語学で味わうスパイのような暗号解読の快感
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記事:中村はるみ(ライティング・ゼミ9月コース)
本屋で語学テキストを見ているとワクワクする。
見たことも聞いたこともない言語のテキストを見つけると、嬉々としてページをめくる。
趣味が語学という私を、旦那さんは「また買ったの?」と呆れた顔で見ている。
小学生の頃から英語に興味があった。
正確には英語に限らず、フランス語もドイツ語も、語学全般に興味があった。
20代の頃は毎年4月と10月に何冊ものラジオの語学テキストを買い込んで、散財するのが恒例だった。
季節になると起こる花粉アレルギーのようなものである。
幸か不幸か、この発作はたいてい1カ月で静まるのだが……。
世界中を旅行するために語学を学びたいのだと思っていた。
でも、それなら英語を学ぶだけで充分だ。
英語は世界共通語と言われるくらい、多くの国や地域で通じるからである。
観光で行く所なら、なおさらだ。
ところが私は、たくさんの言語に興味がある。
スペイン語や韓国語のようにテキストが豊富にそろっている言語から、ギリシャ語やアラビア語など、一生に一度旅行に行くかどうかの言語までテキストを眺めてきた。
私の語学好きは、旅行が理由ではないようだ。
子ども時代を振り返ると英語以外で大好きだったものが、もう一つある。
推理小説だ。
小学生の時にはシャーロック・ホームズを全巻読破し、中学生の時にはアガサ・クリスティーを全て読み終わっていた。
江戸川乱歩やブラウン神父など、世界的に有名な探偵シリーズ作品も読み漁っていた。
中学生の時に友人と探偵ごっこをしていたことを思い出す。
出題側が先に本を読んで、どのページから探偵の謎解きが始まるかを調べておく。
解答側は指定のページまで読んで自分の推理を話す。
推理が的外れなら読み直し、ある程度当たっているなら読み進めてもいいと許可を出す。
友人と役割を交代しながらアガサ・クリスティーを読み進め、二人で推理合戦を楽しんでいた。
そうか、私は「分かった!」の瞬間が好きなのだ。
解けた、分かった、当たった、そんな瞬間にたまらない幸せを感じる。
汗だくになって登った山頂から広大な景色を見た瞬間のように、解放感や充実感を体中で味わえるからだろう。
私にとって語学は暗号と同じなのだ。
目の前の意味不明な文字の羅列が、ある瞬間にきれいな日本に変換される。
意味が分かった瞬間に味わう、あの爽快で幸せな気分がたまらない。
ひらめきクイズが解けた瞬間のように。
アリバイを崩して犯人を特定した瞬間のように。
暗号を解読して、敵のアジトを突き止めた瞬間のように。
暗号の作り方にはいくつか種類がある。
共通鍵方式とかアナグラム(並び替え)方式とか、ルールに従って作られている。
ちんぷんかんぷんな文字列も、ルールを見破れば読めるようになる。
複数のルールを組み合わせた複雑な暗号も、ルールを解除すれば簡単に読める。
誰が読んでも同じ意味になる。
文系と思われがちな暗号も語学も、正解が一つしかない理数系の学びだったことに気づいた。
暗号のルールにあたるのが、語学では文法である。
文法を少しずつ理解していくと、まるで暗号を解くように言語がクリアに見えてくるのだ
敵や犯人を突きとめる時のように、文法の謎を一つ一つ解き明かしていく。
すると陰謀の全体が明らかになり、文章の意味が分かるのだ。
過去形ならこの単語の語尾はこう変化する。
命令形なら単語の並び方がこう変化する。
この単語は、この単語と一緒に使われると別の意味になる。
文章を文法に従って頭から読み解いていく。
ルール、すなわち文法さえ分れば語学は簡単だ。
文法が多すぎて、覚えるのが大変という問題はあるが……。
検定試験で英語の長文を読んでいる時も、気分は超一流スパイである。
ジェームス・ボンドやチャーリーズ・エンジェルのように、ドラマの中で活躍するスパイ達も暗号を解読すれば作戦が大きく前進する。
試験だからではなく、合格するという任務を達成するために、ドキドキしながら問題を解いていく。
子どもの頃は探偵ごっこ、大人になってからはスパイごっこを楽しんでいるのだ。
日常会話や試験に出る語学は、芸術作品のように見る人によって解釈や意味が千差万別で正解がない、なんてことはない。
正解は常に一つだ。
解釈の違いが生まれると、勘違いとしてコミュニケーションをこじらせる原因となってしまう。
ゴッホの「ひまわり」を一緒に見ても、旦那さんと私では感想がまったく違った。
彼は明るい色使いが好みで、繊細な感じを受けたという。
私は荒々しいタッチで力強さを感じた。
どう解釈しようと個人に自由で、どちらの感想も正解だと思う。
しかし試験や日常の語学は違う。
一緒に翻訳者として働いていた頃は、同じ日本語の意味にならないといけなかった。
たいていは旦那さんの方が正しく、何度も悔しい思いをしたものだ。
その悔しさをバネに、20代の頃は必死に英語を勉強した。
「分かった!」の幸せな瞬間を味わいたくて、大人になってからいくつもの語学に挑戦した。
中国語やロシア語などはもちろん、世界共通語として作られたエスペラント語や、ヒエログリフといった古代語も趣味でテキストを読んだりした。
たくさんの言語をかじったけれど、今は英語とスペイン語に落ち着いている。
旅行という最初の理由を思い出し、自分の記憶力や理解力も考えた結果、この二つの言語の習得を頑張ることにしたのだ。
携帯やChatGPTなど簡単に使える翻訳機が増え、今は誰でも手軽に翻訳できる。
旅行もあまり不自由なく行って、帰ってこられるだろう。
だが、それでは意味不明な文字列の暗号が明確な日本語に変わる瞬間の興奮は味わえない。
海外の新聞記事を見ると、頭の中でパッと日本語に変換できる。
「分かった!」の瞬間の興奮を味わいたくて、今日も語学テキストを開いて任務を達成しようと頑張るスパイになる。
「よし次の暗号解読に挑む準備ができた」
そんな私を、今日も旦那さんが呆れた顔で見ている。
***
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