教材の返金を求めて友達ができた
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:片山勢津子(ライティング・ゼミ9月コース)
先日、講演会で思わぬ人に再会した。
「お久しぶりです! 先生にフランス語を習っていました」
私は、思わず声をかけた。周囲は驚き、先生もキョトンとした顔をしていた。
そりゃそうだろう。彼は、今ではファスティングの分野で知られているようだ。
しかも、私が習っていたのはオンライン講座だったので、覚えているはずもない。でも、私には忘れられない事件があった。
先生にフランス語を習っていたのは、もう10年以上前のこと。
受講を始めた頃、パリから届く週1回の講義が楽しみだった。講座をきっかけに、私は初めてSNSを使い始め、まるで、新しい世界がひらけたような気持ちで夢中になっていった。
受講生は、海外からも集まった。職業は会社員のほかに、音楽、絵画、建築、インテリア、料理、ファッション、美容関係など、フランス好きの多彩な人が揃っていた。普段の生活では絶対に知り合えないような人達との出会いが新鮮で、刺激を受けた。
講座に魅せられたのは、先生の独特の指導法だ。さらに、パリの日常を撮影したミニドキュメンタリー『パリ日記』が秀逸だった。画像も音楽もオリジナルで、若いフランス人アーティスト二人が製作していた。彼らのCD制作の現場も『パリ日記』で垣間見たので、親近感が湧いていった。
講座が進む中、二人を東京に招くコンサートが企画された。そして、CDの翻訳にも取り組むことになった。
私のグループが担当したポップな曲は、なんと精神科医の診察風景だった。難解だがウィットに富んだひねりのある歌詞を理解するうちに、すっかり彼らのファンになっていった。
コンサートは素晴らしく、800人もの観客が集まった。
私は、生で聴く二人の演奏に酔いしれながら、安堵した。
ところが、しばらくして『パリ日記』の担当者が変わった。どうやら、起業家である先生とアーティストのフランス人との間に、大きな亀裂が入ったらしい。彼らの映像や音楽が聴けなくなったのは、寂しかった。
この頃から講座の様子も大きく変わった。新たなコースがいくつもでき、教材も増えた。その中で、待っても届かない教材に痺れを切らした。受講生の中に同じような思いの人がいることがわかり、同志を募って返金を求めることにした。
相談しあって、連名で「返金依頼書」を作成して先生に送った。そのせいだろう。弁護士から返答するとの回答があった。初めての経験だったのでどんな対応をされるのか不安な気持ちだったが、待つしかない。
ところが、弁護士からは一向に連絡がない。仲間の一人が情報を掴んだ。弁護士会から懲戒処分された弁護士だと分かった。さらに、その理由が判明した。顧客の預かり金を横領していたのだ。
この事実を知ったとき、私たちは全員言葉を失った。何ということだ! 犯罪者ではないか。先生はなぜそんな人に頼んだのだろう。不安が募った。
そんな時、大きなニュースが飛び込んできた。
「あの弁護士が週刊誌に載っている!」
衝撃だった。掲載されたのは、誰もが知る写真週刊誌。見ると、全身を包帯でぐるぐる巻きにされた弁護士の写真が大写しで掲載されている。マンション5階から飛び降り自殺を図ったらしい。命が助かった良かったけれど、こんな話、聞いたことがない。そもそも、払ったお金は一体どうなるのか。この事件でうやむやにされては困る。先生への不信感が増していった。
私たちは、改めて返金対応wを先生に求めた。返金問題は、振り出しに戻ってしまったわけだから、もはや持久戦だ。みんなで頑張るしかない。
ところが、事件は程なくして解決した。新しい弁護士を介して全額返金されたのだ。呆気なかった。これまでの時間は一体何だったのだろう。緊張が一瞬にしてほぐれた。そして、独り小躍りして歓声を上げた。仲間と朗報を喜んだ。
その後、有志と東京で集まり、ちょっと贅沢な打ち上げ会を行った。初めて会う仲間と旧知の友のように抱き合った。笑い声が響く中、シャンパンがグラスに注がれた。誰もが返金問題をすっかり忘れ、フランスのことや互いの未来を語り合った。
フランス語仲間に先生との再会を話すと、みな驚きを隠せない。それでも、口々に「あの事件がなければ、私たちはこんなに親しくなれなかった」と語る。
返金されたお金は、あっという間に無くなった。でも、共に祝った日の感動は、今も私たちの心に残っている。多彩なメンバーとの交流は続き、絆は新たな道を歩む原動力となっている。
10年経って振り返ると、諦めない気持ち、行動する勇気、共に歩む仲間、そして人生を豊かにする絆、そのすべてが、ちょっとした試練から生まれた贈り物だった。お金の対価とは何だろう。先生からお金以上のものを返してもらったことに、改めて気づいた。
***
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