思い切った決断で呼吸困難になった話
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:星 灯(ライティングゼミ・1月コース)
もう限界だ……。
休憩室から出てきてついに言ってしまった。
「辞めさせてください」
昔、パン屋で働いていたことがある。それまでは会社員をしていて、思い切った転職だった。
元々パンが好きで、美味しいパン屋を探してはパン屋めぐりをし、パン教室に通ったり、家でもパンを焼いていた。このパン好きが高じてパン屋の世界に飛び込んだのだ。
が、これが悲劇の始まりだった……。
仕事は朝5時から夕方6時までで、作る方がメインの仕事。だが、これがなかなかのハードスケジュールだった。
パン作りというのは時間勝負なところがある。特にパンには「発酵」というパンを膨らませるための大事な工程がある。以前、パン職人に「パンは生き物だ」と言われたことがある。その生き物とは主に「発酵」のことを指している。この発酵が足りなさすぎても、行き過ぎていても美味しいパンにはならない。
だがこの発酵具合の見極めをつかむことが、なかなかできなかった。気温が高い夏は発酵が進むのが早いが、寒い冬は遅い。大まかな発酵時間は決まっているが「何分発酵させたから終わり」ではない。この見極めが上手くできず、何度オーナーに怒られたことか……。そして薄利多売のパン屋さん。次から次へとパンを焼いていかないと間に合わない。慌ただしい毎日が続き、だんだんと疲弊していってしまった。
そしてついに迎えた限界の日……。
その日はバケットを焼いていたのだが、いつもより長く焼き過ぎてしまった。
「オーナー、このまま出しても大丈夫ですか?」
「う〜ん……、まぁいいよ。出して」
そして店頭に並べてちょっと経った頃、パンを買いに来たお客さんに
「なんかいつもより黒くない?」
それを聞いたオーナーは
「全部下げて!」
そして
「お客さんに言われちゃっただろ!? 適当にやってんじゃねーぞ! ちゃんとやれ!!」
プチーン……。
糸が切れた。
「適当になんかやってません!!」
言い返したが、もうそこからは険悪なムード。
っていうか出す前に確認したよね!? それでも出していいって言ったのはあんたじゃん! それなのに怒ってくるとかおかしくない!?
口に出しては言わなかったが、もうめちゃくちゃ腹が立って泣きたくなった。
とりあえずそのまま休憩を取ることになった……。もう心がもたない。まともに息が吸えない。人が本当にしんどくなる時って呼吸ができなくなるんだと思った。
そしてとうとう辞めることになった。だがすぐには辞めることができず、そこから二ヶ月は頑張って働いた。その間次の仕事を探す余裕もなく、辞めてからはしばらく無職だった。
元をたどれば、そもそも無謀な挑戦だった。
正直、私はパン作りをしたことはあるが、学校に通ってしっかりと勉強をしたわけではない。趣味で作っていた程度の、要するに「素人」だ。だがそれにも関わらず、趣味とはまったく勝手の違う「本場」に飛び込んでしまったのだ。安易な選択をしてしまったと自分のアホさ加減を嘆いた。
だがこの無謀な挑戦、それはオーナーも同じだった。人を募集するもなかなか応募がなく、やっと応募があったかと思ったら来たのは素人の私。でもそれでもいいから人手が欲しかったのだろう。オーナーも素人を採用するという無謀な挑戦をしたのだ。
安易な選択は、安易な人を引き寄せます。
同じ悲劇に遭わないためにも、今やりたいことがあって一歩を踏み出そうか迷っている人に伝えたいことがあります。
自分がやりたいと思ったことにチャレンジするのはとっても勇気がいることです。その勇気を振り絞って目の前にチャンスがあるならぜひチャレンジして欲しいと思います。
ただ、好奇心とチャレンジ精神だけではどうにもならないこともあります。
今の自分の状況をしっかりと把握したうえで、それが正しい選択なのか、相手の状況もしっかりと確認したうえでチャレンジするか判断して欲しいと思います。体を壊し、心まで壊してしまっていてはせっかくやりたいと思って始めたことなのに本末転倒な結果になってしまうこともあります。
今の自分にとって何が正しい選択なのか、しっかりと見極められる人になりたいですね。
呼吸困難になる前に……。
***
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