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若い人だけのものじゃない! 高齢者の人生を変えるYのパワー


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:かたせひとみ(ライティング・ゼミ6月コース)
 
 

お盆を迎え、義母の墓参りへ行った。墓石に手を合わせながら思う。「お義母さんにもアレを見せていたら、ちょっとは違ったのかな」と。
 

義母はおととしの夏、82歳で亡くなった。20年ほど前に亡くなった義父の死を深く悲しみ、その悲しみは生涯癒えることがなかったように思う。義母は義父を思い出しては涙し、義父に申し訳ないと、旅行などの楽しみを遠ざけていた。ただひたすら供養にすべてを捧げる、まるで武士の妻のような人だった。
 

その義母に、アレを見せたかった。見せていたら、義父亡き後の人生がもう少し違ったのではないかと思う。
 

アレというのはYで始まる動画共有サイトのことだ。若い人が見るものと思っていたが、高齢者こそ見て欲しい。
というのも、私の母がYを見てから人生が劇的に変わったからだ。
 

昨年、実家に帰ったときのことだ。私は暇つぶしにYをテレビにつないで見ていた。
「それ、なあに?」と母が興味を示す。
「ああ、これね、いろんな動画が見られるんだよ」
説明しながら、私は母が好きそうな某演歌歌手の動画を試しに見せてみた。すると、母は少女のようにキラキラとした目で、画面を食い入るように見つめていた。
 

しばらく動画を見た後、母は「自分もこれを買って覚える」と言い出した。すっかりYに魅了されたらしい。あのパソコンもスマホも、すぐ挫折した母の言葉に私は心底驚いた。
 

「電源が入らない」は、序の口。
「マウスが届かない! 延長コードを買ってきてちょうだい」も、まだ可愛い方。
 

「変なメッセージが来て気持ち悪い」と騒いだこともあった。「1日に何回も『アベックでデートしてください』って来るの。私みたいな婆さんとデートだなんて……」と言いながらも、若干まんざらでもない様子。
 

一体どこの誰がそんなメッセージを? ロマンス詐欺か? などと思いながら画面を見ると、それは「アップデートしてください」というただの通知だった。デートと言う言葉に反応しちゃったんだね……。年取っても女子だものね。
 

結局、母は「年を取ったら覚える」と言い(既に年を取っていたのだが)、パソコンやスマホの習得を諦めた。そうしてスマホの通話機能しか使わなくなった。
 

その母が、80歳にして、自ら覚えたいと言うなんて! 最初は冗談かと思った。しかし、本人は大真面目だった。使い方を教えているときの真剣な眼差しは、過去にパソコンを教えていたときとは全く違っていた。熱心にメモを取り、私の説明も一字一句逃さないという意気込みが伝わってくる。同じ人物とは思えないほど前のめりな姿勢に、こちらがタジタジになるくらいだった。
 

とにかくYの動画を見たいという気持ちが、それほどまでに強いのだろう。高齢者であろうと、心が動けば体も動くものだと知った。心が動くと、人はここまで変わるのかと、我が母ながら驚かされた。
 

最初のうち、母は動画を眺めているだけだったが、それだけでは飽き足らず、歌詞をメモして一緒に歌うようになった。そのうち、歌に合わせて運動するというオリジナルメソッドまで考案していた。時には友達を呼んで一緒に鑑賞会を開くこともあり、毎日が楽しそうだ。
「Yで人生が変わった」と母は言っていた。そこまで言われて、Yもさぞかし嬉しいだろう。
 

そして、驚いたことに、Yで人生が変わったのは母だけではなかった。
バスで隣り合わせた高齢女性も同じことを言っていたのだ。
 

「私、Yで人生が変わったんだよねー」
ん? どこかで聞いたセリフだ。私は高齢女性たちの会話に、つい耳を傾けてしまった。
その女性は70代後半だろうか。たまたまYの動画を見て、男性4人組のスーパー銭湯アイドルを知ったそうだ。そして、今ではその推し活で毎日が忙しいとのこと。毎日動画を見て、ライブに行き、ライブにお洒落していくために身だしなみにも気を使うようになったそうだ。推し活を始める前は、娘や孫に少しでもお金を残そうと倹約して暮らしていたが、「全部使い切って楽しんで死ぬことにしたの!」と朗らかに笑っていた。
 

Yで人生が変わるなんて思ってもみなかった。
義母にもYを見せてあげていたら、晩年の暮らしが違っていただろうか。彼女が好きだった往年の昭和のスーパースターの動画や、中高年に人気のアイドルの動画を見せてあげていたら、人生が変わっていただろうか。
 

もしかしたら、いつもどこか寂しげな顔をしていた義母の心にもときめきが生まれたかもしれない。「ったく、もう! いつ電話しても家にいないんだから!」と私が呆れるほど出歩き、心の底から楽しそうに笑い、人生を謳歌する義母の姿を見ることができたかもしれない。
 

亡くなった今となっては、検証することもできない。義母に対してできることはすべてしたつもりだが、このことだけはちょっぴり悔いが残るのだった。
 

だから私は、同じように独り身で寂しい思いをしている母や義母の話をする友人や知人に、「Yを見せてみてー!」と勧める。
「もしかしたら、お母さんやお義母さんの人生が変わるかもしれないよ」と。

 
 
 
 
***
 
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2024-08-22 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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