眩しくて輝く後輩に恥じない生き方をするために
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:春紀 沙和(ライティング・ゼミ9月コース)
1人になった時、急に思い出す人がいる。
学生時代の1つ下の後輩で、ウクライナ人留学生のユリヤさんだ。
後輩と言っても、彼女の方が年上。海外の大学を卒業後に来日し、日本語学校に通ってから大学院生になった。
正直、めちゃくちゃ仲が良かったというわけではない。
お互いゼミが違っていて、授業や大学のイベントで会った時に話すぐらい。Facebookでは友達同士だったが、互いの投稿に「いいね!」を押し合うぐらい。
でも、私の海外インターンシップのエピソードを熱心に聞いてくれていたのが印象的だった。
彼女は、いつも輝いていて、いるだけで場が華やかになる存在。
170cmを超える長身で、小顔にスッと通った鼻筋、長い手足。
金髪をなびかせながら、いつも化粧をバッチリと決めていた。
まるで、海外のハイブランドで埋め尽くされたファッション雑誌から、そのまま飛び出してきたような人。
実際、ユリヤさんは在学中に外国人専門のモデル・タレント事務所に所属していて、NHKドラマにもエキストラとして出演したこともある。
ウクライナ語、英語、日本語が堪能で、授業では英語を使いこなし、修士論文も英語で執筆。でも、私と話す時は、いつも流暢な日本語で話してくれた。経済学を専攻していて、難しい数式や理論も使いこなし、絵に描いた「才色兼備」だった。
でも、ユリヤさんはそれをひけらかすことは絶対にせず、謙虚そのもので落ち着きのある佇まい。美しい見た目も相まって、まさに「クールビューティー」だった。
「天は二物を与えない」は嘘で、たまに「二物も三物も四物も与える」ものだと思ってしまうほど。
後輩だけど、先輩のよう。同じ学校に通っているが、別世界でとんでもなくキラキラ輝く人。
人はあまりにも完璧な人間を前にすると、嫉妬や憧れを一切抱かず、ただ冷静になれることを知った。
ユリヤさんは大学院を修了後日本に残り、激務だけど報酬が高いことで知られる、外資系の大手コンサルティング会社に就職した。
どこまで行っても、ユリヤさんは輝いていた。
5年ほど前、私のFacebookのお友達リストから、いつのまにかユリヤさんが消えていた。
仕事が忙しいからFacebookをやめたのか。それとも、他のSNSが流行り出していた頃でFacebookのアカウントを閉じた人も多かった頃。彼女もFacebookを閉じて、他のSNSを始めたのだろうか。
ユリヤさんとのつながりがなくなってしまったことは寂しかったが、それほど悲観的にはならなかった。
私とは住む世界の違う、眩しすぎるユリヤさんのことだから、絶対に幸せに暮らしていると信じていたから。
しかし、その考えは、2022年2月に全否定されてしまった。
ロシアによるウクライナ侵攻が勃発した。
首都キーウの美しい街並みが空爆され、焦土と化す光景。
町に残る、目を覆いたくなるロシア軍侵略の生々しい痕跡と、耳をふさぎたくなる生存者の証言。
国を守るために軍人として戦地に赴く市民、罪のない子ども達の姿。
ウクライナのニュースを見て真っ先に思い出したのは、ユリヤさんのことだった。ユリヤさんのことを思うと、遠い国の出来事かもしれないが、他人事とは全く思えず、胸が痛む日々。
ユリヤさんはどこにいるのだろうか、無事なのだろうか。家族は大丈夫なのだろうか。
あのまま日本で働き続けていたのだろうか。新型コロナウイルス感染症のパンデミックが起きた時、母国に帰った留学生の友人もたくさんいた。
もしかして、ユリヤさんはウクライナに戻っていたのだろうか。
それとも、日本でもウクライナでもない国で元気に暮らしているのか。
手がかりもなく、安否は分からないまま。
ユリヤさんと同じゼミだった友人や後輩にもできる限りあたってみたが、みんな「分からない」とのこと。
「突然、母国の平和や当たり前の日常を奪われたユリヤさんは、何を思ったのだろう?」
彼女に探すのにも限界。ただ何事もなく無事に元気でいてくれれば良い、と祈ることしかできない私。
他にできることはないかと自問するも、己の無力さを思い知るだけ。それでも懸命に想像力を掻き立てる。
平和な国だったはずなのに。突然、大事な人や家が、いとも簡単に奪われるのが日常になってしまうなんて。いつ何が起こるか、本当に分からない。
そしてそれは、災害が多い日本で生きる私達にとっても、他人事ではない。
「当たり前のことなんて何もない。当たり前は、ある日突然なくなることだってある」
私が出した答えは、「些細なことでも良いので、自分自身の考え方や行動を変える」だった。
それまでの私は、将来の備えのために貯金を優先し、「次の機会に」と思ってやりたいことを先延ばしにし、何かを始めるにしても「失敗したらどうしよう」とためらいがちだった。漠然とした未来について悩みすぎて、行動に移せないことが多かった。
物事を決断する時に、「今しかない」と考えてみよう。
「明日がある、来年がある、いつかが来る」とは思わずに、「もしかしたら、明日は、来年は、いつかは、ないかもしれない」と考えてみよう。
そして、後悔しないために行動しよう。
それからは、小さなことでも行動に移した1年間。
仕事を1週間休んで海外に住んでいる親友に会いに行った。
ずいぶん長い間恋愛から遠ざかっていたけれど、彼氏を作るためにマッチングアプリに登録したり、友達の集まりにも積極的に参加したりした。おかげで、大好きな人ができてお付き合いを始めた。
自分の元気な姿を、美しい形で残しておきたくて、プロのカメラマンに写真をたくさん撮ってもらい、思い出をたくさん残せた。
私の考え方が変わり、行動を変えたところで、世界は何も変わらないだろう。自分のことだけなんとかしようとして、「楽観的、無責任、無意味」だと思う人もいるだろう。
でも、もしも明日が来なかったとしても、後悔しないために。きっとどこかで元気に暮らしているユリヤさんに恥じない生き方をするために。
その思いで動いてきた。
人からすれば小さなことかもしれないが、私にとってはたくさんの思いの詰まった、特別な一年になった。
ユリヤさんの存在は、今でも眩しくて輝いている。
そんな彼女なら、きっと世界のどこかで幸せに暮らしていることを信じて、私は今日も後悔することのないよう、一日を一生懸命生きていく。
***
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