メディアグランプリ

お義母さんをバッサリやってしまった!


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:関谷陽子(ライティング・ゼミ9月コース)
 
 
「結婚したら、付き合ってた頃には全く気にならなかったことが、妙に許せなくなったりするんだよな」
大学院生時代、ある日の昼食どき。突然、所属していたゼミの教授がそう言った。
ちなみに教授が「許せなくなったこと」は、「カレーを食べる時に、ぐちゃぐちゃっと混ぜたこと」だったらしい。ちなみに教授夫妻は、今でもとても仲が良い。
 
 
ふとした拍子にそのことを思い出すのは、やはり結婚後に「許せない」と思ったことが、いくつもあったからだろうか。
だが、結婚しないと分からなかった、相手のクセや価値観もある。
 
ある日、洗濯物を干していると、雑巾と台拭きが入っていた。
私も夫も、基本的に洗濯物はあまり分ける方ではない。黒い服と、傷んだら嫌なお気に入りの服は避けておくけれど、他は基本的に一緒くたにして、あとは洗濯機さんにお任せ。
タオルも下着もパジャマも、一緒。
その洗濯物の中から、台拭きと雑巾が出てきた。
 
私は決して潔癖な方ではないけれど、それがものすごく「許せない」と思った価値観だった。
だって、下着も一緒に洗っている。子どもの服も一緒だし、タオルなんて顔を拭くのにも使うじゃない。
それと、台拭きと雑巾を一緒に洗うって、どういうこと?!
ちなみに私は、台拭きはボウルの中に漂白剤を入れて、漬けた後に手洗いだ。雑巾の場合は、洗面器を使う。洗濯機で洗うという発想が、そもそもなかった。
 
 
最初は、もしかしたら間違えて入れてしまったのかと思ったけれど、何度も同じことが起きるので、ある日思い切って聞いてみた。すると、夫の答えはこうだった。
 
「だって、洗剤入れて洗ってるから、綺麗になるやろ。綺麗になるから、別にいいやん」
 
 
えええーーーーーっ!!!??? 信じられない!!!
なんとかして、せめて別々に洗って欲しいと頼んだけれど、夫は全く聞く耳を持たず。
そんなある日、また新たな「許せない行動」が発覚した。
 
食洗機で、包丁を洗っていたのだ!!!
お箸やフォークなどのカトラリー類を入れるところに、包丁がピシっと入れられて、綺麗に洗われていた。
 
私は、ものすごくおっちょこちょいだ。普通に野菜を切っていても、何度かに一度は手を切るくらいにおっちょこちょいだ。
そんな私にとって、刃先をピシッと上に向けて、食洗機の中に入っている包丁は、もはや恐怖でしかない。
 
これも、やめて欲しいとお願いした。が、やはり、聞く耳持たず。
「気をつけたらええやん」
 
 
ダメだ、この人。まったく擦り合わせる気がない。こうなったら仕方がない。最終兵器を投入しよう。
 
最終兵器。それは義母である。
最近では、「嫁姑問題」という言葉もあまり使わなくなったのかもしれないが、義母と嫁とは、一般的に難しい関係だと思われがちだ。
だが、私は義母が大好きだった。もしかしたら、夫よりも好きかもしれない。
さっぱりして面白く、それでいて繊細な義母。「うちの息子、本当にむかつくっちゃ。よくあんな子と結婚する気になったわねえ。陽子さんの心の広さには、感謝しかないっちゃ。嫌なことがあったら、すぐに言いつけにおいでや」と、それまでにも何度となく、義母が言ってきた。
驚くことに、どうやらこの言葉、本心のようだ。
とはいえ、立場としては嫁であり、義理の娘である私。さすがに夫の文句を、ストレートに義母に言うことはなかったのだけれど。
 
こればっかりは許せない。お義母さん、聞いてください!!
 
決意を胸に秘め、次の帰省を迎えた。関西に住んでいる我が家から、車で何時間もかけて山口県にいく間にも、決意は揺らぐことはなかった。それくらい、私は「洗濯機の中に雑巾事件」と、「食洗機に包丁事件」が許せなかった。
でも、帰省して突然、夫の文句を捲し立てるのもおかしな話だ。だから私は、帰省中に虎視眈々を機会を狙っていた。
 
それはほどなくしてやってきた。何かの拍子で、いつものように義母と夫が言い争いを始めたのだ。義母はそうなると必ず、「本当にむかつくっちゃ!! 陽子さん、いっつも我慢してることがあるやろ? この際やから、全部言っていくっちゃ!!」と、私に話題をふる。
いつもはなんとなく曖昧に頷くだけに止めていたが、今回は違う。私には、一緒になって文句を言って、さらに行動も改めてもらえるようなネタを持ってるんだ!!
 
