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崖っぷちからV字回復させた言葉の力

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:髙木穣(ライティング・ゼミ9月コース)
 
 

「髙木さん、うちは御社を入れた方がいいと思いますか?」
 
私がコンサルティング提案をプレゼンした後の先方の社長の言葉だ。
どうもプレゼンでは納得いかなかったらしい。ただなにか可能性を感じてくれていたのだろう。自分たちで判断すればいいのに、わざわざこちらに質問が来た。
 
「多分いいと思います」
 
私は中途半端な答えをした。実は私はまだ半人前で提案に自信を持っていたわけではなかった。そのため、質問した社長を不安にさせかねない答え方をしてしまった。
 
「ではやりましょう」
 
意外な答えが即答で返ってきた。
こうして私は1年間、この会社の組織活性化プロジェクトをやることとなる。
 
この会社は電力会社の子会社。コンクリートで電柱をつくっているメーカーだ。電柱は概ね全域に設置されたため、需要がなくなってきている。ただ2~3年に1度、大型台風が来るので、その被害で特需が発生していた。その特需で経営は支えられていた。ただ昨今台風の進路が変わり、この特需も発生しなくなったため、親会社からの発注は減り、自立することを求められていた。
 
私は現場を知るために社員にインタビューを行った。
あまり活力が感じられない。ある社員の悩みを聞くと給料が少ないので子供の2人目をつくるかどうか迷っているとのこと。工場の社員食堂にも行ったが、経費削減で小さなコロッケが2個あるだけのとても貧相な内容だった。じり貧感を感じる。
 
「さてどうしたものか」
 
組織活性化の時は問題意識の強い人や現場にくずぶっている思いなどの火種を見つけることから始めるが、見つかりそうもない。何も手がかりを見つけられないまま、インタビューの報告を経営陣に行った。
よくある話だが経営陣は親会社から天下りしている人ばかりだ。そして、なんとなく偉そうな人たちだ。その中の一人は私たちにお金を払っているのがもったいないと思っているのか、なんとかして追い出したいと思っていたそうだ。そこで私は閃いた。
 
「親会社の人がこんなに上にのっかっていて現場の人たちは嫌じゃないかな」
 
もう一度現場の人たちと話に行った。
 
「上はこの事業のことも知らない親会社の人ばかりで嫌じゃないですか?この機会に自分たちの力で運営する会社にしていきましょうよ!」
 
この言葉には目をキラリとさせる人が数名いた。
 
「これだ!」
 
そこから「脱親会社」を改革の旗印に掲げた。社長も親会社から来た人であるが、全然気にはされなかった。むしろ煽ってくれた。ここから社員たちが持っている問題意識や不満を本音で語り合う場を社内で展開していった。徐々に社内のムードは少し前向きに変わってきた。
 
しかし、1年近く経ったときに停滞を迎える。前向きムードが出てきて改善活動などは増えてきたが、そもそもの売上を伸ばす道筋が全く見えないのである。私たちの契約は更新され2年目に移った。ただ停滞をしばらく打破できずにいた。
 
年度初め、社長が思い切った宣言をおこなった。
現在売り上げは40数億円。40億円に達しなかった場合、2つある工場のうちの一つを閉鎖しなければいけない状況。どの工場も地方にあるので、そこで雇用されている人は途方にくれる可能性が高い。そして、だんだんと40億円を切りそうな状況に近づいている。
そんな状況の中で社長は宣言した。
 
「売上高100億円をめざす!」
 
「まさか」幹部も社員も驚いた。私も驚いた。
「どうやって?」当然聞きたくなる。
社長は答える。「わからん」
とにかくやり方はわからないけど、社長の持つ覚悟をしっかり示したということのようだ。
 
数カ月して次の宣言を社長が行う。
 
「鉄に勝つ!」
 
これは事業の方向性を示す宣言だ。社長によるとコンクリートより鉄の方が、用途が多く、羨ましく思っていたらしい。そこで社長の「鉄に勝ちたいなあ」というつぶやきを私たちが拾って事業方針にしたのだ。これまた勝算があるわけではない無茶な宣言ではある。
 
しかしこの宣言で現場の力は活気を帯び始める。
営業は脱親会社といいながら「やっぱり最後は親会社に泣きついて受注もらうしかないか」となってきていたのが、より腹をくくって外を向き始める。親会社の要求にしたがって「折れない電柱」をつくってきた技術陣は「折れない電柱」をつくったことで特需が減ったというような変な言いがかりを社内でつけられていた。鉄に勝つとなればもっと折れないものを追求していいとなり、力を入れ始めた。工場も電柱の時は毎日決まったことを1年間やっていたが、新しい製品生産に必要な柔軟に対応できる生産体制の模索に動いた。
 
そして、なんと電柱以外の製品の大量受注が舞い込む。
 
携帯電話の基地局アンテナだ。これは鉄でてきているが、暴風などで破損するという困りごとをキャッチした。これをなんとかコンクリートで代用できないかということだ。実は電柱の強靭さはどのくらいグニャと柔らかく曲がるかだ。この会社の電柱はすごく曲がるのだ。この技術を応用して基地局アンテナに適用した結果、うまくいった。
 
電柱は、電力会社が各地域にあり縄張りがあるが、この基地局アンテナはそんな縄張りがない。そのため、ここでつくったコンクリートアンテナが全国に納品されることになる。
 
そして…
 
売上高は100億円を超えた。
 
社長の言葉が現実化したのである。
 
「成果=意図+方法」という考え方がある。
意図とは「どのくらいの成果を得ようとおもっているのか」、方法とは「どうやってやるのか」である。この方程式で最も成果が出るのは、やり方はまだなくても、意図がものすごく大きい時だそうだ。大きな意図が先、やり方は後なのだ。
 
社長はまさしくこの法則を実現させた。
この社長は非常にゆったりした感じの温厚な社長である。ただ、親会社の時代は「カミソリ」と異名がつくほどの鋭さを持っていた人らしい。長い経験の中でそもそも持っている温和さが前面に出てきたようだが、宣言を出した時にはカミソリのような決意で言霊を発していたのだろうと思う。私はこの体験で「人の言葉が現実を創る」という力の存在を認識することとなった。
 
それから約20年が経過した。その時から今も、私は言葉を発することの大事さを念頭に置き、仕事を続けている。

 
 
 
 
***

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2024-11-07 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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