見知らぬ女性に突然怒鳴られたら、なんとする?
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記事:むぅのすけ(ライティング・ゼミ9月コース)
12月初旬、午前が終わろうとする時間帯だった。
少し寒いけど、久しぶりにお日様が差していて気持ちがいい。
私はちょっと浮かれながら、自転車で近所のスーパーへ買い物に出かけていた。
買い物を終えて、スーパーの自転車置き場にある、自分の自転車の傍まで戻って来た私は、一人の女性に通せんぼされるような形で声をかけられた。
いや、怒鳴りつけられた。
それも、いきなりである。
「ちょっとアンタ! こんな置き方したら迷惑やんか! そんなこともわからへんのか? どないなっとんの! 早よ、どかしーや!」
女性の歳の頃は、60代後半~70代だろうか、もしかしたら80代かもしれない。
この辺りの地域では、老若男女が自転車で移動することが多く、昼間はそうやって自転車に乗って単身で移動する年配の方も珍しくない。
それどころか、もはや常識のような光景である。
この女性も、お一人で自転車に乗って買い物に来ていたようだ。
重そうな買い物袋を一つ片手で下げながら、私を睨みつけている。
どうやら女性の自転車の手前に、斜めに傾いて置かれた別の自転車があるせいで、ご自分の荷物も上手く置けず、ジャマな自転車を動かすのも容易でないと見受けられた。
女性は事態を把握してから、怒りがマックスになったところへ、この自転車の持ち主と思しき私が戻ってきたのを見つけて、開口一番に怒鳴り散らしたという寸法らしい。
ただ買い物に来ただけなのに、見ず知らずの女性、それも私にとっては親世代のような年配の方から、いきなり怒鳴りつけられたのだ。
私はものすごく驚いて、ショックで固まってしまった。
周囲には他の客も数人いて、何事かとこちらを見ている。
そりゃ、そうだろう。
私だって、怒鳴っている人がいたら、遠巻きに見てサッサと去るだけだ。
なんともいえない居心地の悪さが押し寄せてきた。
だがしかし、である。
今、怒鳴られているのは、この私なのだ。
固まっている場合ではない。
早く帰って、仕事に戻らなければならないのに。
この場を……いや、この女性を、何とかしなければならない。
私は、急に謎のミッションを課せられたかのような気がした。
時間にして、およそ数秒程度だっただろう。
このように、即、冷静になれたのは、そもそもがこの女性の勘違いだということがわかっていたからである。
なんてことはない、その迷惑な自転車は、私のものではなかったのだ。
私は自分の荷物を地面に置いて、その女性に近づいて言ってみた。
「おねえさん、怒ってはるなぁ。重いやろ、大丈夫? おねえさんの自転車出すの、手伝うね」
怒った女性は、一瞬身構えた後、ポカンとしたように口を開けた。
「はぁ? アンタ何言うてんの?」
「いや、えーっと、おねえさんは自転車出されへんくてお困りなんかなって……あ、私の自転車はもう少し奥にあるねん」
そう言いながら、私はジャマになっている自転車を動かした。
その様子を見た女性は、やっとご自身の思い違いに気づかれたようだった。
「コレ(ジャマしていた自転車)、アンタのちゃうの? ほな、なんで、そんなんするん?」
女性は怒鳴る勢いこそなくなったが、まだかなり強い調子で、私がしたことに説明を求めてきた。
私はそこで、怒鳴られた時よりも面食らってしまった。
なんで……なんで? なんでなんだろう?
「なんで、かなぁ。あ、なんでやろ? ハハハ」
困惑して、ワケがわからなくなった私は、そのままを笑いながら伝えてしまった。
「アンタ、おかしいなぁ。でもゴメンよ、おおきになぁ」
女性は笑いながら、一応の謝罪と感謝を述べて、私が出すのを手伝った自転車に乗って去って行った。
やれやれである。
女性を見送った後、ほぅっと一息ついて、私は今さっきのことを思い返していた。
公衆の面前で、覚えのないことで怒鳴られても、テンパったり言い返したりせず、とっさに私は冷静に目の前の女性の感情にフォーカスしようとしたのだろう。
つまり、怒りがどこから来ているかがとても気になっていたのだ。
とにかくあれだけ怒るのも、何か理由があるはずである。
今回は、自分が原因でないことが早くからハッキリしていたから、このように冷静に対応できたことは明白だ。
でも、あの女性が最速で機嫌がよくなった理由は別にあると思っている
どんなに対応がうまくいっても、コレを間違うと、水の泡に近いものがあるかもしれない。
それは、相手へ尊称にあるのではないかと考えている。
私の勝手で恐縮だが、一期一会の年配の女性に対して見知らぬ私が「おばちゃん」「おばあちゃん」と呼ぶのは、令和の現代ではなんだかそぐわない気がしている。
気づくと年下の女性に対しても、総じて尊称は「おねえさん」と呼んでいる。
今日の女性も、私が「おねえさん」と呼んだ時から硬い雰囲気がほぐれていったように思う。
その手ごたえを確かに感じて、何度か意識して「おねえさん呼び」を続けたのだ。
私にとっては当たり前のことだけれど、この習慣のおかげでこの時はピンチを切り抜けられた。
そのあたりの多少のあざとさも自覚しつつ、でも、怒りまくっていた女性が最後に笑ってくれた顔を見せてくれたことがやっぱり嬉しくて、私はまた、浮かれ気味で自転車に乗って帰ることができた。
***
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