失明寸前になって知った体を守る大切な方法
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記事:777(ライティング・ゼミ11月コース)
「これはもう、ダメかもしれない」
顔をそむけて絶望的につぶやく医師を見て、私は心のなかでつぶやきました。
先生、声、聞こえてるよ……。
三十年前の高校生のとき、私は「網膜剥離(もうまくはくり)」になりました。
授業中に教科書を読んでいたら、突然文字がゆがんでまともに読めなくなったのです。
片目ずつ見え方をたしかめてみると、左目の視界が分厚いレンズを通したみたいに大きくゆがんでいました。
放課後、すぐに眼科に行きました。症状を説明すると、医師が慌てて私の目の奥をのぞき込んできました。そして診察後、「ダメかもしれない」とつぶやいたのです。
それ、患者の前で言う?
このときの私は、心のなかでツッコミを入れられるくらいに落ち着いていました。いや、落ち着いているようにふるまわなければ、自分の身におきた深刻な事態を受け止められなかったのだと思います。
網膜剝離は、網膜が眼底から剥がれて視力が低下する病気です。強い衝撃などによって網膜が破れて穴があき、そこから水分が眼底と網膜のあいだに入り込んで剥離がすすんでいくのです。
自覚症状としては、視界の歪みや視野の欠損のほか、網膜から流れ出た血液の影が大量の蚊のように見える「飛蚊症(ひぶんしょう)」などがあります。
剥離が網膜の中心部まで進むと失明する危険があり、私の場合がまさにこれでした。
診察後すぐに大きな病院に入院し、一ヶ月のあいだに二度手術しました。どちらも五時間以上におよぶ大手術でした。眼球の内側と外側の両面からアプローチして、剥がれた網膜を眼底に貼り付けなおし、網膜にあいた穴をふさぐという複雑なものでした。
手術中、目に局所麻酔はしたものの意識はあるので、医師たちの話声がずっと聞こえていました。小さな眼球の内と外で細かな作業をするその技術、そして痛みをまったく感じないことに、「現代の医療ってこんなにすごいのか」と、高校生だった私は密かに感動していました。
幸い手術は成功し、私の左目は以前より視野は狭くなりましたが、視力を失わずにすみました。本当に感謝しかありません。
しかしながら、医師が慌てるほど危険な状態だったなら、そこに至るまでになにかしらの症状や兆候はあったはずですし、それに気づけていたなら、ここまで悪化することもなかったのではないでしょうか。
実は、受診する数週間前から視界の異常には気づいていました。
視野の上半分が妙にチラつくと感じていたのですが、疲れ目だと思って放っておいたのです。
正確に言えば、疲れ目だと自分に言いきかせて安心しようとしていました。
「もしも大変な病気だったらどうしよう……」
重大な変化が自分の身に起きていることに薄々気づいていたものの、恐怖心から両親に相談することも、病院に行くこともできず、先延ばしにしていたのです。
結果、病状は悪化しつづけ、あと一歩で失明という状態にまでなったのでした。発症から時間が経ち過ぎていたため、網膜に穴があいた直接の原因を特定することもできませんでした。
人は大きなストレスにさらされると、思考力や判断力が低下することがわかっています。危機に直面したとき、パニックに陥って事実を受け入れようとしなかったり、否定したりするのです。
私も少なからずパニックになって、合理的な判断ができなかったのだと思います。
このような不合理な思考や行動は、大病した父にも見られました。
父に癌の疑いが出たとき、私や母はすぐに精密検査を受けるようすすめました。しかし、父は仕事が忙しいからと言って病院に行くのを拒んだのです。
癌は、一刻も早く適切な治療を受けることがなによりも重要ですし、それが生存率を引き上げることにつながります。そういうことを充分知っているはずなのに、父は自分の健康と命より仕事を優先させようとしたのです。
最終的に父は私たちの説得を聞き入れて、検査と手術を受けることになりましたが、いつも沈着冷静な父らしくない反応に私は驚かされました。
振り返ってみれば、このときの父も大病に直面した不安や恐怖心から、一時的に不合理な判断をしてしまったのではないかと思います。
では、体に異変が起きた強いストレス下でも、誤った判断をせずに病院に行くようにするには、どうすればいいのでしょうか?
そのひとつの方法として、私は自分にルールをつくっています。
体に異常があると感じたら、なにはさておき「すぐに病院に行く」というルールです。
「すぐに病院に行く」なんて「なにを当たり前なことを言っているんだ」と思われるかもしれませんが、当時の私は尻込みしてその「当たり前」ができず、視覚に障害を残してしまいました。
診察を受けて、大事ではないことがわかれば、それで安心できます。治療が必要と診断されれば、その時点から適切な処置を受けられます。
もし大病であれば、一分一秒の差で生死が分かれてしまうこともあり得ますから、早く受診して悪いことはなにもありません。
体にいつもとは違う変調があったとき、驚いて不安になる人は少なくないと思います。不合理な考えが頭に浮かんでくることもあるでしょう。しかしそういうときこそ、あれこれ考えず「病院に行く」を選択してください。そして医師の指示に従ってください。
また、家族や身のまわりの人が、不調を自覚していながら病院に行くのをためらっていたら、積極的に受診をすすめるようにしてください。
この記事が、みなさんの体と命を守ることに少しでも役に立てれば幸いです。
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