 
「そうなんです、お義母さん。こないだなんて、洗濯機の中で、他の洗濯物と一緒に、台拭きと雑巾が洗ってあったんですよっ!! 気持ち悪くて、やめてって言っても聞いてくれなくて。タオルや下着も一緒に洗ってるのに、信じられないですよね?!」
 
 
よし、言ってやったぞ!! 夫よ、義母からの制裁を受けるがいい!!
 
鼻を膨らませて勝ち誇る私は、義母がいつもの調子で、そのネタを使ってさらに夫に文句を言う姿を想像していた。「雑巾と一緒に?! 信じられんっちゃ。気持ち悪い、別々に洗うもんっちゃ!!」というように。
 
 
ところが。
どうしたことだろう。突然、義母のテンションが下がっていった。そして、「ああ、うん……。まあ、うん。ちょっと、私も言いすぎたかも、しれないわね」と、もごもごと口ごもり、そのままお風呂に入ってしまった。
 
あれ、おかしいな? いつもの義母と様子が違う。
てっきり援護射撃がくると思っていたのに、なんだか煮え切らない義母の様子に、「食洗機に包丁事件」と切り出すことはできなかった。
消化不良な気持ちでその日は息子を寝かしつけ、翌日。朝食を食べた後、義理実家の洗濯物を干していた時。
 
 
ああ、なんということだろう。他の洗濯物と一緒に、台拭きが入っているじゃないか!!!
瞬時に理解した。夫の行動は、自分の実家がやっていたから、同じようにしていただけだったのだ。
や、やってしまった!! 夫への文句をぶちまけたが、それが同時に、義母への攻撃になってしまっていたのだ!!
 
本当に、自分の常識と、隣の常識は違う。お義母さん、ごめんなさい。そんなつもりじゃなかったんです。
しまったなあ、作戦を間違えてしまった。「食洗機に包丁事件」の方にしておけば良かった。
そう思って、洗い終わった食洗機の中を片付けようと中を見たら、ピシッとした姿の包丁が入っていた。
 
 
あれから10年以上が経ち、我が家では、台拭きと雑巾は、それだけで洗濯機にかけることになった。どうやら義母もそのようにしたらしく、ちょっぴり胸が痛む。
ちなみに夫が包丁を食洗機に入れることはなくなった。
そして、あの後に知ったことだが、夫は食事の準備に使うボウルや、体を洗う洗面器で、台拭きや雑巾を付け置き洗いすることが、気持ち悪かったらしい。それを聞いて、私もその方法を辞めた。
 
 
 
 

***

この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」を受講した方が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

お問い合わせ


■メールでのお問い合わせ:お問い合せフォーム

■各店舗へのお問い合わせ
*天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。


■天狼院書店「天狼院カフェSHIBUYA」

〒150-0001 東京都渋谷区神宮前6-20-10 RAYARD MIYASHITA PARK South 3F
TEL:03-6450-6261/FAX:03-6450-6262
営業時間:11:00〜21:00


■天狼院書店「福岡天狼院」

〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階
TEL:092-518-7435/FAX:092-518-4149
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00


■天狼院書店「京都天狼院」

〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5
TEL:075-708-3930/FAX:075-708-3931
営業時間:10:00〜20:00

■天狼院書店「名古屋天狼院」

〒460-0002 愛知県名古屋市中区丸の内3-5-14先 レイヤードヒサヤオオドオリパーク(ZONE1)
TEL:052-211-9791/FAX:052-211-9792
営業時間:10:00〜20:00

■天狼院書店「湘南天狼院」

〒251-0035 神奈川県藤沢市片瀬海岸2-18-17 ENOTOKI 2F
TEL:0466-52-7387
営業時間:
平日(木曜定休日) 10:00〜18:00/土日祝 10:00~19:00



2024-11-28 | Posted in メディアグランプリ, 記事

関連記事