太古に思いを
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記事:堀越ひでき(ライティング・ゼミ9月コース)
今、縄文時代が熱い。ブームと言ってもいいのではないか。
なにせ戦いのなかった時代だから。
だからと言って、弥生時代を忘れてもらっては困る。
戦いはあったかも知れないが、国家を形成していく重要な神話のタネのような時代ではないかと、僕は思っている。
令和7年の元旦、僕は、出雲大社へ初詣に行った帰り道、荒神谷遺跡に立ち寄った。出雲大社にお参りした時に、清々しい碧い空からの風が僕を通り過ぎ、新年のお祓いができた気がした。その清々しい気分になったことで、長年訪れたいと思っていた荒神谷遺跡に行ってみようかと思ったわけだ。
僕は、荒神谷遺跡の駐車場に車を止め、エンジンを切ると、周囲の静寂が心地よい。元日のうららかな昼の日差しが山陰の地を優しく包み込み、冬とは思えないほど温かく感じられる。
「コートはいらないな」
車の助手席に置いたコートをそのままにし、遺跡への道を歩き始めた。
右手には、水をたたえた池のようなものが広がっている。立て札によると、蓮が植えられているらしい。夏には蓮の花が咲き誇る景色が楽しめるとのことだ。
僕は想像してみる。ピンクの花が鮮やかに咲き乱れ、緑の葉がそれを引き立てる。そして、その背景には青空と白い雲が広がる。人工的な建物が一切見えない谷間の風景は、まるで太古の世界に迷い込んだような錯覚を覚えさせる。
歩を進めると、やがて銅剣などが発掘された斜面が目の前に現れる。ここは谷の最奥に位置し、南向きの少し急な斜面だ。谷の地形に沿って左へ緩やかに曲がった場所にあるため、隠れた聖域のような雰囲気と言ってもいい。
発掘現場を見下ろせるように設けられた観覧スペースからは、レプリカの銅剣が整然と並べられた光景を見渡すことができる。その景色は、昭和58年の発掘時にテレビで見た映像そのものであり、発掘当時、小学生だった僕は、その熱狂をテレビのニュースで見ていた。それが鮮明によみがえってきた。
この銅剣がここに安置(埋葬?)されたのは、今から約2000年前だそうだ。
弥生時代ということになるのだろう。
僕は、2000年前にこの場所で銅剣が安置されたときの情景を想像してみた。出雲平野はすでに形成されていただろうが、人々は平野の真ん中ではなく、荒神谷遺跡のような山間の縁に暮らしていたのではないだろうか。
当時の生活を思い描くと、強風や外敵から身を守るため、山のふもとや谷間を拠点とすることは理にかなっているように思える。
特にここ、出雲の冬の風は相当に厳しい。今の出雲にも伝わる築地松のある風景が、それを物語っている。そのような強風からも、この地なら影響は受けにくいだろうと想像する。
こうやって想像することで、荒神谷で暮らす人々の姿が、徐々に僕の頭の中に描かれていった。
僕は、なぜか「少女」の存在を感じた。
2000年前の当時、この地で何か特別な出来事があったのではないか。
銅剣を所有していた一族は、この荒神谷の最奥の人目に付きにくいところに銅剣を安置し、新たな地へ移住したのかもしれない。
彼らは、そうやって人目に付きにくい谷の奥へ銅剣を安置することで、再び戻ってきた時のことや将来の誰かに銅剣を託すことを考えていたのではないか。
銅剣はただの武器ではなく、祭祀や神聖な儀式に使われる重要な道具だったはずだ。
そして、その銅剣を守るために、少女とその一家は、一族から離れ、荒神谷にとどまることとなった。銅剣のことを知る人を残すことが必要だったから。
そうやって、少女とその一族はここに住んでいたが、やがて家族は次々と亡くなり、少女だけが残された。
彼女は銅剣を守る最後の存在となり、その役割に孤独を抱きながらも使命を果たし続けたのではないか。
少女は銅剣に対して複雑な思いを抱えていたかもしれない。この銅剣が彼女をこの地に縛り付け、孤独を強いる存在であったからだ。それでも彼女は、この遺跡を未来へ託そうと考えたのではないか。
彼女がどのようにしてこの地を人の目から遠ざけたのかはわからない。しかし、荒神谷遺跡はその後忘れ去られ、人が立ち入ることはなかった。まるで時間が止まったかのように静寂を保ち続け、昭和58年にようやくその姿を現したのだ。少女の願いは叶ったのだろう。発掘された銅剣は祭祀としての役割を終えたが、国宝として大切に保管されることとなった。時代を越え、価値を認められたことで、少女は安堵したかもしれない。
荒神谷遺跡は、島根県出雲市に位置し、中国山地が始まるあたりにある。昭和58年の発掘では、358本もの銅剣が発見され、日本国内最大級の発見として大きな話題となった。これらの銅剣がなぜ一か所に整然と並べられていたのかは、いまだに解明されていない。考古学的な研究が続けられているが、その謎めいた魅力は尽きることがない。
出雲大社から車で30分ほどの距離にあるため、訪れるのも比較的容易だ。太古の神秘に触れ、かつての人々の思いや祈りを想像しながら、ゆっくりと散策してみるのもよいだろう。この地に立てば、2000年前の少女や人々の気配を感じ取ることができるかもしれない。歴史の謎とロマンに満ちた荒神谷遺跡に、ぜひ皆さんも足を運び、太古に思いを馳せるひとときを過ごしてほしい。
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