広重ブルーに学ぶ人生観――優しさと強さのグラデーション
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記事:Ranun(ライティング・ゼミ6月コース)
衝撃の青に出会った。
なんという青だ! と思った。
あざやかで、さわやかで、目が覚めるような冷たい青。
長らく生きてきたというのに、一度も見たことのないような青だった。
通称「広重(ひろしげ)ブルー」というらしい。
先日美術館で見た絵師、歌川広重氏の浮世絵にある青色のことだ。
何気なく見ていると、どの絵にも青が入っていることに気がついた。
次の絵も、その次の絵も、海や空はもちろん、アクセントとしての青も効果的だった。
まるで青い宝石、ラピスラズリのようにキラキラしていた。
とにかく美しいこの色、藍と紫の中間といえばしっくりくるだろうか。
神秘の色という表現がぴったりかもしれない。
正式名は「ベルリンブルー」または「プルシアンブルー」というそうだ。
ドイツのベルリンで発見されたことに由来していて、「プルシアン」というのは、ドイツの旧名である。
ときは江戸時代までさかのぼる。
粉状の人工顔料「ベルリンブルー」が輸入された。
水で薄めて絵具として用いると、和紙との相性も良く、その発色は極めて美しい。
たちまち絵師たちを虜にしたのだ。
広重も「ベルリンブルー」を初めて見たときは、なんという青だ! と思ったにちがいない。
「この青が生きるのは空だ!」
と、実際に叫んだというから、その様子が目に浮かぶようだ。
広重は風景画を好んで描いていた。
地味だけれど温かみのある絵だ。
だが当時人気があったのは、躍動感あふれる派手な画風だった。
美人画や役者絵が売れていた時代、広重にはヒット作がなかった。
そんなとき出会ったのがこの「ベルリンブルー」である。
奇跡の青は、広重の風景画のなかで冴えわたり、見違えるように輝いた。
と同時に、広重自身も一躍スターになった。
しかも、その活躍ぶりは海を越えて異国へ逆戻りし、あの名画家ゴッホやモネも、広重の絵を模写したというから驚きだ。
世界中に名を知らしめた、まさにアメリカンドリームのようなお話である。
誰もが認めた「広重ブルー」の称号は、いま現在も息づいている。
ひとつの色との偶然の出会いが、人生を激変させ、自分の名前が色を象徴する呼び名となるなんて、なんと素敵なことだろう。
自分にもこんなふうに運命を感じる出会いや、出来事があっただろうか、とふと考えてしまった。
いままで歩んできた道のりに想いを馳せてみるも、思い当たる節はない。
平凡な人生だった。
しかし本当にそうだろうか。
つかむべきときに、つかんでこなかっただけではないか。
平和ボケした日々を、ただ流されるまま生きてきただけではないか、と思うと、なんだか虚しくなり、人生を無駄にしてきたように思えてきた。
そもそも浮世絵を見に行こうと思ったきっかけは、ある小説の主人公の人生観に触れてみたかったからだ。
浮世絵師だったその主人公は、晩年を迎え、時代の波に流されてしまったことを後悔していた。庶民に愛されるため、流行りの絵を描くために、本当は描きたくないものを描いていたのである。
それならいっそ、この憂き世に身をゆだね、享楽におぼれるしかない、と考えていた時期もあったのだ。
ある意味狭い世界で生きていた主人公は、どんな気持ちで毎日絵を描いていたのだろうか、自分の信念を曲げることに抵抗はなかったのか、そもそも信念はあったのか、ということがモヤモヤと心に引っかかっていた。
もしかすると、私もこの物語の主人公のように生きてきたかもしれないと、薄曇りのような思いを胸に抱いていたのだ。
しかし「広重ブルー」に出会い、広重という人物を知ることで、すっかり心が晴れていった。
彼のように信念を貫いた絵師もいたのだと思うと、なんだか勇気が湧いてきた。
広重は、描きたくないものは描かなかっただろうし、たとえ時代に背いていても、自分の信じる美を追求していた。
脚光を浴びたかったわけでもない。
「時代がオレについてきた」だけだ。
真摯に成すべきことを成していたからこそ、思いもよらぬプレゼントをいただけたのだろう。
広重の素晴らしいところはそれだけではない。
彼は新しい青に出会ってからも、古い青を大事にしていた。
グラデーションの技法で、古い青も、新しい青も、活躍させたのだ。
瞬時に悟った。
これは広重の人生の縮図だ! と。
下積み時代に、応援し、支えてくれた周りの人々への温かい感謝の気持ち、そして、これだ! と思ったものをつかんで逃さない意志の強さや、自分を変えようという挑戦心、この「優しさと強さのグラデーション」こそ、広重が伝えたかった人生観なのではないかと思った。
なるほど、人生が激変するようなプレゼントを手にするということは、その人の器の大きさと深くかかわっているような気もした。
私の人生は平凡だったかもしれないけれど、ささやかなプレゼントは日々転がっていたはずだ。憂き世に流されていたわけではない、ちゃんとそれを掴んで生きてきたはずではないか。そんなことをひしひしと感じた。
ああ、なんだかすっきりしたなあ。
そう思って美術館から出ると、空には晴れわたる青が広がっていた。
「優しさと強さのグラデーション」がここにもあった!
これは広重からのプレゼントに違いない!
自信をもって強く生きて!
というエールを、確かに受け取った瞬間だった。
***
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