再生させた火鉢で癒しの空間をつくるまで
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:森下 昌英(ライティング・ゼミ年末集中コース)
私は、今年10月にお寺の跡を継いだ。
このお寺。突如住職不在となり、その状態が一年以上続いていたので片付けができていない。そこで片付け業者さんを呼んで整理をした。
古い火鉢が出てきた。当然捨てるものリスト入りだ。
「だけど、ちょっと待てよ? ひょっとしたら先代の住職や檀家さんや、いろんな人が火を囲んで談笑したりしたんじゃないかな?」
ほっこりするその光景。そんな想いが頭をよぎったとき、捨てることを躊躇してしまった。
「そうだ。ここで火を焚いて、鉄瓶をかけて、お茶を飲もう。使う理由を作れば、捨てなくて済む」
こういう発想は「面倒ごとの先送り」と言われるかもしれないが、今回それは脇に置いておこう。
かつて、勤め先での業務においてストレスを強く感じる日々を過ごしていた私は、ネットでストレス解消についての記事を読むことが日課だった。
「そういえば、炎を眺めることにリラックス効果があった気がする」
想像してみる。
「火鉢で燃え盛る炭火。火鉢には鉄瓶がかけてあって、湯気が立ち上る。ゆっくり流れる時間」
「どうかんがえても癒しだろ」
そう考えたら矢も楯もたまらず、火鉢に火をおこすための方法を調べ始めた。
という訳で、今回の文章は、たまたま見つけた火鉢を再生して癒しの空間を作るまでの話である。
見つけた火鉢はすでに灰が入っている。素人目に灰の状態は悪くなさそうだ。
「他には何が必要なんだ?」
スマホの画面をタップする。
「火鉢の使い方を紹介するサイトなんてあるんだ」
「火鉢を活用してスローライフを楽しもう」といったコンセプトのサイトがいくつかあったので、すかさず参照する。この文章で興味を持った方は、是非検索してみてほしい。
物品の購入は、すべてのものが一度に揃う、世界のAmazonにする。
炭は当然必要だが、屋内での使用に適さないものがあるのだという。アウトドアライフには全く興味がない人生を送ってきたので、そんなことは全く知らなかった。「BBQ用」と記載されれているものは燃やすとにおったり煙が出たりするかもしれないそうだ。
とりあえず、10kg2,000円くらいのオガ炭をカートに入れる。
鉄瓶は要るが、実家にあったはずだ。鉄瓶は高校時代、鉄分補給目的で親に購入してもらったものだ。今回はそれを流用しよう。購入しようと思うと、0.8リットルのもので6,000円くらいだ。デザイン性が優れたものもあってとても興味を惹かれた。
それから、鉄瓶をかけるためには五徳が必要となる。確かに炭火の上にどうやって鉄瓶を掛けるのかあまり考えたこともなかった。2,000円弱のものを購入。
他に必要なものとしては、炭火を起こすための火起こし鍋が3,000円。火が点いた炭を安全に運ぶための台十能3,000円。火箸1,000円。お好み焼きのヘラみたいな形の灰ならし2,000円。炭を安全に片付けるための火消し壺2,000円。
ここまでのものを全部合わせて15,000円ほどの支出となった。
早速発注しようとしたところ、思わぬ魔物に遭遇した。
長火鉢だ。
長火鉢とは?
よく時代劇で岡っ引きの親分とか、やくざの親分が、いろりみたいな木の箱の前でキセルを咥えているが、あの木の箱。そう、あれだ。
「あれがあったらメチャメチャかっこよくないか?」
長火鉢の前に座布団敷いて座る。
長火鉢で沸かしたお湯でお茶を入れて飲む。
長火鉢の縁に頬杖をついて、ぼんやりと炭火を見つめる。
ゆっくり流れる時間。
湯気で鉄瓶の蓋がカタカタと鳴る。
「想像しただけでも、震えがくるくらいいいんじゃないですか?」
魔物の勢いはさらに増し、我が脳は暴走を始めた。値段を調べる。お値段60,000円。高い。
「こんな時はジモティーだ!」
脳に巣食った魔物は手ごわい。簡単に退散しない。
そして近所からの出品を発見。 「大正時代の長火鉢! お値段5,000円!」
「買いたい! でも……、ダメだ、ダメだ、ダメだ、買っちゃダメだ」
わずかに残された理性の反撃がはじまった。そして我が脳はようやく沈静化する。1時間超の空費だ。
無事必要なものだけ注文を完了。かなり疲れました。
そして時は流れて一週間後。
「物は揃った。火を点けよう」
火起こし鍋に炭を並べ、ワクワクしながらコンロにかける。そして警報音と共に、すぐに火が消える。何度繰り返しても、火は警報音と共に消えてしまう。コンロは安全装置が作動してしまって火が点かないのだ。
「どうしよう……」
当然安全のための装置なので、めったやたらに解除できないようになっている。
実は火起こし用五徳というものが2,000円ほどで売られている。これさえあれば普通のコンロでも安全装置が働かないようにしてくれるので大丈夫。
「でもこれをまた注文するとなると、火起こしが後日に延びてしまう! 今の私のワクワク感をどう鎮めたらいいんだ……」
と話を展開するのが王道だとは思うのだが、実は当山には業務用コンロがあり、こちらは火力が強いだけでなく安全装置も全くついていない優れもの(炭火を起こすことにかけては)。これを使って火は無事起こすことができた。一般のご家庭の場合は火起こし用五徳を同時購入されることを強くお薦めした。
次はこれを火起こし鍋ごと台十能に入れて火鉢まで運ぶ。急いで移動すると火花が飛ぶので結構怖い。だからゆっくり歩く。
「なんだか臭くなってきたぞ? なんだ? このにおいは?」
松脂のような変なにおいが立ち込めてきた。ガス漏れ警報器が鳴りはしないか心配になってくるほどだ。調べてみよう。なになに?
「台十能は表面にコーティング剤が塗られているものが多い」
「コーティングされている台十能を選ぶと、火起こし鍋を入れたときにコーティングが溶けてとても臭い。雰囲気が台無しになる」
「台十能って、熱いものを運ぶためにあるのに、なんで熱で溶けるものでコーティングするんだろう……」
そしてやっと来ました。この時間。赤々と燃える炭を並べ、鉄瓶を掛ける。やがて鉄瓶から湯気が立ち上ってくる。確かに炭火を眺めていると、心が落ち着いてくる。
「お金は掛ったけど、面倒くささもあったけど、でもやってよかった」
この火鉢を手に入れた方がどなたなにかは分からないが、こんな出会いを与えてくださった歴代住職のどなたかにありがとうと言いながら筆を置きたい。
***
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