メディアグランプリ

ペーパードライバー講習で教わった、先生への「ありがとう」


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:izmy(ライティング・ゼミ9月コース)
 
 

「ギャー!!」
助手席からの張り裂けるような悲鳴。左のサイドミラーと電柱を急接近させてぶつかる寸前だった、らしい。同乗していた家族の叫び声が頭に残り、自信はすっかり無くなってしまった。
 
原因はこの出来事だけではないけれど、気づいたら、歴21年の筋金入りのペーパードライバーになっていた。
 
自分で運転して海にやってくる友人のかっこいい姿に憧れ、ネットでペーパードライバー講習を探した。
口コミやレッスン動画がたくさん掲載されていて雰囲気が掴めることや、メディア紹介実績のあるスクールに目に留まった。
 
「運転できる自分」という成果をいち早く出したい。まずは2時間コースを受講。その5日後に有給休暇をとって平日1日コース。レンタカー代を含めて、教習料金は合計73,700円。額面に躊躇したが、他社も同等の料金であり、命がけで教習してくれる先生のことを思うときっと高くはないと感じ、申し込みをした。
 
講習当日、ひょうきんな雰囲気の先生がレンタカーに乗って自宅まで来てくれた。
教習を申し込んだきっかけや生活圏、趣味の話をしながら、目指す運転レベルを擦り合わせた。
 
先生は自宅周辺の道をリサーチ済みで、走りやすいルートを提案してくれた。まずは広い道で右折左折の練習。自分が運転していることに興奮し、フワフワしている。先生はふらつくハンドルを修正しながら「大丈夫だよ〜」と穏やかに声をかけてくれる。「自分で運転していること」に慣れてきた頃、初日の2時間は終了した。
次の1日コースでだいぶ上達するのでは? と海辺で運転する自分を思い浮かべながら期待を高まらせた。
 
平日1日コースの日は、ドライブ日和の五月晴れだった。
午前中は前回のおさらいをしながら、近くのショッピングモールに行き、大きな駐車場で練習をする。お昼休憩後、さらに足を延ばしてひと区間だけ高速に乗った。
 
インター付近のメイン通りは多くの車で混み合っていた。合流する車が交差し、トラックが多く、大きな壁に囲まれているような威圧感。先生の緊張感も伝わる。こまめな休憩を挟んでいるとはいえ、慣れない運転を長時間していることで、疲れを感じ始めた。講習も終盤になっているのに自分の運転が安定せず、思うような成果になっていないことに気づき、ブルーになる。そして、先生の指摘に対して突っかかって質問してしまった。
 
車内に気まずい空気が流れる。
わがままな振る舞いをしてはいけない、と頭では分かるけど、沈んだ気持ちはなかなか取り戻せない。
 
すると、先生はゆっくりと話し始めた。
「講習中、ずっとハンドルを持ってあげた人もいるのよ。それでも、回数を重ねて運転できるようになってきた。あなたは普通の道なら、僕がハンドル持たなくても運転できているよ」
「えっ? そういう人もいるんですか? ちなみに……みなさん何回くらい受講してるのでしょうか?」
「ほとんどが半日1回だけど、それはご近所の駅や病院まで送り迎えできれば十分、という人ですね。お仕事で毎日運転が必要になる人なんかは、複数回受講しているし、中には40回というお客さんもいたりするよ」
「40ですか!」
気が遠くなった。そんなに運転しないと上達しないのか。余裕の表情で海辺を運転する自分の姿が遠く霞んだ。
「その方は、横に乗って教えてくれる人がいないから、ということだったよ」
「なるほど……」
「家族や知り合いの運転指導って、言い方が気兼ねないし、遠慮もないから『うるさいなー』って思うこともある。でもね、癪に触ることもあるだろうけど、あなたは横に乗ってくれる人がいて、その人に教えてもらえるなら、そうするのが、実は上達の近道かもしれないよ」
先生は、私が話した家族指導のエピソードを思い出しながら話してくれたのだろう。
運転席で自分の世界に閉じこもってしまいそうな私に、同じく奮闘している人の話をすることで、自分以外にベクトルを向けさせてくれた。冷静さを取り戻した私は、ナーバスさを出してしまった恥ずかしさを隠しながら先生に伝えた。
「そうですね……変な意地を張らず、家族に教えてもらおうかな。少しずつ、まずは車を運転している自分に慣れることから、始めていきたいと思います」
「それ、とってもナイスだと思う!」
先生はオネエ口調で親指をグッと立てて答えてくれた。
 
講習を終え、この日は疲れ果てて、どっぷり眠った。
 
週末は近所を15分ほど運転するようになった。家族が横に乗ってくれて、感謝の言葉とともにランチをごちそうする。家族も年齢を重ねて丸くなったのか、穏やかにアドバイスをくれるようになり、走り終えると「おつかれさま! うまくなってきてるよ」と励ましてくれる。
 
運転の先生である家族に気を遣わせるような生徒では、まだまだなんだろうな。
でも、以前の私は「家族なのだから、教えてくれて当たり前、優しくしてくれてもいいじゃん」と、ずいぶん甘えた気持ちでいたのだと気づいた。
自分ができないことをできる人、自分が知らないことを知っている人は、みんな先生であり師匠。大事な時間を割いて教えてくれるのは家族でも当たり前ではなく「有難い」ことだったのだ。
 
ペーパードライバー講習で教わった最も大事なことは、身近な師匠への「ありがとう」の気持ちだった。

 
 
 
 
***

この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」を受講した方が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

お問い合わせ


■メールでのお問い合わせ:お問い合せフォーム

■各店舗へのお問い合わせ
*天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。


■天狼院書店「天狼院カフェSHIBUYA」

〒150-0001 東京都渋谷区神宮前6-20-10 RAYARD MIYASHITA PARK South 3F
TEL:03-6450-6261/FAX:03-6450-6262
営業時間:11:00〜21:00


■天狼院書店「福岡天狼院」

〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階
TEL:092-518-7435/FAX:092-518-4149
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00


■天狼院書店「京都天狼院」

〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5
TEL:075-708-3930/FAX:075-708-3931
営業時間:10:00〜22:00

■天狼院書店「名古屋天狼院」

〒460-0002 愛知県名古屋市中区丸の内3-5-14先 レイヤードヒサヤオオドオリパーク(ZONE1)
TEL:052-211-9791/FAX:052-211-9792
営業時間:10:00〜20:00

■天狼院書店「湘南天狼院」

〒251-0035 神奈川県藤沢市片瀬海岸2-18-17 ENOTOKI 2F
TEL:0466-52-7387
営業時間:
平日(木曜定休日) 10:00〜18:00/土日祝 10:00~19:00



2024-11-21 | Posted in メディアグランプリ, 記事

関連記事