メディアグランプリ

料理男子の育成は「猫ちゃぁああぁん!!」の叫びと共に


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:パナ子(ライティング・ゼミ9月コース)
 
 
確かにとても嬉しくありがたい気持ちはあったけれど、予想以上の反響に驚いた。
 
体調不良で寝込んだ週末、9才になったばかりの長男が私の代わりに料理を作ってくれたのだが、その写真をSNSにあげたところ約6万を越えるイイネがついたのだ。
 
「信じられない、本当に9才?」
「神童……」
「これは涙が出ちゃうね」
 
コメントには息子を賞賛するものが多く、そのほとんどが9才でこのレベルを作れるということへの感心だった。
 
メニューは、焼きめしとお味噌汁。
そこまでお褒めの言葉を頂けることに驚きつつ、内心そんなにスゴイ事なのかしら!? と思ったりした。
 
実は、長男が台所に立つことは、我が家ではそんなに珍しい事ではなかったからだ。
 
彼は2才頃から台所仕事への興味を持つようになった。わりかし言葉も早く、とにかく意思表示がつよつよのつよ! と言った感じで私が台所に立って調理を始めると「できる! できる! ぼくもやる! ぼくもやる! ぼくもやる!」と怪獣のように吠えた。
 
正直なところ全然教える気はなかった。
この頃は小さい息子を保育園に預けながら会社員をしており、とにかく時間と気持ちの余裕がなく、慣れた私がやった方が絶対に早いのは目に見えていたからだ。
 
「わかった、わかった」
「また今度ね」
「今日はお母さんがやるから待ってて」
 
彼の気持ちに応えるほどの余力がないので、言い回しを変えつつ待たせる日が続いた。そのうち納得できない息子は怪獣の口から火を噴いた。
 
「ぼ ぐ も゛ や゛ り゛ た゛ い゛ ―――!!! ギャーーーーーー!!!!!」
 
完全に根負けだった。
閉口した私はやれやれと思いつつ、どうせ台所に立たせるならと使い勝手のいい子供用包丁を準備することにした。
 
色々と見比べた結果、「初めて持つ包丁だからこそ『本物の切れ味』を」と謳っているものにした。一度言い出したらそれが通るまで言うような頑固な男だ。道具も一流だったら納得するだろう。
 
これが彼と台所の始まりだった。
 
そして、ここからが試練だった。
念願の台所に立てた息子は「ロマンティックが止まらない」様子で終始ウキウキルンルンだったが、私はといえばとにかく怪我をさせたくない! の一心で細心の注意を払いまくった。
 
「猫ちゃんの手だよ?」
「あッ ほらッ 猫ちゃんの手!」
「ちょ、まっ、猫ちゃんの手ってば!」
「猫ちゃんの手ぇえぇぇええええええええええ!!!!!」
 
猫ちゃんと叫び過ぎてこのまま劇団四季の「キャッツ」が始まってしまうんじゃないかと思う程だった。
 
その小さくて可愛い指がちょん切れちゃったらお母さん泣いちゃう! と食材に添える手をグーの形にするのを覚えさせるのに必死だった。まだ2才、しっかりしているようですぐに忘れる彼に私は何度も何度も「猫ちゃん」と唱えた。
 
私に少々キレ気味に「猫ちゃん」と言われても「あ そうだった」とあまり気にも留めてない様子の彼は、料理を自分の手で生み出す喜びに満ち溢れていて(あぁ本当に好きなんだな)と私を納得させた。
そして「つぎは どうするの?」と工程を進みたがった。
 
きゅうりなど子供でも切りやすい柔らかめの野菜を包丁で切らせ、レタスなどをボールの中でちぎらせ、ミニトマトのへたを取って洗わせる。
いまこの時点で出来そうな事はどんどんやらせた。
 
次の試練は「火」だった。
とにかくやけどが恐い。間違って熱した鍋にその小さなおててがジュッとなったらと思うと恐くて仕方がなかったが、料理に火はつきものだ。
 
踏み台に登らせ、コンロの前に立たせる。
「あついよ~? あついよ~?」
今度は怪談を披露するときの稲川淳二ばりにおどして、熱を入れたフライパンが熱くて怖いことを教える。
 
ジュ――――――――!!
美味しそうな音が台所に響くと、息子はニコニコずっと笑顔を絶やさずにフライ返しを手に食材を炒めた。
 
その後も少しずつ少しずついろんな事を教え、それの何が危ないのか、味付けの順番、失敗した時のリカバリー法……など家庭料理に使える技の数々を伝授した。
 
子供に料理を一から教えるのは、ドミノを立てていくような本当に繊細な事だったと、今振り返れば思う。
 
包丁や火、一歩間違えれば大けがにつながるような事に気をつけながら料理の完成というゴールを目指す。大変だったけれど積み重ねた時間は、二人の宝物になり、彼をいい男に仕上げてくれた。
 
「今日調子悪いんだ」と言った瞬間、息子は冷蔵庫のなかをチェックしながら背中で応えた。
 
「オッケイ! 寝ときなよ、奥の部屋で。おれ適当にハムとか焼くし」
5才の弟の分まで朝ごはんを作ってくれた彼は、結局なんだかんだと台所に立ち続け夜ご飯も作ってくれたのだった。
 
「なんか手伝おうか?」
体調が悪くてもずっと横になっているのが忍びなく何度か声を掛けるも、返って来る言葉は全て「大丈夫、大丈夫!」だった。
しかもキラキラの笑顔と一緒に。
 
まっ、眩しい!
親バカと思われてもいい! 
その余裕な感じ……超絶かっこいい!!!!!
 
その晩、何度も「ありがとう、本当に助かった」とお礼を述べながらコーンの甘味がアクセントの焼きめしとだしの効いたお味噌汁を胃袋に納めた。
 
繊細に並べたドミノは長い時を経て、大輪の花を咲かせたみたいだ。
 
 
 
 
***

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2025-01-23 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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