人に世話を焼くことが好きな祖母が、孫に打ち明けた愚痴
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記事:洋子の孫(ライティング・ゼミ9月コース)
「ばあちゃんが亡くなりました」
2023年2月某日の朝、母からのLINE。
胃ガンを患って、1年ほど闘病していた父方の祖母が亡くなった。80歳だった。きっとガンになっていなければ、90代も余裕で生きていただろう、元気でとにかく人に世話を焼きすぎるくらいに焼くことが好きな祖母だった。
私から見て祖母は、ちょっと変わった人で、私と同じ血液型のAB型だったからなのか、なんとなく通じ合える人だった。宮城県に生まれた彼女は、祖父との結婚を機に一緒に上京し、自宅兼工場で、鉄の加工を行う町工場を営んできた。昔からすごく寂しがり屋で、心配性。1人で電車に乗れず、病院にも行けなかったので、必ず祖父か近所の知り合いに頼んで一緒に行っていた。
一方で、家にいれば無敵で、祖父の提案や発言に意義があれば堂々と言い返すような、少々頑固な人。そして、「海のように広く寛容になるように」と付けられた「洋子」という名前のごとく、海のようにかなり懐の広い人だった。宮城から美味しい米や野菜が届けば、「美味しいうちにみんなで分けよう」という考えで、自分達の手元に残るストックをあまり考えずに、私たち家族や、近所の人にお裾分けして歩いた。そして家には基本的に誰でも迎え入れる。父が子供の頃は、同級生の溜まり場と化した。宮城から訪ねてくる親戚がいれば、何晩でも泊めた。そんないつでも人が集まる家であったが、家は東京の下町に建つ長屋の一角の2階建。とても細長く、人が居間でテーブルを囲えば、壁に背中を擦り付けて座るほどの極狭住居だった。
なぜそんなに広いわけでも、特別新しいわけでもない家にそれほどの人が集まったのか。それは、祖母がみんなの寮母と化していたからである。
人が来ると分かれば、とにかく大量の料理を作り、振る舞う。人が来なくても、料理をたくさん作った日には、近所に分けて歩いた。東北仕込みの、濃いめの味付けは、万人に受けたのだろうと思う。私は特に、祖母の作る宮城の郷土料理が好きだった。正月には、東北地方ならではの具材がたっぷり入ったお雑煮が出た。味も量も少しオーバーな感じの祖母の料理は、今でも印象深く覚えている。食事が終われば、コース料理のように次から次へと食べものが出てきて、食え食えと言われるので、断りきれずに祖母の家からの帰り道に吐いたことがある。
そんな何でもオーバーな振る舞いの祖母。晩年、私の父が帰省した際に、とある祖母の姿を見て父が目を丸くしていた。
「ばあちゃんが、家の外で外国人の男の人と仲良く話している」
近年、近隣には海外からの移住者や国際結婚をする人も増え、なんと近所に暮らすフランス人と井戸端会議を楽しんでいたというのだ。おそらく、日本語で会話のできる人だったのだが、祖母の優しい寮母ぶりは国境も超えてしまった。
コロナ禍でソーシャルディスタンスが意識され、人との接点も控えていたころ、祖母は困って、私に愚痴をこぼした。ゴミ捨てに出ると、近所の人が祖母を喋るために近所の人が集まってきてしまうし、毎日のように仲のいい近所の人が家に勝手に入ってきて居間で世間話を始めるのだという。
「こういうご時世だし、自分もコロナになりたくないから近寄らないで! と言って追い払うのよ。コロナじゃなくても、もうそんな頻繁に会わなくたっていいのにって思ってる」
そんな愚痴を聞きながら思わず笑ってしまった。祖母の存在は社会情勢すらも突破してしまう。人を引き寄せ過ぎて困っている人と出会ったのは、きっと祖母が最初で最後の人かもしれない。でも、向こうからベタベタと来られると距離をとりたくなる感じ。孫の私にはちょっと共感できる。
そんな祖母は、少々頑固なところがあったがゆえに、身体の不調に気がついてもギリギリまで病院に行かなかったので、胃ガンが発覚した時にはだいぶ進行した状態だった。治療の中で食事の制限があり、作ることも食べることも大好きだった祖母にとっては辛い闘病生活だったと思う。
祖母と最後に会って話した時、私に言った。
「私、この家に嫁いでよかったし、この家族でよかったって思う。じいちゃんも、ばあちゃんも孫ちゃんが大好きなんだよ」
周りの人に尽くして生きてきた祖母は、何より家族が好きだったこと、初孫の私に最大の信頼と愛を持って接してくれていたことが分かった出来事だった。
祖母は、病院で息を引き取った。自宅に戻ると、祖父が静かに涙を流していた。その涙に祖母への愛や共に過ごしてきた思い出、ケンカしながらも構築してきた信頼関係、祖父が何十年も見つめ続けた祖母の姿が、その涙に全てが詰まっていた。
葬儀は家族葬で執り行う予定で、近所の人には声をかけていなかったのだが「お世話になったから」と近所の人も3人ほど勝手にやってきた。どの人も私に言ったのは「おばあちゃんの作ってくれたご飯が美味しかったの」と。
祖母のことなので、そんな葬儀の風景を空から見下ろしながら「もういいのに」と思っていたかもしれない。でも私は、祖母のようにたくさんの人に少ししつこいくらいに人に好かれる人生も生きてみたい。
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