかかればいいのに。なんで僕だけ……何か悪いことをした? ずっとずっとここにいたい。これ以上悪くならないなら、そんなに痛みもないしそれでいいから」
そう思わずにはいられない日々でした。ハルもきっと僕の気持ちをわかってくれていたでしょう? 
「病気が悪くならないなら、ずっとここにいればいいじゃない」
と。それとも
「病気だから仕方ない」と思っていたのですか? 
「新しいところでもがんばれ」って応援してくれていたのですか?
「お前なんかいらない、早くどっか行け」とお荷物扱いしていたのですか?
それがどうしても聞きたかったのです。ハルの口の中から。
 
ハルの気持ちはわからないけれど、僕はあの時に伝えられなかった僕の気持ちを、改めて伝えます。
 
「小さい時から、ずぅっとずっと一緒にいてくれて、ありがとう。もちろん、つらいこともいっぱいあったけれど、思い出すのは楽しい思い出ばかり。僕にはハルしかいない。ハルは僕そのものだった。僕とお別れしてもハルならきっと大丈夫。何があっても歯を食いしばれば、どんな困難も乗り越えられるよ」
 
それが僕の伝えたかったこと。別れの時に考えていたこと。
 
あの時の別れのチャイムが思い出される。
 
 
ガタガタガタグィーン
 
 
「痛みがあったら教えてくださいね」
 
ハルは自分の歯との別れを惜しみつつ、大きく口をあけながら、虫歯の心の痛みに思いをはせた。
「虫歯からしたらこんな気持ちになるわけないか。もっと歯をしっかり磨いとけよ! って怒るだろうな」と想像し、心の中で笑った。
 
“ははは”
 
 
 
 
***
 
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2024-06-06 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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