繰り返されるシワの話
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:吉田実香(ライティング・ゼミ9月コース)
40代も後半に突入すると、日々「老化」を感じるお年頃となる。
それと同時に、親の老化、健康も気になるようになる。
アンチエイジングや健康法のテレビ番組やYouTubeをついつい見てしまい、友だちに会えば感じている老化のキザシで盛り上がり、親に会えば健康や認知症の心配をしている。
年末に実家に帰ったときには、やはり母親と老化やら病気やらの話題で盛り上がった。母の体調の心配をして口うるさく言ってみたり、逆に私の体を心配してあれこれ言ってくれたり、母の「70を超すと」の枕詞から始まる老いにまつわる苦労話をいろいろと聞かされたり。
でも、おかげさまで今のところ母はこれといった病気や不調はなく暮らしているので、笑いながら話せることは、とてもありがたいと思う。
いつから、「老化」を感じるようになったのだろうか。
私は背が低く童顔だったため、学生時代から年齢よりも下に見られることが多く、それがコンプレックスだった。
大学時代に4年間続けたファミリーレストランのアルバイトでは「高校生なのにえらいわね」とお客さんから言われ続け、20歳でロスに行ったときに道を尋ねたら子どもだと思われてとても心配されたり、大学を卒業して営業職に就くと「高校を卒業したばかりなのに頑張っているわね」と言われたり。
だから、大人に見られたくて、メイクや服装にこだわっていた時期もある。
しかし、あるとき、30歳を過ぎた頃だったと思うが、実年齢より下に言われたときに嬉しいと思う自分に気づいて、ものすごく驚いた。
このときに、これが「年を取る」ということなんだと思い、「老化」を意識した最初だったのではないかと思う。
さて、その年末に実家へ帰ったときのこと。
「まぁまぁ、一年お疲れさまでした」とお昼にビールを出してくれて、真っ昼間から二人で飲んだ。
その日は日帰りの予定だったため、「1杯だけね」とか言いつつ、お酒が好きな母と私が一杯で終わるはずもなく、二人で盛り上がり、だいぶ飲んでしまった。
そこで、冒頭の老化についての話題で盛り上がったわけだが、ふと、母が「やっぱり若いわね、シワもほとんどできてないし」と言って、まじまじと私の顔をながめていた。
「いやー、そうでもないよ。だんだん年相応に言われるようになってきたしね」と返した。
と、ここで、あれ、この会話、どこかで聞いたことがある、と思った。さらに、この光景も見たことがある、とも。
そうだ、母と祖母の会話だ。同じように、二人で酔っぱらって、シワの話をしていた。
あれはたしか、私が高校生か大学生の頃だったか。なんとなく掘りごたつに入っていた光景が浮かぶので、冬だったように思う。
祖母もお酒が大好きな人だった。母は実家へ帰ると、ここぞとばかりに飲んだくれて、祖母も嬉しそうに母と一緒にお酒を飲んでいた。
当時はそんな母を見てうんざりしたこともあったけれど、今思い返してみれば、親子で気兼ねなく飲んで酔っ払って遠慮なく好き勝手な話をするという、とても微笑ましい光景だったと思う。
そのときも、祖母と母は飲んで、ああでもない、こうでもないと、たわいもない話をしていた。
祖母が、母に「あんたは、シワができねぇな、まだワケーな」と言った。母は、「いやー、シワだらけだよ。年を取ったべ。まぁ、年のわりには若いって言われっけど」と返した。
学生の私から見たら、母の顔にはしっかり年相応のシワが刻まれていて、「なんだ、この会話」と思った覚えがある。
しかし、私は母が24歳のときの子であり、私が高校生か大学生ということは、当時の母はまだ40代前半だったことになる。今の私よりも若いではないか。
40代前半の母の顔のシワについてははっきりとは思い出せないけれど、でも、実家へ帰って羽をのばし、祖母と楽しくお酒を飲んでいる母の表情は、普段の生活では見られないような穏やかな笑顔だったことは思い出すことができた。
そんな、なんていうことのないワンシーンで、今まで思い出したこともなかったけれど、母と飲みながらシワの話をしていたら急に思い出して、思わず笑ってしまった。
繰り返されるシワの話。
祖母も、祖母の母と一緒にお酒を飲んだり、シワの話をしたりしたのだろうか。
母の家系は皆お酒が強いので、遡っていくと先祖代々、親子で酔っ払いながらシワの話をしていたのかもしれない。
そして、シワの話が繰り返されるだけではなく、受け継がれるシワもある。
祖母も母も、おでこに深いシワがあって、そのシワのでき方がそっくりなのだ。そして、私のおでこにも、似たシワができ始めている。
同じシワは嫌だ! と思い、保湿に気を遣ったり、表情の動かし方の癖がおでこのシワを作ると聞いておでこを動かさないようにしたり、マッサージをしたりして、努力はしている。
でも、もっともっと年齢を重ねれば、老化には勝てず、きっと同じシワが刻まれてしまうだろう。
私は母にまったく似ていない。唯一似ているといえるのは色白なところだけだ。
それなのに、年齢を重ねて、どうしてシワが似るのか。納得がいかない。
でも、子どもの頃や若い頃には母との関係に悩むことも多々あったけれど、母と同じく実家で飲んだくれる娘となり、色白だけではなくシワも受け継ぎ、やっぱり私は母の娘なんだなぁと思った、2024年の年末だった。
***
この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」を受講した方が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
お問い合わせ
■メールでのお問い合わせ:お問い合せフォーム
■各店舗へのお問い合わせ
*天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。
■天狼院書店「天狼院カフェSHIBUYA」
〒150-0001 東京都渋谷区神宮前6-20-10 RAYARD MIYASHITA PARK South 3F
TEL:03-6450-6261/FAX:03-6450-6262
営業時間:11:00〜21:00
■天狼院書店「福岡天狼院」
〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階
TEL:092-518-7435/FAX:092-518-4149
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00
■天狼院書店「京都天狼院」
〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5
TEL:075-708-3930/FAX:075-708-3931
営業時間:10:00〜20:00■天狼院書店「名古屋天狼院」
〒460-0002 愛知県名古屋市中区丸の内3-5-14先 レイヤードヒサヤオオドオリパーク(ZONE1)
TEL:052-211-9791/FAX:052-211-9792
営業時間:10:00〜20:00■天狼院書店「湘南天狼院」
〒251-0035 神奈川県藤沢市片瀬海岸2-18-17 ENOTOKI 2F
TEL:0466-52-7387
営業時間:
平日(木曜定休日) 10:00〜18:00/土日祝 10:00~19:00