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燃えさからないほうの「好き」を抱えて生きている


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:永堀ちあき(ライティング・ゼミ1月コース)
 
 
ここ2年ほど、インド映画をよく見るようになった。
この話題になると、たいていの人からは「あ~ボリウッド映画ね」と返ってくるので、
 
「いやいや実はインド映画=ボリウッドじゃないんですよ、ボリウッドは北インドのヒンディー語映画のことで、私が見た『RRR』は南インドのテルグ語なのでちがうんです、テルグ語以外だとタミル語の映画のほうが日本人はなじみがあると思いますよ、『ムトゥ 踊るマハラジャ』なんかはボリウッドじゃなくてタミル語ですね」
 
と、一息で説明できるくらいにはなった。周りの人からすれば、れっきとしたインド映画オタクである。
 
しかし、私自身は、自分のことを、インド映画オタクだとは思っていない。
 
私は、2023年に『RRR』を見たのをきっかけに、1~2か月に1回くらいのペースでインド映画を見るようになった。それまでは年に2~3回映画館に行けばいいほうだった。日々の生活の忙しさに負けがちなので、これだけでもけっこうな変化だと思う。
もっといろいろな情報を得たいと思って、SNSで、インド映画好きな人たち——「沼の住人」たちをフォローしてみたら、「好き」のレベルが想像を超えていた。
 
日本公開未定の映画をどうしても見たくて、インド現地に飛ぶ人。
なんと、自分でインド映画の配給会社を立ち上げる人も現れた。
映画にハマるだけでなく、現地の言語を独学で学び始めた人や、自宅で南インド料理を作ってみる人もいる。
『RRR』を100回見た人だけで、びっくりしている場合ではなかった。
 
みな、「好き」の気持ちが止まらない。ひとたび着火したら消えないどころか、どんどん薪をくべて大きくなる焚火みたいだ。
 
私はというと、燃えさかる焚火にあたりながら、「おぉ……」と圧倒されるほうにいる。
そして、ときどきこう思う。
 
「働きながら、どういう生活してたらそんなにたくさん行動できるんだろう、すごいな」
「あの人と同じインド映画好きを名乗るなんて、恥ずかしいかな」
 
たとえばこれが研究者とか、映画のバイヤーとか、いわゆる“その道のプロ”が有益な情報をくれるなら、まあそういう人なら当然詳しいよね、と納得しやすい。
それに対して、沼の住人たちは、自分と同じフルタイムで働く会社員だったりする。
 
そういうときに、自分の心の折り合いがつかなくてやっかいだ。
確かにわたしは、インド映画が好きだ。嘘じゃない。でも、かれらほどわかりやすく熱烈なファンになりきれない。同じ勤め人なのに。
そんな自分に気後れして、「好き」を表明することをためらってしまう。
 
あなたも、私と同じ経験はないだろうか。会話の中で「○○、お好きなんですね」と言われると、
 
「いやいや、大ファンってほどじゃないですけど……」
「あっいや、まあ、全部の作品をチェックしてるわけじゃないですけど……」
 
とか、反射的に言葉をつけたしてしまう。心なしか、声のトーンも、しょぼしょぼとダウンしていく気がする。
 
そうなりがちな自分を観察しながら、いやいや待てよ、と思った。
たしかに、わかりやすい「好き」をもつ人は輝かしく、うらやましい。
じゃあ、ぱっと見でわかりやすい「好き」じゃなきゃ、価値はないのか? 
 
SNSを眺めていると、「○○マニア」「○○の人」を名乗る愛好家たちがたくさんいる。驚くほど詳しい考察とか、比較レビューとか、年間ベスト○○とかを発信している。どれも熱量が高くて、役立ちそうな情報ばかりだ。フォローするメリットがわかりやすいので、私のような初心者を含めてたくさんのフォロワーが集まる。
このように、燃えさかるほうの「好き」は、外向きのエネルギーを持っていて、価値をはかりやすい。
 
それに対して、燃えさからないほうの「好き」は、わかりづらい。
ただし、単にわかりづらいだけでもない、と私は思う。いわば、火鉢の埋み火だ。灰に埋もれてよく見えないけれど、内側でじわじわとぬくもり続ける炭火のような。
 
全曲知っているわけじゃないけど、折にふれて聴きたくなるミュージシャン。ストーリーを完璧に説明できるわけじゃないけど、なぜか子どもの頃からずっと心に残る小説。そのくらいの小さな「好き」が、自分のどこかを温め続けている。
 
そんなささやかな温度の集まりが、知らず知らずのうちに“自分らしさ”なんかを作ってくれているのだとしたら、価値がないはずはない。「その程度なら、本当の『好き』じゃない」なんて、他人から勝手にジャッジされるいわれはない。ましてや、自分で自分をそう断じて、卑下する必要もない。
自分だけの「好き」のありかたなのだから。
 
だいたい、私たちは、日常のさまざまなことで、いつも頭がいっぱいだ。仕事とか、家族とか、貯金とか、見て見ぬふりしている窓サッシの汚れとか。ライフスタイルだって、そう簡単に変えられるものじゃない。
 
そんな頭の中のすき間に、新しい「好き」がまぎれこんで、なにげなくそこにいつづける。そして、何かのきっかけでパチッと爆ぜる可能性を秘めている。
それってけっこうすごいことだと思う。
 
 
 
 
***

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