完璧じゃなくていい。愛されたいなら、なおさら。
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:としあん(ライティング・ゼミ3月コース)
なぜか、自分が「完璧だ」と思ったプロダクトが、売れない。
「マーケティングが足りなかったのかな」
「ストーリーが弱かったのか……」
そんなふうに、つい後付けの理由を探してしまう。
けれど、本当の問題はもっと根の深いところにあるのかもしれない。
自分の「好き」をとことん追求して作ったプロダクトが、なぜ人には届かないのか。
たとえば、手にしっくりなじむ絶妙なカーブを描いたカップ。
自分の体型にぴったり合うバッグ。
着心地が抜群のTシャツ。
どれも「自分にとっては最高」なものだ。
けれど、それが「多くの人に選ばれるもの」とは限らない。
売れていくのは、なぜか「普通」のモノだったりする。
それはなぜなのか?
── 答えは、案外シンプルなのかもしれない。
自分の使い心地を突き詰めたプロダクトは、確かに「その人にとって」完璧だ。
けれど、それは究極的にはカスタマイズの世界の話。
多くの人に届けようとするプロダクトには、「平均化」という宿命がついてまわる。
モノを効率的に作り、多様な人に届けるには、どこかで「でこぼこ」を削り落とさなければならない。
人はそもそも千差万別だ。二人として同じ存在はない。
そんな多彩な人たちにプロダクトを届けるには、「平均」のかたちに寄せていくしかないのだ。
ターゲット層だのペルソナだのと考えるのも大切だが、平均化は避けがたい現実。
カスタマイズが担当する領域と、そうでない領域。その線引きが必要になる。
だからこそ、ショッピングに出かけても「100%自分好み」のものにはまず出会えない。
必ず、心のどこかで「もう少しこうだったらな」という小さなため息をつく。
ふと思えば、私たちの日常はそんな「80点の妥協」の積み重ねでできている。
朝、袖がほんの少し長いシャツに袖を通す。
お気に入りのマグカップは取っ手があと5ミリ太ければ理想的。
バッグの内ポケットがあとひとつあれば完璧なのに。
スニーカーは履き心地はいいけれど、もう少しクッションが欲しい。
お気に入りのジーンズはウエストがもうワンサイズ小さければ……
── そんな小さな「惜しい」が、私たちの毎日を織りなしている。
けれど、もし世の中があなた専用にカスタマイズされた完璧なモノで埋め尽くされていたら。
それはそれで、どこか息苦しくなる気がしないだろうか。
完璧すぎるものには、遊びがない。
隙がない。
隙がないものには、愛着が湧きにくい。
なぜなら、そこに「自分が関与する余地」がないからだ。
私の友人は、20年前に買った歪んだマグカップをいまも愛用している。
「底が平らじゃないから、テーブルに置くとカタカタするの」と笑いながら、それを手放そうとしない。
カタカタというあの音が、彼女の朝のルーティンの一部になっているのだ。
「新しいマグカップを買えばいいのに」と私が言うと、彼女はこう答えた。
「でもこの子じゃなきゃダメなのよ。このカタカタがあるから、『あ、今日も始まったな』って思えるの」
── 不完全だからこそ、そこに物語が生まれる。
大量生産の「平均化」は必要悪かもしれない。
けれどその平均化が、モノと人とのあいだに、ちょうどいい隙間を作っている。
その隙間を埋めるのは、ユーザーの創意工夫だったり、愛着だったり、ときにはあきらめだったりする。
そう、私たちは完璧ではないモノを、自分なりに完璧に近づけていく過程を楽しんでいるのかもしれない。
スマートフォンのケースを選ぶときの真剣さを思い出してほしい。
本体は同じでも、ケースひとつで「自分らしさ」を表現しようとする。
透明なケースに写真やステッカーを挟んだり、手帳型のケースにお気に入りのカードを入れたり。
それは平均化されたプロダクトに、自分だけの「味付け」を施す行為だ。
車の芳香剤、デスクの小物、財布につけるキーホルダー──
どれも「平均」を組み合わせて「自分仕様」に変えていく、ささやかな抵抗とも言える。
実際、私たちが心から愛しているモノの多くは、たいてい完璧ではない。
使い込んで変色した革の手帳。
色褪せたTシャツ。
少し重いけれど手に馴染むカメラ。
それらには、きっと「でも、これがいいんだよね」という愛着の言葉がついてくる。
プロダクトデザイナーの知人が、こんなことを言っていた。
「最高のプロダクトは、ユーザーが『これ、ちょっと惜しいな』と思える余白を残したものだと思う。その余白があるから、人は自分なりの使い方を見つけて、愛着を持つ。完璧すぎるものは、むしろ人を遠ざけるんじゃないかな」
── なるほど、と深く頷いた。
彼はさらに続けた。
「たとえばiPhoneだって完璧じゃないよね。バッテリーはすぐ減るし、落とせば画面は割れる。でもだからこそ、みんな自分なりに工夫する。ケースを選んだり、充電器を持ち歩いたり、画面を大切に扱ったり。その『手間』が愛着につながっていくんだ」
私たちが本当に求めているのは、100点満点のプロダクトではなく、80点だけれど愛せるプロダクトなのかもしれない。
残りの20点の隙間に、私たちは自分の個性や創意工夫、そして愛情を注ぎ込んでいく。
そうして、自分だけのモノに育てていく。
だからこそ、自分の「好き」を追求したプロダクトが思うように売れなくても、がっかりする必要はない。
それは、あなたの「好き」が尖りすぎているからではなく、世の中の人々が「完璧すぎないもの」を、無意識のうちに求めているからかもしれない。
完璧なプロダクトは、誰とも恋に落ちない。
なぜなら、恋は不完全さから始まるものだから。
不完全だからこそ、そこに人間らしさが宿る。
そして人間らしさこそが、モノに魂を吹き込む。
今度ショッピングに出かけたとき、ふと「もう少しこうだったら」と思ったなら──
その瞬間を、ほんの少し違った目で見てほしい。
それは失望ではなく、あなたとそのモノとの関係の始まりかもしれない。
小さな「惜しい」という気持ちこそが、モノを愛する気持ちの第一歩。
完璧ではないからこそ、私たちはそのモノとともに、ゆっくりと時間を重ねていける。
不完全な世界で、不完全なモノと暮らす。
その不完全さを少しずつ埋めていく日々こそが、実は一番完璧な毎日なのかもしれない。
── そしてふと気づく。
私たちが本当に欲しているのは、完璧な製品ではなく、完璧でないものと一緒に過ごす、完璧でない時間なのだと。
「完璧じゃないから、愛される」
きっとプロダクトも、人間関係も、きっとそれと同じなのだろう。
完璧でないからこそ、そこに温かい隙間が生まれて、愛おしさが宿る。
私たちは完璧を求めているようで、実は、不完全なものにこそ心を奪われているのだから。
***
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