SNSじゃ開国できないよ、異人たちが私を変えた日
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:前田 さやか(ライティング・ゼミ3月コース)
私は気づいてしまった。
『自分がずっと鎖国していたんじゃないか?』 と。
本当なんだって。
ボランティアに行ってみたら、出会ってしまったのだ。異人みたいな顔した人たちに。そしてまるで、私に開国を迫ってくるのだ。おまけに私の頭の中では、坂本龍馬が叫んできた。
「キミの夜明けは近いぜよ!」って。
イベントの前日。私はスケジュールを確認していた。
『朝7時半集合って。めちゃ早っ! 仕事より早く家を出ないとっ』
思わずため息がもれた。
実は“フェアトレードコーヒーサミット”という、イベントのボランティアに申し込んでいた。“フェアトレード”とは、聞き慣れない言葉かもしれない。
直訳すると『公平な取引』だ。つまりモノの売り上げを、生産者にちゃんと還元する仕組み。だがコーヒーの世界は、特に安い労働賃金で現地の人が働かされているケースが多い。このイベントは、フェアトレードを多くの人に知ってもらい、生産地が潤う世界を目指す目的で開催されている。
当日の朝、私は眠い目をこすりながら、集合場所へ向かった。
人通りの少ない時間だ。朝の透き通る空気が、気持ちをピシッとさせてくれた。
「会場の設営をします。テントや机を運んでください」
スタッフに割り振られ、慣れない力仕事に体はきしんだ。それでも「イベントが始まるよ!」という空気が、祭り好きの私を高揚させた。
事前に渡されたシフト表をケータイで確認。
「今日の私の持ち場は? あった。27番のコーヒー屋さん。知らない人と夜まで仕事かぁ。大丈夫かな」緊張しながら、店舗へ向かった。
「初めまして。ボランティアの前田です」
「こんにちはぁ。今日はよろしく!」
気さくそうな男性が迎えてくれた。さっそく私は、話しかけてみた。
「お店はどちらにあるんです?」
「名古屋駅近くの商店街。うちは文房具屋なんだけど、店の一角でコーヒーも出してるんだ」
「へえ! 面白いですね」
「僕の本業は、建築士なんだけどね。今日来てる仲間も建築関係だよ」
え、建築士で文房具屋しながら、コーヒー淹れている?
いやいや、おかしすぎるだろ! 三刀流しちゃってるの?
私の周りにはどう考えても、見たことない人たちがそこにはいた。
「うちの仲間、やばいから。アメリカで建築の手伝いに行ってさ、屋根から落ちたの。おまけにヘリで病院に運ばれたんだって。ね、Aさん!」
オーナーの雑談スケールが大きすぎる。異人を見るような目で、私は話を夢中で聞いた。
ちなみに私は、医療業界にいる。閉じた世界。まるで江戸の町のように、外の価値観がなかなか入ってこない。だからこそ、こんな“異人”たちの話がとても刺激的だった。なんだか、世界が広がっていく感じがした。
イベントが始まると、客足は途切れなかった。私は注文を受けたり、メニューの説明をしたり、バタバタと動き続けていた。
昼過ぎ頃、ようやく客足が落ち着く。
「休憩してきていいよ」
オーナーが優しく声をかけてくれた。
どうしても私は、行きたかった店舗へ向かった。それはミャンマーのコーヒー屋だ。少し前に震災があった国である。何か支援できないかとのぞいた。
「こんにちは。こちらでは売り上げを復興支援にあててます。よろしくお願いします」
と、女性に言われた。聞くと彼女は、超異人的な生き方をしていた。10年以上もかけて、ゼロからミャンマーの最貧地域で、現地の人とコーヒー栽培を始めたらしい。色々興味があり、私は質問した。
「言葉はどうされてるんですか?」
「ミャンマー語を私、話せるんです。でも農園では民族特有の言葉が飛び交っていて、通訳さん頼りですよ」
「え、通訳!? ちなみに農園って、どんな場所にあるんですか?」
「空港から悪路を5時間のとこ。山奥なんです。インフラなんて整備されてません。でも毎朝の雲海が、本当にきれいですよ」
話のスケールが想像を超えていた。私はその場に立ちながら、遠く異国の山の空気まで吸い込んでいる気がした。
何か本気で取り組む人って、常識が通用しないようだ。職場とSNSを見ているだけでは、知らない人たちと繋がれた瞬間だった。
女性の話が終わると、私はコーヒーを注文してその場を後にした。
持ち場へ戻ると、変わらない上機嫌なオーナーの姿。こっちでは“物知りな異人”がいろんな雑談してくれた。
気づけば、すっかり当たりは真っ暗に。
春の日差しもどこかへ消えていた。
夢中になるほど、時間はあっという間に流れるものだ。
「ありがとうございました。すごく楽しかったです」
「お疲れ様。あ! そうだ。お店いつでも来ていいからね」
別れ際、名刺を渡された。肩書きの“一級建築士”を見て、思わずニヤけてしまった。
最近、悲しいニュースが多い。だからか知らないうちに、人と関わることが怖くなりSNSの世界に逃げていた。しかも直接会話するのは、職場の人ばかり。新しい世界へ踏み出すことを恐れていた。だけどイベントで出会った異人たちは、言っていた気がする。
「あなた、とても狭い世界にいるんじゃない?」と。
そうだ! 私は間違いなく、鎖国していた。
ケータイを握りしめ、仮想の繋がりに安心していたあの頃。でも、顔を見て話したときこそ、本当の「繋がり」が生まれると知った。
遠い国の誰かのために参加したボランティア。だけど本当に救われたのは、私自身だった。
『帰ったら、さっそく開国祝いしなきゃ』
心の中でつぶやきながら、私は会場を後にした。
***
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