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ちゃんとやんなきゃ! の恐怖から脱皮中〜


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:森昭子(ライティング・ゼミ5月コース)
 
 
「お母さん、私のことも書いてよ!」
 
ライティングゼミの課題提出で、次は何を書こうかなぁって夫と話していたら、次女が割って入ってきた。
 
「え? 書いていいの? 何でも書いてもいいの? 意外なんやけど?」
 
次女は大学4年生を休学中だ。就活をやってみたけど、なんかやりたくない、このままみんなみたいに就職できない、したくない、自信ない、と言って何度も泣いて、今、ここにいる。
 
「なんで書いてもらいたいの?」
「お母さんだって、家族の誰かがライティングゼミやっててさー、お母さんのこと書いてくれたらどう思う?」
 
「そうやなぁ、なんかお母さんに関心持ってくれてるんやなぁって思って嬉しいかも」
「でしょー! それよ、それ!」
 
そうか、そうなんだ。
そんなはっきりと、単刀直入に、そんなことを、私に言えるようになったんだ……。
 
 
次女は、生後1ヶ月も経たないうちに、私と一緒に救急車に乗った。5歳年上のお姉ちゃんが、てんかん発作を起こし、痙攣がとまらなかったからだ。
 
生まれた時から、いつ起きるかわからないてんかん発作と知的障がいを持つお姉ちゃん中心の生活だった。
 
赤ちゃんの時から手のかからない優しい子で、勉強もできて、
「うちの子になってもらいたいわ〜」
と、よく言われた次女。
でも、小学生の頃から自分の考えを聞かれるのが大の苦手。立派なことを言わなくてもいいんだよ、と伝えても、自分の言葉がなかなか出てこない。
 
一方で、大人の顔色に敏感で、家族でご飯を食べに行っても、いつも一番安いものを食べるような子だった。
 
あの頃のお姉ちゃんは、元々薬でコントロールが難しい上に、私が薬に否定的で飲ませていないこともあって、ひどい時は、1ヶ月に2〜3度、一度始まったら48時間かけて20回近く断続的に発作を起こしていた。
 
知的にも遅れ、コミュニケーションも苦手なので、いつも次女のあとをついてまわりトラブルを起こすので、次女はいつも自分の友達に謝っていた。
とうとう堪忍袋の緒が切れた次女は
「お姉ちゃんがくるなら、私はもう絶対に遊びに行かない!!」
と怒って遊びに行かなくなったこともあった。
 
かと思えば、お姉ちゃんとそろばん塾に通わせた時は、男の子にバカにされても気づけないお姉ちゃんを見るのが嫌だったのか、
ある日、そろばん塾に行く前に家の神棚に手を合わせて神様にお願いしたらしく、
「お母さん! 今日はバカにされなかったよ。やっぱり神様は凄いねー」
と、嬉しそうに報告してくれることもあった。
 
そんな環境で育ったせいか、自分のことより家族の調和、自分のことより、いつも大変そうな私への気遣いが優先だったのだろう。
いつの間にか、自分のやりたいことや自分の気持ちがわからない、と言うようになっていた。幼い頃から自分の感情をしまいこんできたからだよね……。
 
さらに中学に上がると、恐怖からテスト勉強をし、恐怖から色んなことをちゃんとして、先生からも高評価、いつもちゃんとしてる女の子になった。でも自分の気持ちはわからないまま……、
「何も思いつかないから、私に聞かないで」と言っていた。
 
 
今から7年前、次女が中学を卒業するのと同時に私は離婚した。次女は離婚が原因で学校でいじめられないかと心配しているようだったが、私は自分の道を貫いた。
お母さんである私が自分にウソをつかないで生きることこそが、次女には大切なメッセージだと思えたからだ。
 
その後、お姉ちゃんが家を離れ、自立に向けてグループホームで暮らし、私が再婚して環境が変わると少しずつ次女に変化が現れ始めた。
 
大好きなアイドルもできて、好きなものを好き、と人目を憚らずに言えるようになり、しなければならないことや、したら良いことではなく、少しずつ自分がしたいことをするようになった。
 
去年は、就活よりもクリエイティブ活動に熱心で、自分で作ったゆるキャラでデザインフェスタに出展して、6万円近く売り上げた。今年も来月、規模を拡大して出展予定だ。
 
ちゃんとやんなきゃ! の恐怖から、みんなと同じ就活活動をするのではなく、怖くても立ち止まって、自分にエネルギーを注ぐようになった。
 
クリエイターになるぞ! そんな感じではなく、今、好きだからやってるというゆるい感じ。
 
時々襲ってくる「普通」や「みんなと同じ」にしがみつきたくなる感情に揺れながら、今やっと自分の道が少し見えてきたようだ。
 
振り返れば、
「お母さん、私、昔のほうがちゃんとやってたよね、なんか堕落したような気がする……」
と泣きながら訴えてきたこともあった。
 
そんな次女が
「私のことも書いてよ!」とズバッと私にお願いしてきてくれたのだ。
 
次女の机の上には小さなノートの日記帳がもう6冊重なっている。
「何も感じない、わからない、だから聞かないで」と半べそだったあの子が、自分の気持ちを書きながら自分と向き合っている姿が私には愛おしい。
 
一昨年の夏は、夫が二人で旅行に行くことを勧めてくれて、次女の運転で西伊豆へ行ってきた。夫はずっと寂しい思いをしてきた次女とゆっくり二人の時間を持つことが何より大切だと言って送り出してくれた。
 
伊豆の山道をドライブしながらいつの間にか昔話に花が咲いた。お姉ちゃんの発作が大変だったこと、次女が小さい頃、椅子から落ちて頭を強く打って、翌朝起きてこなくて、もう命に任せるしかないと言われて、刺激を与えないように薄暗い部屋で過ごしたことなど……。
 
そんな話をしながら二人とも前を向いて泣いていた。
「お母さん、なんで昔話をすると涙が出てくるんだろうね……」
あの頃の仕舞い込んでいた感情が解放されたようだった。
 

ついこの間は
「お母さん、どうしよう……、チャッピー(チャットGPT)にずっと悩みを聞いてもらって励ましてもらっちゃった、これっていいのかなぁ、人間と話さなくてもいいのかな……、私、変?」
 
まだ次女のなかにある、〜しなければならない、〜したほうが良いのでは? という制限が時々頭をもたげる。そんな時、自分にも言い聞かせるように私は思う。何をやってもいい、どう感じてもいい、あなたがあなたのままであなたの進みたい方に進んで行けばいい。
 
お母さんはあなたが縦になっても横になっても斜めになってもあなたの味方でいる。
 
 
 
 
***

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