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ヘッドライトのやさしさがわかる大人でいたい


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:鈴木(ライティング・ゼミ6月コース)
 
 
大人になるってどういうことだろう?と思いながら、ずっと生きている。
 
親元から離れて、自分でお金を稼いで、自分で生活できるようになること?
正社員になって、安定した収入と安定した生活を手に入れること?
結婚して家族を作り、子どもを立派に育て上げること?
人から傷つくことを言われても、自分で自分の機嫌を取れるようになること?
 
私は、ここ5年ほど、車が欠かせない生活をしている。
徒歩圏内にはスーパーや病院がなく、運転をしないと生活ができない時期もあった。
だがその運転は全く楽しいものではなく、運転免許取得後に何年もペーパードライバーだったから運転の仕方を忘れていそうだったし、人間とぶつかると圧倒的に車の方が強くていつか人を殺してしまうかもしれないと思うと、とにかく怖かった。
 
それでも仕方がないので運転をし始めると、教習所では教わらないマナーやルールがあることに気付いた。
例えば、感応式の信号ではセンサーに感知される場所で停車しなければ信号が変わらないとか、片側一車線の山道では遅い車は左に寄って追い越させた方がいいとか、工事のために道路上で停止するときには、後続車に知らせるためにハザードを点けること、などだ。
 
そして最近、あるルールの仕組みを自分なりに理解した。
それは、ヘッドライトを点けるタイミングがいつなのか、ということだ。
 
運転してみるとわかるが、ヘッドライトを点けるタイミングは、人によって異なる。
夕方、街灯が点き始めたばかりのまだ明るい時間帯からヘッドライトを点ける車もいれば、もう少し時間が経って周囲がしっかり暗くなってきた時間帯にヘッドライトを点ける車もいる。
 
私自身は「周りが十分に見えているのに、夕方からヘッドライトを点けているのはなぜだろう」と思っていた。
早めにヘッドライトを点けている人は単純に「お年寄りで目が見づらいのかな」「自動でヘッドライトが点くから特に意識していないのかな」などと考えていた。
 
だが、運転をするようになってしばらく経ったあるとき、ふいに気付いた。
夕方の少し暗くなってきた時間帯からヘッドライトを点けてくれた方が、ほかの車が近づいてきたことに早めに気付くことが出来て、運転がしやすい。
特に雨の日の夕方は相当視界が悪く、ヘッドライトを点けていない暗い色の車が近づいてきたら、目視で確認するのは結構難しい。
こういう時は、他人の車がヘッドライトを点けているかどうかで、まったく見え方が異なるのだ。
 
どうやら車のヘッドライトは、「自分が周囲を見やすいようにするため」だけではなく、「周囲の人に自分の車の接近を伝えるため」にも使うことができるようだった。
 
そんな風に考えたことがなかった。
ヘッドライトを点けると言う行為は、自分の視界をクリアにするために存在しているとしか考えていなかったから、当然のように、ほかの人もその人自身が見やすくするために点けているのだと思っていた。
早い時間からヘッドライトを点けることで、自分の車の接近に気付かせて事故を防ぐという、他者視点に立った行為だったとは。
それ以来、私は夕方に差し掛かったころからヘッドライトを点けるようになった。
自分の視界もクリアになるし、ほかの人に私の車が近づいていることに早めに気付いてほしいと思っているからだ。
 
これに気付くと、こういうことって生活の中にもあるな、と言うことに気付いた。
 
過去に職場の先輩が、昼休みにご飯を食べた後、読書をするようになったことがあった。
その時はただ「あ、先輩が本読んでる。いいなぁ余裕があって」と思っていた。
あれは今思えば、業務に追われて昼休みに休憩せず仕事をし続ける私に、「昼休みというのは休憩をする時間だ」ということを、自らの行動によって伝えようとしてくれていたのかもしれない。
 
私から連絡すれば遊んでくれるけれど、相手からはあまり連絡をしてこない友だちがいる。
私にとってみれば、自ら連絡をしないというのは、コミュニケーションを取る気がない、と言う意思表示だ。
だけどその相手と私との関係性はうまくいっていて、私も何の不満もないから、この場合、お互いに今のやり方がベストだと思っているのかもしれない。
 
職場のせっかちな人から「これやりましたか?」「あっちはもう準備できてるんで」「この辺片づけてもう事務所戻りますね」と言われて、私の神経がすり減ることがある。
私からすると、急かされることがプレッシャーになって、正直苦しい。
だけどそれは、私のミスを防ぎ、負担を軽減し、早く帰らせてくれようとしているのかもしれない。だとしたらこれは、やさしさというべきものだろう。
 
他人の行動が、他人の都合で行われるのは当たり前のことだ。
そんな他人の行動を見て、せっかちな人、わがままな人、失礼な人など、マイナスに捉えてしまうことがある。
そうやって自分にとってわかりやすい型にはめないで、他人の視点に立って考えてみると、案外、その人はその人なりの都合で、私のためを思って行動してくれているのかもしれない。
 
そんなことを考えていると、こんな風に相手のことを想像して行動に移すのは、そしてその気遣いに気付くことが出来るのは、大人になるということの第一歩なのではないだろうかと、ふと思った。
 
ヘッドライトを点けるのは自分のためだけではなく、他人のためでもあるということに気付いたら、大人の世界が少しやさしくなった気がした。
 
 
 
 
***
 
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2024-07-18 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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