泥臭くても輝く背中――内田篤人との出会いが変えた人生
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記事:内山遼太(ライティング特講)
ある日、私は人生の目標を見つけた。それは、サッカー選手・内田篤人との出会いから始まった。
小学校4年生のとき、少年サッカーチームの観戦で、私は彼のプレーを初めて目にした。内田篤人選手、当時21歳。特に体が大きいわけでもない彼は、圧倒的なスピードとしなやかなドリブルで周囲の選手を軽々とかわしていた。小柄で、派手な動きはないのに、なぜか目を離せない。輝いていた。
「こんなふうに、かっこいい大人になりたい」それがそのとき私の胸にわいた素直な感想だった。
あの日以来、彼の姿に心を奪われ、私は両親に頼み込み、何度もスタジアムに連れて行ってもらった。内田選手を目にするたび、なぜか心が震えた。手に入らないけれど「2番」のユニフォームがどうしても欲しいと何度も頼み込み、断られては悔しさを覚えたが、それでも「いつか自分で稼いで買ってやる」と小さな胸に誓った。
しかし中学生になると、部活や友達との時間が忙しくなり、スタジアムへ足を運ぶことは減っていった。少し背伸びした生活のなかで「サッカーを観に行くよりも友達と遊ぶ方が楽しい」と感じることも増えてきた。それでも、内田選手が日本代表の試合に出るときは必ずテレビで応援した。心の奥底に彼への憧れが根付いていたからだ。青いユニフォームで戦う姿は、やはりかっこよかった。
高校に入ると、「かっこいい大人になるために、まずはしっかりとした自分をつくろう」と決心し、勉強と部活に打ち込むようになった。第一志望の高校にも合格したが、努力を続けるうちに「かっこいい大人」って何だろうと疑問に思い始めた。内田選手のような大人になりたいと思いながらも、私の目標は少しずつぼやけていった。毎日が勉強と部活に追われ、気づけば、自分が本当に目指すべきものが何かさえ見失いかけていたのだ。
そんなとき、衝撃のニュースが舞い込んできた。内田選手が膝の大怪我を負い、選手生命が危ぶまれているというのだ。信じられなかった。いつも輝いているはずの彼が、突然、大きな壁にぶつかってしまったという現実を受け入れられなかった。あの輝き続けるヒーローが、もしかしたら引退してしまうかもしれない。内田選手が目の前から消えるという現実に直面し、「かっこいい大人って、こういうもんじゃないはずだ」と心にぽっかりと穴が空いたような気持ちだった。
でも、その後届いたニュースに、私は再び引き込まれた。内田選手が日本に帰国し、地道なリハビリに取り組んでいるというニュースだった。画面に映し出された彼は、過去の輝かしい姿とは程遠く、体は痩せ、痛みに顔をしかめながらリハビリに励んでいた。そんな泥臭く、痛々しい姿を見たとき、正直、失望のような感情が湧いた。「こんな姿を見たくなかった」とさえ思ったのだ。
しかし、しばらくその姿を見つめていると、私の心にある変化が起こり始めた。必死にトレーニングを続ける彼の姿からは、「諦める」という選択肢が一切感じられなかった。彼は、かつてのような美しい姿でピッチに立つことを心から信じ、傷だらけの体でそれを目指し続けていたのだ。
そのとき、私ははっきりと気づいた。「かっこいい大人」というのは、ただ光り輝く存在ではない。「かっこよさ」とは、どんな逆境にあっても、真剣に自分の道を歩み続ける姿そのものなのだと。
高校最後の半年間は、その思いを胸に「自分も、ただかっこよさを追い求めるだけでなく、真剣に目の前のことに取り組もう」と決意し、部活や勉強に力を注いだ。そして、内田選手がリハビリを共にした理学療法士の姿を見て「自分も誰かを支え、力になりたい」と、作業療法士を目指すことを決心した。
その夢に向かって邁進した日々は、厳しい訓練と勉強の連続だった。大変なことも多かったが、内田選手のことを思い出すたび、「ここで諦めてどうする」と自分を奮い立たせることができた。そして数年後、国家試験に合格し、晴れて作業療法士としての第一歩を踏み出すことができた。
そして、内田選手が引退することを知り、私はあの時と同じように両親に頼んで、彼の引退試合を観に行くことにした。私の背中には、憧れの「2番」のユニフォームが揺れている。あの少年の日、手に入らなかったあのユニフォームだ。
スタジアムに響き渡る歓声の中、内田選手がピッチに現れた瞬間、私はすべての記憶が鮮明に蘇るのを感じた。幼い頃の憧れ、中学時代の夢、そして彼がリハビリに励む姿を見て学んだ「かっこよさ」の本質――すべてが一瞬で心を満たした。そして引退試合での彼は、いつも以上に輝いて見えた。彼が歩んできた苦難の道のりが、その表情に宿り、心からの感謝の拍手が湧き上がるのを止められなかった。
引退試合の後、スタジアムを後にする私の胸には、静かな決意が芽生えていた。「私も、自分の信じる道をまっすぐに歩み続けよう」と。かつて内田選手を見てかっこいい大人になりたいと願ったあの頃の思いが、新たな形で自分の中に根付いているのを感じた。そして今、作業療法士として目の前の患者さんと向き合うたびに、あの日誓った「かっこいい大人」への道を歩んでいることを実感している。
背中の「2番」が私の心に深く刻まれた瞬間だった。それは、私が人生をかけて学び取った「かっこよさ」の象徴であり、これからも変わることのない、自分にとっての「目指すべき姿」なのだ。
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