メディアグランプリ

脳内レベル11歳の53歳のおばちゃんが作文を提出しますよ

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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:小城 由紀 (ライティング・ゼミ6月コース)
 
 
ライティングゼミの受験生はどんな方々なんだろうか。作家やプロライター、その志望者、ブログ投稿やSNS発信で役立てたい、とにかく文に携わる、文章力の高いそんな方々が集まっているところなんだと勝手に推察している。
そう考えると、ほら、私やっちゃたよ。熟練した手練達の中に小学生レベル、という状況。
「小学生」 表現は比喩表現とも言い切れない。なぜなら私は11年前42歳の時に交通事故で頭をやられ、一度脳内記憶メモリが空っぽになってしまったから。
 
11年前の春、横断歩道を歩いていた時のひき逃げ事故に遭い救急車で運ばれた。4度の脳の手術、10日間の昏睡を経て私は目覚めた。この時、完全なるリセット「無」 だった。よく、記憶喪失のたとえで「私は誰? ここは何処?」 のセリフが出てくるが、それも無い。言葉、言語の記憶も無かったから、言葉を発せられなかったからだ。医学的に高次脳機能障害の症状、記憶障害、失語症というものである。記憶障害にも脳のどの部位にダメージがあったかで症状が変わるらしい。
私は左脳のダメージが酷かったためか、生まれてから42歳まで、経験や勉強などで覚えた記憶がするりと抜け落ちてしまったようだった。毎日見舞いに来てくれる夫や実父母、義父母に、あなたはどういう人間で、私達は家族です、と写真や思い出の品などを見せて消えた記憶を取り戻すように説明してくれた。少しずつ自分が何者でなぜここにいるのか、わかって来た。記憶が戻って来たというより、「無」だった頭に昔の記憶を新たに植え付ける作業、というのが正解かも知れない。頭ではこの人家族とインプットしているのに、病院のスタッフと同じように敬語で会話したり、この人が夫と理解できているはずなのに、夫と一緒に暮らす家のイメージが湧かなくて退院間際めちゃくちゃナーバスになった事から、そう思っている。
 
勉強の知識は言わずもがな。もう一度ひらがな、カタカナ、1桁の計算から覚え直しである。リハビリの時間は一年生が使う学習帳、1年生用計算ドリルなんかが机の上に並ぶ。入院1カ月で二年生の計算ドリルに変わってちょうど嬉しかったが、二年での九九に苦労した。というか今でも少しあやふやだ。
物を数える時につける助数字を熱心に教えてくれたのは義父だ。「いち・にち」 「に・にち」 「さん・にち」 という私を根気よく「ついたち、ふつか、みっか」 と教えてくれる義父はいつも楽しそうだった。私達夫婦には子供がいなかったが、孫に教えている気分にでもなっていたのだろう。
 
経験の記憶が抜け落ちるということは、自分の好き嫌いも抜け落ちると自覚したのは、事故から半年以上経ってからだった。
最初の病院に3カ月、リハビリ病院に転院して3カ月、通いでリハビリのレッスンを受けていた時だった。レッスンで自分の好きな色は何か? と問われ、あ、私は黄色やオレンジの暖色系が好きだったと唐突に思い出した。おそらく退院後、従来の生活のいろんな物を急に出会い、改めて色を問われて自覚したのであろう。病院に居た時は「白」が好きと言っていた。目に入る主な物が病院だから白が多かったからだろう。ある意味わかりやすい。
 
食べ物についても似たような体験がある。こちらは覚醒して3-4週間後の事だ。栄養補給は点滴等、スープのような流動食、刻み食を経て通常食となった。通常食への切り替えの指示を出したドクターが私に聞いた。
「もうなんでも食べられるよ。今、1番何が食べたい?」
これにゆっくり、ゆーっくり考えて答える。
「フォワグラ」
なぜそんな答えだったか。ベットサイドに母が私の結婚式の時のアルバムを置いていて、この時のフォアグラが最高に美味しかった、と母の思い出が私の脳内メモリにインプットされたばかりだったからだ。
「フォアグラか〜。それは先生も食べたい。でも病院では出ないかな〜」 と苦笑混じりに先生。続けての質問「2番目には?」
私の回答「バナナ」
これもその日の朝食で同室の患者に出たばかりだった。どちらも、好きな物ではあるが、今となっては1番、2番に出てくる物ではない。
ちなみにこのフォアグラ発言が夫にインプットされて、2年後に退院して外出制限が無くなった記念に食べられることになったが、バナナは発言した次の日、即、叶えられることになった。食べ物の好みはそれから11年で色々経験して少しずつ思い出した以前のものには近づいているとは思うが、少しは変わっていると思う。ただしこれは記憶の覚え直しがうまくいっていないというより、歳を重ねて好き嫌いが変わったという事だと思う。
 
文章を書くという事についてだが、前からそんなに積極的に行って来たとは思えない。実際、過去のスケジュール帳は残っていたのだが、日記なんかはほとんどない。飽きっぽいところがあるので、一時期だけ日記代わりのブログをやっていたこともあるらしいが、そのログイン方法のメモ等を残していないために管理できず、ひっそりとネット界のゴミとして生き残っているらしい。2年ほど不定期更新の記録だった。
 
高次脳機能障害のリハビリで、とても重要視されていたのは作文である。それも鉛筆と紙を持っての筆記である。私は数々あるレッスンでこの作文というのが苦痛だった。状況を頭に描いて、それを言葉で説明する、しかも漢字とひらがなカタカナを思い出して書く。この一連の、普通であればスラスラとできるはずが、難しかった。一緒に受けた友達の中には毎日日記をつけて子もいて、その一生懸命さが眩しく感じたこともある。
そんな私がなんの因果かライティングゼミに出会ってしまった。これは10年ほど逃げていた、書くこと、文章を紡ぐことにいい加減向き合いなさいと、運命の神様あたりにハッパをかけられたのか。この修行を頑張りなさいと脳のどこかがシグナルを出している気がする。この2000文字程度を書くこともやたら時間をかけているが、少しずつ自分を表現することに慣れるように、頭だけ小学生5年生の53歳のおばさんがここに作文を先生に提出してみたいと思う。
 
 
 
 
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2024-06-20 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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