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タカシくんの親友

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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:珠海(ライティング・ゼミ4月コース)
 
 
※ この記事はフィクションです
 
 
タカシは小学年生の夏休みに、両親に連れられて母方の祖父母の家にやってきたのだが、母親はもちろん、父親も祖父母までも生まれたばかりの妹のメイの面倒ばかりみて、いつもタカシのことは後回しだった。
 
「子どもの頃、近所の男の子と一緒によくカブトムシやクワガタを捕まえたのよ」
「今度おじいちゃんとおばあちゃんの家にいったら、一緒に探そうな!」
母が話すたびに父が言う言葉をタカシは信じていた。今朝も早起きして一緒にカブトムシやクワガタを探しに行く予定だったのに、父が起きてきた時間は8時を過ぎていた。その後もメイの相手ばかりして、タカシとの約束を忘れているようだった。
 
 
ふてくされたタカシは1人で汗だくになりながら、祖父母の家から続く砂利道の上を歩いていた。道の横には林があり、逆側には青々とした田んぼが広がっていた。
 
「つまんないの! せっかくカブトムシとかクワガタをとって、学校で自慢しようと思ってたのに!」
 
誰に言うわけでもなく、ムシャクシャした気持ちをぶつけるかのように、道端の小石を蹴った。蹴った小石をまた蹴って、と繰り返しながら前を進んでいくと、林へ入る横道に黒くて小さなものが動いているのを見つけた。ゴキブリかと思って触るのをためらったが、よく見ると小さなクワガタだったので、思わず捕まえてしまった。
 
「しまった、捕まってしまった~!」
「わあ! しゃべった!!」
なんとクワガタがしゃべりだしたので、驚いたタカシは握りつぶしそうになった。
「あれ、お前、俺の言っていることがわかるのか?」
クワガタがまた話し出したので、タカシは声も出せず激しく首を縦に振った。それを見たクワガタは、タカシの様子なんてお構いなしに自分のことを話し始めた。
 
 
どうやらこのクワガタは雄で、コクワガタというらしい。元々小さい品種で、これ以上大きくなることはなく、すでに大人のようだ。大きいクワガタと同様に人間に捕まったり、鳥や動物に食べられたり、と、小さいからと言って油断できないようだ。このコクワガタは餌を求めて移動中にタカシに見つかったそうだ。
 
「クワくんは命がけで生きてるんだね……」
小さなクワガタを相手だと、いくら大人だと言われても敬語を使う気にはなれない。タカシはそのままコクワガタと話しながら、祖父母の家まで連れて帰ることにした。
祖父母の家の近くまで来ると、タカシを探しに来た父と出会った。コクワガタを見た父は、タカシとカブトムシやクワガタを探しに行けなかったことを詫び、子どもの頃に使っていたケースを探し出してきて、手慣れた様子でコクワガタの家を用意してくれた。
 
 
「おい、タカシ! これ、めちゃくちゃうまいな!!」
クワくんは何でも食べてくれたが、特に気に入ったのは昆虫用のゼリーだった。
「きゅうりやスイカもうまいけど、すぐおしっこがしたくなるからな。人間みたいに水で流してくれるのがあればいいけど……」
案外きれい好きなクワくんのために、タカシは寝床の藁やおが屑を、毎日交換したり掃除をしてやった。
 
―メイもおしっことうんちをしたら気持ち悪いはずだよね―
タカシはふと思った。
 
お母さんはメイが泣くと、オムツを替えたりおっぱいを飲ませたりしている。一方のクワくんは、寝床が汚れるとタカシに言ってくるが、餌を十分に用意しているのでお腹が空いたということはない。メイはクワくんの何倍も泣いて手がかかるのだ。
 
「お母さん、僕が赤ちゃんの時も、メイみたいに泣いてばかりだった?」
「そうよ。赤ちゃんはお話しできない代わりに泣いて教えてくれるのよ」
 
―僕も赤ちゃんの時はメイと同じだったんだ―
タカシはお母さんから自分の赤ちゃんの頃の話を聞き、みんながメイばかりをかまっていることにやきもちを妬いていた自分が恥ずかしくなった。
 
 
クワくんの世話をしたり話したり、毎日することもあったので、大人たちがメイばかりを構っていても、タカシは気にならなくなった。タカシ以外にはクワくんの声は聞こえていなかったのだが、クワくんとタカシが話している様子を、大人たちはニコニコと見守ってくれていた。
やがて、タカシの夏休みも終わりが近づいていた。母とメイはもうしばらく祖父母の家にいることとなった。父は仕事のため一足先に家に戻っていたが、タカシを迎えにやってきた。タカシはクワくんを連れて帰ろうとしたが、クワくんは嫌がった。
 
「タカシと一緒にいれば、きれいな家に住めておいしいゼリーも食えるから最高だよ。外は危険もいっぱいだし、きれいな所ばかりじゃない。でもここ以外の場所に行くのは怖いんだよ」
タカシは淋しかったが、クワくんの希望を叶えようと思った。
 
 
父と帰る日の朝、タカシはクワくんと出会った砂利道の横にある林に来た。
 
「人間に捕まって戻ってきたのは、俺だけじゃないかな。人間に捕まるとうまいゼリーを食わしてもらえるから悪くないって、仲間にも伝えとくよ」
得意そうに話すクワくんの横に、タカシは好物のゼリーを置いた。
 
「クワくん、来年の夏、またゼリーを持ってここに来るよ。そして一緒に遊ぼうね!」
 
 
 
 
***
 
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2024-07-18 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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