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坊さん? いつもワインバーでワイン飲んでるよね?

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:森下 昌英(ライティング・ゼミ年末集中コース)
 
 
私は3か月前、突然お寺の後を継ぐこととなった。
 
このことを高校の同級生に相談とまでは行かないが、話してみた。そして帰ってきた言葉がタイトルだ。
 
「坊さんって、いつもワインバーで飲んでるよね?」
 
言葉の上からはもちろん、表情からも、なかなかの悪意を含む回答。ただ、私もこの回答を大変秀逸に感じてしまった。
 
税金を優遇されて、坊主丸儲け。何かといえば高額なお布施を要求し、手持ちの不動産を賃貸し、高級外車を乗り回し、夜は毎晩ワインバーでワインを飲んでいる。
 
そんな光景を想像できる人も少なくないのではないか?
 
私はAFP認定者である。AFPと名乗ると通りが悪いが、要はファイナンシャルプランナーの端くれだ。ファイナンシャルプランニングを行う企業を経営しながら、元々勤めていた企業にも在籍して、ライフプランニングの研修を行ったり、大きな仕事だと企業型確定拠出年金の導入を行ったりした。
 
ファイナンシャルプランナーとは、「お金についてのプランニング」「金融(投資)」「不動産」「保険」「税金」「相続・事業承継」の6分野について専門知識を持った人のことだ。
 
また、勤め先で会計の責任者をしているため、金融機関勤めではないもののお金は私にとってのホームグラウンドであるし、自分でもいろんな種類の投資を行うくらいお金は大好きだ。
 
仏教の敵であるのは煩悩。その煩悩の象徴であるお金が大好き。そんな自分に坊主が務まるのか不安に思いつつ、本当に坊主丸儲けなのか? また、坊主がお金を持っているとなぜこんなに気持ち悪いのか? そんなことを考察した。
 
■自分のお寺の財務調査■
 
2024年10月。無人となって1年が経過するお寺に入り、片付けと法的な手続き、そして一番大切な財務状況を確認した。
 
私に「跡を継げ」といったのは、近隣の寺院のリーダー格のお坊さん。この人から「君が継ぐべきだ。そして、仕事はすべて辞めてもらってお寺に専念すべきだ」と言われていた。
 
「本当にそれで生活ができるのか?」
 
自分の生活がかかっていることもあり、必死の調査を行った。
 
■年収200万円への道■
 
これまで小さな企業のM&Aや子会社の廃業などを経験してきたので、どこを見ればどうなっているか、おおよその勘所はつかめていた。
 
片付け自体は業者を入れて100万円以上かかった(通常のご家庭では20から30万円ほど)。業者さんから文字が書いてある書類はすべて一か所にまとめてもらい、それを解読する1か月を送った。人件費として使ってよい金額から得られそうな給与を割り出す。
 
結果。
 
予想年収約120万円。考え得る最も良いシミュレーションをして約200万円。
 
「仕事をやめたらワープア(ワーキングプア)じゃん!」
 
ネット上で住職の暮らしを検索してみると、次のような記述を発見した。
 
年300万円しか給与をとれないのに、営業に出る訳でもなく、何もすることがない日が何週間も続くことがある。そんなときはひたすら掃除をして、お塔婆を書く。
 
お金が大好きな私としては、こんな生活気が狂いそうだ。掃除しかしないなんて「これでは日本経済のお荷物ではないか?」とすら思ってしまった。
 
一方で、市役所職員として勤め上げ、定年後は私立高校の講師をしていた人もいる。今は年金をもらいながら、広大な月ぎめ駐車場を経営している。公務員の年金だから、金額はなかなかのものになるはずである。ちなみにこの方は、冒頭で私に寺務に専念するよう勧めた方である。
 
■偵察に行く■
 
「それなら」と思い立って、近隣の他の寺院の周辺を散歩のフリをしてめぐってみた。駐車場、貸家、貸オフィスなどを保有している様子が伺える。
 
ちなみに、うちのお寺にも賃貸している不動産はあるが、昭和30年代くらいからほとんど値上げしておらず、今となっては固定資産税を払っておしまいという感じである。相談した不動産屋さんには「話にならん」と呆れられた。
 
結局、いくつかのお寺を実地調査してみたが、がっつり稼ぐお寺とそうでないお寺に二極化されているのではないかと考えられる。ただ、稼ぐ寺も稼げない寺も、お金や資産に関する情報は全く出てこない。
 
■結局何が問題なのか?■
 
さて。ここから本題に入りたい。あれこれ考えたが、お寺はお金がかかる。
 
建物は宮大工に頼むから通常の10倍くらいお金がかかる。
固定資産税が非課税なのは境内とお墓だけ。
お布施には法人税がかからないが、通常の物販や賃貸とみなされると課税される(お守り、おみくじ、御朱印などは課税されるかもしれない)。
お坊さんの給与からは通常どおり所得税、住民税が天引きされる。
電気代、水道代、ガス代をお寺の会計から出費すると税務調査が入る(だからお寺の電気代、水道代、ガス代は住職の自腹)。
儀式にバンバン火を使うから、火災保険がめちゃくちゃ高い。
 
お寺の維持管理にはお金がかかるのだから、それ相応の収入がなければお寺を存続できないのだ。お坊さんはお寺の経営者である。経営者が最も頭を悩ませるのはお金のことであり、それはお坊さんも同じことだ。資金繰りを改善するために、遊んでいる土地を有効活用するなんて当たり前すぎる話だろう。
 
それなのに、お金はほとんど煩悩と同じようなものだから、「あのお寺、境内を駐車場に変えて稼いでいるんだぜ。どうせ先祖からもらった土地だろうし、坊主丸儲けだよな」みたいなひそひそ話になってしまう。
 
また、宗教法人がやってもよい事業は公益性があるものに限られるから、収益機会が限られる。限られた収益機会しかなく、しかも公益性が高い事業だと利益の追求を前面に出しにくい。
 
それに輪をかけるのが、宗教法人に対する会計ルールの甘さである。年間8000万円よりも収入がすくなければ会計帳簿を備え付ける必要がないのだ。当然決算を公告する必要もない。檀家さんからのお布施をどのように使ったかを知らせる必要もないし、記録も残っていない。
 
■結論■
 
時代に合わない善人ぶった姿勢を維持するからいろいろと言われるのではないだろうか? ワインバーで飲んでも良いだろうし、高級外車に乗っても良いと思う。仏教も原始仏教と大乗仏教では全然違うし、時代や地域に合わせて進化してきたと思う。今、また変わるべき時代に来たのだと思う。しっかり稼いでしっかり必要な所に還元できれば人の評価も変わってくるに違いない。
 
他の公益法人並みに決算公告を行って「お金は必要だ」と世間に主張したうえで、堂々と稼げば良いと思う。その稼ぎを、お寺ならではの事業(地域活性化がしっくりくると思う)に使い、そこからまた収益を得られるようなサイクルを模索するのが、地域にとってもお寺にとってもベストな選択だと思う。
 
 
 
 
***

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2025-01-07 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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