字を書く
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:かのん(ライティング・ゼミ9月コース)
実家に本を取りに帰った時、棚の奥から青いリボンで結ばれている箱を見つけた。
箱の中身はわかっている。箱には大切なものがつまっている。
が、長い間、箱を開けたことはなかった。箱の中では時間が止まったまま。
何年、何十年経っただろう。
久しぶりにリボンをほどき、箱を開けてみた。
箱の中には文字がいっぱい。
小学生の時の交換日記、中学高校卒業の時に先生や友達に書いてもらった寄せ書き、大学卒業論文、そして大学生から社会人になったばかりの頃に文通していた手紙の束。
懐かしさと、甘酸っぱさと、そしてキュンとした気持ちが鮮やかに蘇ってくる。
交換日記は、幼い字で、今日の出来事や空想物語が書かれている。幼稚園の時は泣き虫だったが、小学生になる頃は、毎日、友達と遊ぶのが楽しく、発見の連続だったことを思い出す。
寄せ書きは、中学時代、高校時代の私がどんな女子学生だったか思い出させてくれる。その中で、ひとりの先生が書いてくださった「君を見ていると、「柳に雪折れなし」の言葉を思い出す」はとても嬉しく、しなやかな人でありたいと思ったことも懐かしい。
大学卒業論文は、400字原稿用紙で50枚ほど。明治時代の知識人をテーマに書いた。
先輩からの言い伝えで、万年筆で書くこと、修正液で訂正するのは原稿用紙1枚につき3文字までと聞いた。今、思えば、指導教官からはそのような注意は聞いていなかったような気がするが、何度も書き直した覚えがある。教授から「ほとんどの人が原稿用紙50枚の文章を書くことはそうないだろう。一生の中で、最初で最後だと思って書いてみなさい」と励まされて、一年間、指導を受けながら書いた。論文を受け取ってもらった時の達成感は今でも覚えている。
そして、箱のいちばん奥にある手紙の束。友達以上恋人未満という関係の彼との話は楽しく、いつまでも話が尽きなかった。彼が留学をし、そして卒業後も地方での研修が続いていた時に往復していた手紙。まるで、隣で語りかけているような言葉で綴られている。彼独特のクセのある字が好きだった。
けれど、お互いに仕事が忙しくなり、手紙の間隔があき、そして、いつの間にか文通は終わってしまった。手紙を書くにはそれなりの時間やエネルギーが必要だが、社会人になり、お互い新しい環境の中での生活に追われてしまったからだと思う。
今だったら、メールやライン等でやりとりをするだろう。でも、あの頃は、仕事で使うパソコンはあっても自分では持っていなかったし、スマートフォンは影も形もなかった。手紙はもう着いたかな。返事はいつ届くかな。と、ポストを見るたびにドキドキしていたことを思い出す。
文通は終わってしまったが、パソコンやスマートフォンがまだ無い時代で良かったのかもしれないとさえ思っている。
水色のリボンで結ばれた箱の中は、かけがえのない大切な思い出と共に、懐かしい文字がいっぱい詰まっている。
手書き文字が好きだった私だが、最近、ほとんど字を書くことが無くなった。
ノートやメモ帳に簡単にメモをとる時以外は、パソコンやタブレットやスマホに文字を打ち込んでいる。
たしかに、打っている方が格段に速いし、字の間違いを気にしないですむ。修正も、コピーアンドペーストも簡単。どこに何を書いたのか検索もしやすい。
日々のことやスケジュール管理も、そして、ライティングの今もキーボードを使っている。
便利すぎて、今さら手書きに戻れない。
そのはずなのに……。
最近、ふと、手書きの文字が恋しくなる。字を書いてみたくなる。
万年筆やガラスペン、18色の筆ペン、20色のジェルボールペン、 20色のマーカーペン、そして500色の色鉛筆など、今はほとんど使っていない筆記用具の中から、久しぶりに筆ペンを取り出して字を書いてみた。
いつものメモの走り書きでなく、丁寧に書いたつもりだったが、自分の文字を見てがっかり。私の字、こんなに下手だった?
利き手の手首を骨折してから手首の動きがスムーズじゃなくなったのよね。と、無理な言い訳をしてみたけれど、だからと言って、字は上手になるわけではない。言い訳しているより、字を書く回数を増やした方がいいに決まっている。
小学校低学年の頃、習字を習い始めた。墨の匂いの中で初めて筆を持たせてもらったことや、週に1回のお稽古が待ち遠しくてしょうがなかったことを思い出す。書ける字が増えてきた時は嬉しかった。「一」「二」「三」の次に習った漢字は「永」だった。この「永」には、字を書く上での基礎が全てつまっているということだった。お手本のような字を書きたいと、真剣に字を真似していた。
高校や大学の芸術授業では書道のクラスを選択した。筋肉痛になりながらも、大きな画仙紙に全身を使って字を書いたことも楽しかった。時間を忘れて字を書いていた。
いつだったか、先生に「墨の部分だけでなく、余白を見なさい」と言われたことがあった。一文字一文字を見るだけでなく、俯瞰する視点を意識するようになったのは、あの言葉がきっかけだったかもしれない。
字を書く時のワクワクした感じ。その感覚を忘れかけていたが、まだ思い出せる。
今のうちに、字を書く時間を作ろう。
硯を出して墨をすって……は、ハードルが高すぎるので、今は、その日の気分で、万年筆や筆ペンを選び、私の座右の銘や信条を書いたり、好きな詩を写したりしている。
思うような字を書けず、ため息が出てしまうこともあるが、今さら、きれいな字だと褒めてもらう必要もない。私なりの字を書ければいい。
字を書いていると集中でき、清々しい気持ちになる。
字を書くって、けっこう楽しいじゃない!
さあ、今日は、万年筆にブルーブラックのインクを入れて、好きな歌詞の一節でも書いてみようか?
***
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