うなぎがコンビニ弁当になったが、母との時間は増えた日
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:服部達哉(ライティング・ゼミ9月コース)
高齢の母のため、庭の草刈りをするために久しぶりに帰省したが、実家につくなりトラブルが始まった。
「すいません、本日は他の現場がありまして作業にはいけません。一度見積もり出して後日の作業になります」
「は? なんで?」
頭が真っ白になりながらも、すぐに当日草刈りしてくれる業者を探す行動に移っていた。 時間がない。今日は祝日で、既に13時近くになっていた。
高齢の母が一人暮らしをする実家の空き地は手付かずで、背丈ほどもある雑草で覆い尽くされてしまっているらしいと事前に聞いていた。離れて暮らす母のためには是非とも草刈りをやって、スッキリさせてあげたい。
だが、自分で草刈りをする気は全く無かった。新幹線代は往復で約2万円。予算2万程度で草刈りをしてくれる業者がいれば、わざわざ帰省して自分で草刈りをすることはない、とは思っていた。ただ、高齢で何かと不安・心配を抱える母は家族以外の人との関わりを極端に避けていた。現地立会が不要な業者が見つかったとして、知らない業者が勝手に草刈りを始めたら余計に怖い思いをさせるだろう。
かといって、自分がやってあげると言うと、わざわざ帰省してまで草刈りする必要はない、と言う母からすると、業者を頼んでまでする草刈りはもってのほかだろう。そこで、祝日を利用し、高校の時の友人と飲み会があるため帰省する。夜まで時間があるので実家にも寄るという話にしていた。夜までの間に、草刈りの現地立会をし、母との久々の時間を作るために帰省することにしたのだ。
1万5千円程度の草刈り代行業者を見つけ、帰省2日前に12時開始の予約を入れた。新幹線代往復よりも安い金額だ。この業者が良さそうなら、今後の草刈りも任せられるだろうし、2回目以降は立会も不要だろう。既成事実を作ってしまえば母も納得するだろう、という気持ちで当日を迎えた。
草刈りの立会をし、昼食にはデパ地下で物色したお弁当を食べた後はコーヒーでも飲みに母を連れ出し、夜はうなぎでも食べに行こう。これが久々のプチ親孝行計画だったのだが、そもそもの草刈り業者が現れなかったのだ。
「場所が分かりにくいでしょうか? 気をつけてお越し下さい。お待ちしております」
予定時刻を30分も過ぎた頃に、業者にメッセージを送った返事が冒頭のものだ。一応の状況を東京に残った妻にも伝えた。
「業者の連絡先教えて! 文句言ってやるから」と、電話口で妻はカンカンだった。
「そうは言っても、今は文句言っている場合じゃない。代わりに今から草刈りをしてくれる業者を探さないといけないから、もう切るよ」と早々に電話を切った。文句を言わないと気がすまない妻と、文句を言おうが怒鳴ろうが事態は変わらない。他を探さなくては、と焦る自分がいた。
草刈りのために帰るというと、そんなことのためにわざわざ帰って来なくていい、という母には草刈りのことはギリギリまで伏せていた。この帰省も、夜高校時代の友人と飲み会があるついでに実家によったことにしていたのだ。母に嘘をついていたため、少し後ろめたさを感じながらも、業者を見つけ、立会、作業終了までに残された時間は5時間もなかった。
その後は妻と手分けして手当たり次第に業者を探すことにした。Webや電話で当日草刈り可能、という条件で業者を探した。提携業者を紹介してくれる仲介サービスに登録し、連絡を待つだけだったのだが、そもそも祝日の当日可能な業者自体、見つかる可能性が低かった。
もう母とコーヒーを飲みに行っている場合じゃない。電話を待っている間、近くのコンビニに散歩がてらコーヒーを買いに行くことにした。最近はなかなか散歩にも出ていないという母。予定外ではあったが、秋晴れのその日に母と話しながらコンビニに散歩に行けた事自体はコーヒーを飲みに行くよりはよかったのかもしれない。
問い合わせから2時間が過ぎた頃、業者からの電話がひっきりなしにかかってくるようになった。ほとんどは当日は無理、明日以降なら、という内容ばかり。当日可能な業者が見つかるまで、もう少し待とう、待とう、と思っている間に3時を過ぎていた。
日が短くなったこともあり、作業できるのはせいぜい5時くらいだろう。既に3時を過ぎた今、まだ業者は見つかっていなかった。最終手段としては、母にも理由を話し、立会不要で明日の朝イチで草刈りしてくれる業者がいればそこに頼むしかないな、と思い始めていた。
そんな時、今日は現地見積もりをし、明日作業が可能な業者から連絡があった。わらにもすがる思いで、もうこの業者しかないのかも、と現地見積もりをお願いした。母には、とうとう草刈りを業者に頼んでいて、明日やってもらうように手配していることを打ち明けた。
母はびっくりしていたが、「それで電話ばかりしていたんだね。それで、いくらくらいかかるものなの?」と、金額の心配をしだした。
「うん、今聞いている限りだと、安いところで2万円くらいだってよ」と、概算見積もり額を伝えた。
「え!? そんなにするの?」と驚く母に、「いやいや、考えてみてよ。草刈りやってあげたいけど、新幹線代往復2万円以上かけて素人の自分がやるようなことじゃないでしょ? 業者に任せれば、後片付けもしてくれるんだから、安いもんじゃない。立会もしてあげるから、母さんは何も心配しなくてよいんだよ」
始めは金額に驚いていた母も納得しかけていた時、また電話があった。
「今からですと、5時位になってしまいますが、それでもよろしければ本日うかがえます。ただ、暗くなってしまいますし、近隣の方の迷惑にならないか心配です」
「本当ですか? ありがとうございます。うちは周りが田んぼなので、音は気にしなくても大丈夫ですよ。是非お願いします」
既に4時近くになっていたが、ようやく業者が見つかった。なんとか今日中に終わりそうだ。ようやく肩の荷が降りたが、5時に業者が来て、日没まで作業を見届けてからの夕食となるだろう。目星をつけていたうなぎ屋はその日、7時閉店とのことだった。うなぎにありつけるだろうか……今度は別の心配が頭をよぎる。
ようやく草刈りが終わると6時半を過ぎていた。タクシーアプリで既に10分以上配車を手配しているが、見つからない。東京では考えられないことだ。草刈りは幸運にも予定通り終えられたが、タクシーの手配が出来ずにうなぎはあきらめざるを得なかった。
仕方なく、母と散歩がてら本日2度目のコンビニに夕食を調達に行くことにした。母との外食は、昼はデパ地下グルメ、夜はコンビニ弁当になったけれど、散歩しながら、弁当を実家で2人食べながら、普段電話で話す以上に話ができたことが幸いだった。あわただしく外食に連れ回すよりも良かったのかもしれない。一緒に散歩をし、実家で落ち着いて食事をする。帰りは見えなくなるまで見送ってくれた母との時間を大切にしていきたい。
***
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