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今まで誰も教えてくれなかった猫にまつわる話

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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:中川 百(ライティング・ゼミ3月コース)
 
 
「ソラは、ハルの弟だね」
そう言って、子猫を撫でる娘の手は優しさに溢れていた。
 
2020年11月。当時、私はある大学の建築学科で事務の仕事をしていた。2020年11月と言えば、新型コロナウイルス感染拡大の影響で大打撃を受けた観光業界を支援する「GO TOトラベル」に続き、飲食業界を支援する「GO TO イート」が始まった頃だ。外出自粛からソーシャルディスタンスを保ちつつ外へ出ようという動きが出てきていた。大学では、学びを止めないために、オンラインや、一部オンラインと対面での実施をするハイブリッドでの授業が行われていた。外に出ようという動きはあったものの、大学内に出入りする教職員、学生の数は、まだまだ少なかった。私も、在宅での仕事が認められていたため、人に会わずに日々の事務を黙々と進めていた。そんな中、たまたま事務室に出勤していた時に、たまたま事務室を訪れた助手の先生から、自宅近くで子猫を2匹保護したことを聞いた。
「1匹でもいいから、ももさん家で飼えないかな」
 
正直、「これは運命だ」と思った。
私の一人娘のハルは、当時8歳。次の春には小学5年生になるため、「もう、学童には通いたくない」と言っていた。家で一人にさせるのも可哀想だし、そろそろペットでも飼おうかと考えていた矢先だった。こんなにも運命的な巡りあわせがあるものかと、鳥肌が立った。
 
早速、その晩に、緊急の家族会議を開催。夫とハルと3人で、本気で子猫を受け入れる覚悟があるのかを話し合った。子猫を保護してくれた助手さんの家には大型犬がいて、長期間は保護できない。子猫を受け入れるのなら、週末までの数日のうちに、猫を飼育できる環境を整えて、迎え入れなければならない。大きめのケージやエサ、水飲み場やトイレなど、準備するものも多いし、エサやりやトイレの掃除など、家族で手分けしてやらなければならないことも増える。なにせ、一つの命を受け入れるわけだから、生半可な気持ちで決められない。敢えて強めに聞く。
「本当に、毎日、きちんと世話できるのか。 面倒だと放り出さないか。」
「絶対、やります!」
前々から猫か犬を飼いたかった夫とハルは、覚悟ある声で、こう答えた。
 
こうして、ソラは、中川家に来た。ソラという名前は、ハルがつけた。空のように大きな心を持った猫に育って欲しいという願いを込めたと言う。「空のように大きな心を持った猫」がどんな猫なのか、今でも良く分からないが、こうして、ハルに、待望の弟ができた。
 
ここで本題である。「今まで、誰も教えてくれなかった」けど、知っていたら良かったと思ったことの1つ目は、アレルギーでもない限り、猫は飼ったほうが良いということである。何故、猫好きの人たちは、私にもっと熱量を持って薦めてくれなかったのかと思う。
まずまず、猫は可愛いのである。念のため断っておくが、私は本来、どちらかというと犬や猫は興味がなかった。しかし、今、猫を飼っていない方も、想像してほしい。2年も経てば、両手で抱えるぐらいの大きさに成長する。まるで、モフモフを纏った、動くぬいぐるみである。膝に乗せたり、モフモフの体を抱きしめると、予想以上に癒し効果がある。
 
皆さんは、猫がゴロゴロと喉の辺りを振動させ、音を鳴らすことを知っているだろうか。私は全く知らなかったので、ソラがこの音を出した時、不気味すぎて、「この音、異常?」と、猫を4匹飼っている友達に動画を送り、確認したほどである。これは撫でられて嬉しい時やリラックスしている時に、鳴らす音だそうだ。この音の、人間に対する癒し効果も抜群で、私は、何度もソラを撫でゴロゴロ音を聞きながら寝落ちしてしまったことがある。
漫画などで「ごろニャーゴ」と書かれているのは、このゴロゴロ音から来ていたのかと、妙に納得した。
 
そして、「今まで、誰も教えてくれなかった」ことの2つ目は、野性的に動く生き物は新鮮であるということだ。子どもが成長するにつれて、我が家には理性的な者しかいなくなった。しかし、野性的に、気ままに生きるソラの存在は、その理性的な生活に新鮮味を与えてくれる。
ソラが子猫の時によくやっていたのが、4本脚を揃えて斜めにぴょんぴょん飛び跳ねる行動だ。何故か分からないが、食事の準備のため、消毒液でふき取ったテーブルの上で、ぴょんぴょんする。「化け猫」というワードが思い浮かぶほどに不気味な姿に、娘が怖がる始末。調べてみると、威嚇の一種で、攻撃するか逃げるか葛藤して、上に飛び跳ねてしまうらしい。猫について知らないことばかりだ。
 
うんちやおしっこも、勿論、したい時にする。我が家では、ソラ用に2つのトイレを設置しているのだが、目の前でうんちやおしっこをしているのを見るというのも新鮮すぎて、最初は見ている側のこちらが戸惑った。夫がトイレ掃除担当なのだが、一時期、夫が帰宅し、ソラが夫の顔を見るなり、うんちをすることが続いた。その時から、夫は、「うんこ顔」もしくは「うんこ担当」と呼ばれている。「誰がうんこ顔だ」と言いながら嬉々としてトイレ掃除に勤しむ夫もまた、ソラの虜になっている。
 
「今まで、誰も教えてくれなかった」ことの3つ目、最後に言いたいのは、娘のハルとソラの関係である。一人と一匹は、人間と猫という分類を越えて、姉弟のような気持ちを持てているように見えるという事である。ハルが勉強をしていれば、ソラはノートの上や傍らに座り、ハルがお風呂に入れば、ソラは廊下で寝そべりながら出てくるのを待つ。ハルが布団に入れば、ソラはその横で丸くなる。本当に仲の良い姉弟である。
これについては、「今まで、誰も教えてくれなかった」というよりは、私が今まで信じてこなかった、疑っていたと言えるかもしれない。ソラを飼ってみて初めて、猫と人間は家族になれるという事を実感したのだ。
 
猫を飼うのは、エサ代や予防接種代、健康診断の費用なども掛かるし、世話をする手間もかかる。だから、簡単には手を出せない。しかし、その負担以上に、癒しや笑い、安らぎ、暖かみをもたらしてくれる。だから、猫に少しでも興味あるなら、是非とも飼ってみることをお勧めしたい。多頭飼育崩壊の現場や、ソラのように路上で保護された猫の譲渡会も各地で実施されている。もしかしたら、運命の子が、あなたを待っているかもしれない。
 
 
 
 
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2025-06-19 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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