チェックのワンピース、戦闘力は5000円。
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:さくら(ライティング特講)
私にとっての戦闘服は、ワンピースである。それも華やかで可愛いものであれば、あるほど私は強くなる。
中学生だった当時の私は、可愛く着飾ることなんてスクールカースト上位の人間にのみ、許された特権だと思っていた。私のようなパッとしない、ぼーっとした冴えない女子中学生は、もちろんニコラとかセブンティーンになんて目もくれず、日々「制服ってサイコーだぜ! 毎日同じ服でいいなんて楽ちんイェイイェイ」と思って、のほほんと生きていた。そんな風に思えたのも、たまたま私の住んでいた地域の中学の制服が、隣の中学から羨ましがられるほど、可愛い制服だったから、指定の服を校則通りに着こなすだけで、それなりの姿に見えたからなのだけれども。
しかし、青春なんてあっという間なのだ。制服という無敵の装備は大学生にジョブチェンジすることで、使えなくなってしまった。私は洋服を買わなくてはならなくなった。組み合わせなども分からず、とりあえず手頃な値段の服を買って着た。「安心してください、着てますよ」と思っている、とにかく服を着ているだけの女子大生だった。そんな大学時代は、日々優秀な仲間たちの凄さに圧倒されながらも、毎日ほどほどに楽しく、充実していた。だが残念ながら、社会に出なくてはならない時が来てしまった。今度は、社会人にジョブチェンジした。
社会は、想像以上に厳しかった。一年目の私は何をしてもうまくいかない。途方に暮れて涙を落とす日だって、仕事に行きたくない日だってあった。むしろそんな日ばかりだった。しかしそんな私を幾度も励ましてくれた上司がいた。彼女はいつも笑顔を絶やさず、誰にでも優しく、そしてテキパキと仕事をこなしていた。責任ある立場として、職場の陣頭指揮をとっている頼もしい存在だった。上質なスーツを着こなしていて、全身から気品が溢れていた。嗚呼、私もある朝目覚めたら、上司みたいな素敵な女性になっていたらいいのに……。
そんな悶々と鬱々と、過ごしていたある日、私は人生を変える大発見をした。仕事のできる人は、身なりもきちんとしているのだ。当時の私は仕事ぶりも、ろくなもんじゃなかったが、化粧も服もまた、ろくなもんじゃなかった。そういえば昔、学生時代の先生が赤い口紅を塗ってきた。いつもは化粧をしていらっしゃらなかったので、私は「出かける用事でもあるのかな」と思った。だが違った。
「今朝は気分が落ち込んでいたから、明るい色を身につけたの、暗いときこそ、明るい色を身につけるのよ」
その時は、「そういうものなんだな」としか思わなかったが、もしや見た目や格好で人の心持ちは変わるのでは? これは実験してみるしかない!
私は服を買った。美容院で読む雑誌から、良さそうだと思ったブランドを暗記して、家に帰って調べ、手頃な値段のものを買うことにした。幸いにも今はネットで安く可愛い服が買える。そうやって、いろいろな服を着るうちに、自分のスタイルをよく見せる服があることを発見した。多分、骨格ストレートだとか、ブルベだとか、そういうことなんだと思うけれど、私にはよく分からない。私が「なんだか気分が良いぞ」と思った服を着ると、
「なんだか素敵だね」
と、褒められた。身なりを褒められると、不思議なことに背筋が伸び、心に余裕ができ、なんだか強くなれた気がした。私って、もしかして素敵女子かも?
そこでやっと「世の中のオシャレ人たちは、だからオシャレをしていたのか!」と理解できた。思えばセーラームーンだって、プリキュアだって、強い女の子は戦う時に、可愛い洋服を着ている。あんなヒラヒラしたミニスカートで戦いやすいはずがないのに。つまりは、そういうことだったのだ。きっとセーラームーンだって、中学の不思議な色のジャージで戦っていたら、あんなに強くなれないはずだ。おしゃれは決して、選ばれし人だけのものじゃなかった。着飾ることは強くなることなのだ。
SNSや雑誌、街ゆく人のおかげで修業を重ねた私は、なんと職場の上司や同僚に「素敵なお召し物ですね」「華やかでいいですね」と褒められるようになったのだ! それと同時に仕事でも、評価されたり、大きな仕事を任されたりするようになっていく。
その内の一つが、先輩と二人で取り組んだ大仕事だ。年に一度、うちの職場の顔として行うプレゼンのようなもので、私にとっては人生初の経験だった。気分を上げたいから、思い切りおしゃれがしたいが、だからといって、派手すぎる服ではまずい。私は先輩に相談することにした。
「えー? 気にしなくていいよ。ていうか私、この服にするかも。」
「え、めっちゃ可愛いじゃないですか!」
その時、先輩は黒地の花柄ワンピースを着ていた。シンプルだけど、上品で素敵だった。私は自分のクローゼットを思い浮かべた。
「あ! 私も黒い花柄ワンピース持ってます!」
「じゃあお揃いにしようよ」
私たちは二人で花柄ワンピースを着て、大舞台に挑むことにした。可愛い服を着て、職場という戦場に立つ――もはや、ふたりはプリキュアだ。
仕事はなかなかの結果だった。最高、ではないかもしれないけれど、決して悪くなかった。その夜、二人きりの打ち上げをしたが、お互いに褒め合い、とても気分が良いものになった。
その後も、私は大きな仕事を任された。その度にクローゼットの前に立ち、「さて、今回はどの服で戦おうか」と考える。
今、私にとっての戦場は、仕事の場だけではなく、良いお店での食事の場や、推し活など、多岐にわたる。なんだか心が荒んでいる時は、己との戦いに備えて、可愛い服を着る。
ちなみに今日は、ちょっと気合を入れる必要のある仕事の日だ。だからセールで手に入れたチェックの可愛いワンピースを着ている。なんだか肌の色が明るく見えて、ぐんぐん気分が上がる。この戦闘力を、私は5000円で手に入れることができたのだ。
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