電波よわよわ女 vs アンテナよわよわ男
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:まこと(ライティング・ゼミ11月コース)
この記事はフィクションです。
ギョッとした。
1、2メートルくらい後ろを歩いているはずの森川さんを振り返ったら、様子がおかしい。うつむいて、手で顔を押さえて肩が小刻みに振るえている。
どうやら俺は今、駅のホームで女性を泣かせている。幸いにも終電間際のホームは人がまばらで、俺たちの様子を気にかけられるほどの人の密度もない。
最初は転んだのか? と思った。いやタチの悪い酔っ払いにでも絡まれて身体でも触られたのだろうかとも考えたのだけど、泣いてる彼女から出てきた言葉を聞いて、これまでの全ての会話の振り返りが頭の中で始まった。
「私、中谷くんがいいの……」
おお……、これはもしや愛の告白ではなかろうか。というか確定だ。さすがの俺でもわかる。あちゃー、俺この直前の会話で彼女に何を言った? お酒が入っててぐるぐるするし、緊張してきて顔が熱くなってきた。こめかみあたりがドクドクする。
うう……、とりあえず振り返りを続けよう。
ここまでストレートなことを女性に言わせてしまってるってことは、つまり……彼女はこれまでずっとサイン出してきてた。でも俺は全く気づかなかった。そんな俺が今何かを言ってしまい、それが引き金になって、万策尽きた彼女はこんなに涙を流して……
うわ、俺最低!
……って、でも俺、そもそも彼女とお付き合いしたいのか?
大阪に転勤になって1年。何のツテもない、友達もいないで必死だった。森川さんは俺よりも前に転職で大阪にきてて「友達少ないんです」「美味しいもの大好きです」なんて言うし、部活帰りに牛丼食うノリであちこち連れ回しちゃってたけど、そういうことだったの? それともそういう行動で期待もたせちゃった俺が原因?
わからん。
これって「わかりました、付き合いましょう」って言っても「同情で付き合わないで」って言われたりして、断ったら断ったで傷つけてしまうんでしょう?
こういう時どうすりゃいいの? 超ググりてえ「告白された どうする」で。それか恋愛強者の男の人から今すぐアドバイス欲しい。
あーもう、基本に立ち戻れ。今こんな風に狼狽しまくってるんだから、恋愛対象にしてなかったんだろう? 来年には東京の本社に帰任する。今恋人を作ってもすぐに離れ離れになってしまう。そんな無責任な恋愛でいいのか?彼女には別の男性を見つけてもらう方が長い目で見て絶対にいいだろ。
そうだよ、もう誠心誠意そう言うしかない。方針は決まった。よし。
「あの、森川さん……」緊張で胸のあたりがこわばって、声もかすれて出て来ないのを、意地悪な駅のアナウンスが上書きしてしまう。
「——東西線、尼崎方面の最終です」
……アナウンスが終わるまでめちゃくちゃ気まずい。見たことないような暗い顔でうつむいてる森川さんを正視できない。この間にもう一回言うべきことを頭で整理する。
まもなく俺の終電が入ってくるだろう。きちんと彼女を見て、伝えることを伝えて、電車に乗る。それで今日のことは終わりにしよう。森川さんの気持ちはとても嬉しいけど、こんな中途半端な状態の男と付き合ってもいいことないよ。
俺の終電が入ってきた。電車が止まって静かになるまで待ってから、しっかり目に息を吸う。今度は声が出ますように。
「あの、森川さん……」
ブブ、ブブ。ポケットで携帯が振るえている。おい誰だよ、こんな時間に。チラッと目を落とすと画面にさっきまでいたバーの名前が表示されている。「え?」
「一瞬だけ失礼します!」何かよほどのことだと思って電話に出る。
「お、中谷くんか。今どこ?」バーのマスターだ。
「えーと、いま新福島のホームです」
「目の前やん。まだ女の子も一緒か?」
「はい」
「オーケー。あのさ、あの子、マフラー忘れてんで。緑の」
「あ……」彼女を見ると確かにマフラーをしてない。そうかも。
そうしてる間に、終電は俺の都合なんて知らん顔でドアを閉じ、スーッと出ていってしまった。まぁいい、2駅だ。
「すぐ取りに来いよ」
「行きます。あ、でも彼女も終電が……」
「あほう。それ乗って誰が帰りたがっとるねん。ええ加減にせいよ」電話が切れた。
なんだかうまく処理できない。とにかくマフラーだ。
「え……と、森川さん、もしかしてさっきのお店にマフラー忘れてないですか?」
ハッとして腕にかけた鞄をまさぐる。「あ……」
「ですよね。俺、ダッシュで取ってきます。ここにいてください」森川さんの終電までまだ10分ある。間に合う。そう思って駆け出す。
だが3メートルほど駆けたところで迷いが生まれる。「あれ、こんな真夜中に女の子一人で立たせておいていいの……?」「……いやでも一緒にダッシュは無理だろ。森川さんのあの靴じゃ終電に戻って来れない、俺一人で取ってくるのがいい。この判断でいい」
迷いが消えてスピードを上げようとしたところに、さっき引っかかっていたマスターの電話の声が戻ってきた。
『それ乗って誰が帰りたがっとるねん』
あれ? 俺必死に帰そうとしてるけど。「帰りたがってない」って……?
ああ……そうか……。俺は立ち止まっていた。
「森川さん、すみません」
俺、何度も連れ回しちゃって。あと、今日も全然気づかずで……。
「マフラー、一緒に取りに行きましょう」
立ったままの森川さんに近づいて手を引っ張るとゆっくり動き出した。
華奢で小さい手。
ああ、こうなっちゃうんだ……。歩きながら自分が他人みたいだ。お前、いま恋人でもない女の子と手繋いでるけど。これどうすんの? わからない。もう成り行きに任せるてみるよ。
とりあえずはマフラーだ。
「——東西線、京橋方面の最終です」
***
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