ミスったけど胸を張って他人のせいにしたい
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:まこと(ライティング・ゼミ11月コース)
「OK」「キャンセル」
僕たちがパソコンでもスマホでも毎日ポチポチ押す確認ボタン。
唐突だがこの「OK」と「キャンセル」、どちらが右でどちらが左に配置されているか覚えていたりするだろうか?
正解は両パターンとも存在する。
ただし、明確な目的があることが大事とされている。
左に「OK」ボタンだと誤操作を防ぎやすく、右に「OK」ボタンだとスムーズに操作されやすい。
つまり核ミサイルのボタンだったら左にOKボタン、何か課金アイテムでも買わせたいなら右にOKボタンがいいだろう。
僕の職業はソフトウェアエンジニアで、「イケてるアプリ」か「ゴミアプリ」かの圧倒的な差を生み出すのはこういった細かい配慮の積み重ねである。
こういう考え方は、文章を書くことにも似通っていると思う。
いかに何も考えさせず(つまりユーザーに負荷を与えずに)目的となる操作に到達してもらうか。ユーザーの手が止まってしまったらお終い、一瞬でも迷わせたら負けなのだ。
お近くのセブンイレブンに行って、コーヒーマシーンを観察してみてほしい。
テプラで作ったラベルが貼ってないだろうか。
「L」ボタンのところに『大きい』、「R」ボタンのところには『普通』というラベル。
「HOT」のところに「温かい』、「ICE」のところに『冷たい』。
そしてダメ押しの注意書き『押し間違いが多いのでよく確認してください』。
これは多くの購入希望者が、欲しいコーヒーに辿り着けていないことを意味している。
つまり、このコーヒーマシーンは「負けている」。
「こんなデザインを承認した人と、こんなものをデザインしたデザイナーにきちんと事実を伝えるべきだ!」
僕は経営陣に向かって吠えた。
と言ってもセブンイレブンではなく、自分の勤めている会社の、である。
ある日、会社のお偉いさんから一定役職以上の社員にこんなメールが飛んだ。
「うちの会社のフロアだけゴミの分別が異常にできておらず、ビル側から二次分別で年間数千万のコストを請求されている」
「社員の意識が低すぎる、部下にもっと周知徹底せよ」
こめかみがドクドクするほど怒りに震えてアドレナリンが出た。
アホか! 社員の意識のわけないじゃないか……!
実をいうと僕はこの会社のゴミ箱にずっと疑問を持っていた。
フロアのリノベーション時に内装に合わせて特注で作らせたものらしいが、ものを捨てるときに何をどこに捨てていいのか、わからないのである。
フロアの一部に「ゴミ捨てエリア」っぽいところがあり、そこに羊羹を立てたような黒い巨大な直方体が三つ並んでいる。それらは装飾も全くなく、木目調の壁に見事に溶け込んでモダンな収納棚のようにも見えるが、近づくと前面上部に開口部がある。
その下に白い小さな文字で「Combustibles」「Incombustibles」「Recyclables」と書いてあるのを見つけて、ようやく「あ、これゴミ箱なんだ」と認識できる。
メールを受けて気になり、羊羹ゴミ箱の中を見てみると、確かに弁当の容器やらスタバの紙カップやらが混在していて、分別がおかしいというのは否定できない。
まあ、そりゃそうだろうな。
「OK」「キャンセル」ボタンの左右配置のようなレベルのデザインをどうするかで日々腐心する僕からすると、とんでもなくサービス精神を欠いた設計だ。まさにこのゴミ箱自体が、ゴミを捨てるという目的をなすことのできない「ゴミ」そのものである。
もうひとつ気になったのは、我々社員の意識が本当に低いかどうかだ。
確かめる手段はある。実は同じフロアのエレベータ共用部には、ビル側が用意した一般的なゴミ箱がある。駅にあるようなもので、燃えるゴミが赤、プラごみが青といったような色分けがされている、なんの変哲もないゴミ箱だ。
中身を見ると特に酷いとは感じなかった。
やっぱりそうだよな。
僕は上記の事実報告、社員の責任にするな謝罪しろ、ゴミ箱は市販のものに入れ替えれば即刻問題は解決されるはず、その費用とこれまでの二次分別のコストはゴミ箱を設計したデザイナーさんに請求してはいかがか? と添え、経営陣が用意している「目安箱」的なアンケートフォームに送信した。
返事は来なかった。
しかし1ヶ月ほどしたある日、「紙コップはここ」「プラスチックはここ」という巨大な「イラストや」のイラスト入りパネルが、ゴミ箱にガムテープでべたべたっと貼られたのである。オシャレさは捨て、分別の方に本気出すという意思表示だった。
ゴミ箱のデザイナーが見たらショック死しそうだが、むしろそれでもいい。徳川家康は戦に負けた自分の姿を描かせ、戒めのために身近な所に置いたという。ゴミ箱デザイナー氏もご自身の記録として掛け軸にでもして猛省してほしい。
僕たち人間はミスをする。仕事でも私生活でも。
しかしながら、同じようなミスを何度も起こしたり、他の人も同じようなミスを起こしているのが明らかな場合、原因は自分のせいではないと胸を張って言っていい。
「文章が伝わらない」というのが書き手の責任であるように、「正しく使えない」のは作り手の責任だ。
もちろん個人のレベルでミスや間違いは起こさないに越したことはない。
だけど、迷いながらでないと操作できないコーヒーマシーンで、欲しくないコーヒーが出てきてしまったとき。ボタンを押し間違えてるのはあなたではなく、そうさせてしまったデザイナーの責任だ。
謝る必要なんて全くない。
「わかりにくい! これを作ったデザイナーを連れてこい。ユーザーの声を聞かせてやる」と大きな声で言っていいのである。
***
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