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西の反対は南、振り向いたら行き止まり。


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:紫葉アリア(ライティング・ゼミ3月コース)
 
 
「ここは一体どこなんだ……」
 
天気は曇り。今にも雨が降り出しそうなどんよりとした濃いめのグレーの空。道ゆく人は急ぎ足。私は新宿駅にいた。
 
普段福岡に住んでいるが、仕事の都合で東京入りした初日。実は東京に来るのは初めてではない。何度も来たことがあるし、新宿駅にも何度も来たことがある。
 
それなのに。
 
タイトルからお察しのとおり、私は迷子になっていた。
 
東京に来る機会は決して頻繁にあるわけではないので、東京を拠点としている知り合いや友人は来るとたいてい食事に誘ってくれる。
今日は仕事仲間との気軽で楽しい会食。集合は18:45。
 
今回は場所の指定も、メンバー集めも、時間の周知も、お店の予約もすべて仲間が済ませてくれていた。私がやることと言えばこの身をその場に連れていくだけ。実に簡単なお仕事だ。
 
18:30。乗っていた電車が新宿駅に到着し、駅構内でGoogleマップの位置情報を確認する。予定のお店は東口から近いようだ。
 
何度も東京に来たことがある私は知っている。いろいろな線が通っている大きくて複雑な駅は、出口を間違えると目的地から大きく遠のくことになることを。
以前、渋谷駅近くのビル内にあるカフェで待ち合わせをしたとき、適当な出口から出たらそのビルに辿り着けなくなったことがあった。
目の前にビルが見えているのに、目の前を線路が果てしなく横切っており、向こう側に渡れない。
 
すでに待ち合わせ場所に到着している相手に「足元近辺には到着してまして見下ろしたら豆粒のように私が見えるかもしれません。私が見えますか。そしてどうしたら線路の向こう側に行けるのでしょう……」と電話をかけたことがある。
 
もちろんビルの足元にいる私のことは見えているはずもなかったし、大遅刻という結果となりめちゃくちゃ平謝りする羽目になった。
しかしその代わりに「渋谷駅は目の前に出口があるからと言って何も考えずに出ては大変なことになる」という教訓を得ることが出来たのである。
 
今回は渋谷に負けないサイズ、そして複雑さを持つ新宿駅が舞台だ。大丈夫、分かってる。まずは地図、出口表示の看板の確認からしなければならない。電車から降りてすぐにホームにある構内地図を確認してみた。
 
左:1〜3出口
右:7〜9出口
 
……ん、東口は????
 
地図上に東西南北の出口表記がないのだ。数字の表記しかない。一体私はどこに向かえば良いのか、スタートと同時に見失ってしまった。開始時点ですでに暗雲が立ちこめ出している。しかしずっと駅のホームにいても仕方がないので、とりあえず改札階に上がってみることにした。うっかり改札から出てしまわなければまだ大丈夫。
 
エスカレーターで改札階まで上がった私は、改札機から外に出ずにぐるりと辺りを見回してみた。すると少し離れたところに「東口」という表記を見つけたのだ。
 
よかった!! その表記に近い改札から出たら良いのだ。無事に辿り着ける。私はそう思って安堵した。そう、その時はそう思えたのだ。
 
天井にぶら下がっている「東口↑」という表記を辿りつつ、人混みの流れに乗る。そして遠くに出口が見えた! 目を輝かせ、笑顔で出口の名前を確認した! しかしそこにあったのは
 
西口。
 
「東口↑」を辿りながら来たのにどうやら反対側に出てしまったようだ。人混みの流れに乗ったことでいつのまにか違う流れに合流してしまったらしい。しかし数字表記しかなかったあの時と、東西南北の表記をすでに見つけている今とでは問題の大きさがまるで違う。まったく取るに足りない小さな問題である。
西口に来たのなら、単純に反対へ行けばいい。私は即座に踵を返し、反対側へと向かった。すぐに出口を見つけた。よしよし、と思いながら出口の名前を確認する。
 
まさかの、南口。
 
西の反対は東のはずなのだが。
私は西口を背にしてまっすぐ向かったはず、だったのだが。
 
なぜ私は南口に来てしまったのか。我ながらまったく意味がわからない。知らない間にこの世界で東西南北という概念が変わってしまったのかという妄想を一瞬だけ挟んだ。当然、そんなはずはない。単なる私のミスである。
 
しかし西口から南口に出たのであれば、東口は近いはず。南口を背に立ってみる。
今辿って来た道は西口から辿ってきたもので、向かって左手にある。ならば向かって右手側にいけば東口に着く。完璧な理論だ。私は右手側に視線を向けた。
 
そこはまさかの、行き止まりだった。
 
その瞬間、目の前が真っ暗になった気がした。
新宿駅、ムズイ。モウムリデスワタシ。
駅の周りに広がる雲は、私の目も覆ってしまっているのではないのか。
 
すでに時計は19時を指していた。遅刻確定である。東口がどこなのか駅員に尋ねたくてもそもそも彼らがどこにいるかがわからない。仲間に連絡をした。
 
「今いる場所の写真を送ってください! そしてそこから絶対に動かないで。迎えに行きます」
 
指令が届く。私は素直に従った。そしてひたすらお迎えを待った。待っている間、私の頭の中をいろいろな思考が駆け巡っていた。
 
(迷惑かけちゃったな)
(新宿駅は渋谷駅と1位2位を争う難関具合だな)
(そもそもみんなこの駅の構図を理解できてるってこと?)
(迷子にならずに済んでいる人はたくさんいるのかな)
(わざわざ迎えに来てもらうくらいなら、諦めずにもう少し自力で頑張ってみた方がよかったかも)
 
など、最初は新宿駅に対する難解さに対して巡らせていたが、だんだん早々に人に頼ることにした自分の判断を少し後悔し始めていた。
 
「あ!! いた!! やっと見つけたー!!」
 
仲間が私を発見してくれた。あーよかった。でも私、自力で頑張るべきだったと思う。もう少し頑張ればよかった。仲間の顔を見るなり、そう思った。
 
仲間に連れられ、無事に目的地に辿り着いた。時刻は19時15分を指していた。30分の遅刻である。今回も平謝りである。本当にごめんなさい。
 
しかし。
後悔をしていた、と言っていた私だが、目的地までのルートを歩いているときに思ったのが「早々に諦めて、仲間に連絡してよかった……」なのであった。
 
新宿駅近辺は本当に難解だ。正解ルートを歩いている途中で”おそらく自力では辿り着かなかったであろう”と予測することが出来るほどに難解だった。多分30分の遅刻では済まなかった可能性の方が非常に高い。
 
なので私は捧げたい。
迷子になった私を迎えに来てくれる優しい仲間へ感謝を。
そして新宿駅を攻略している利用者の人たちに尊敬を。
 
西の反対は南ではないが、そうなってしまうほどに新宿駅は難しい。
 
 
 
 
***

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