人生初の出来事。真っ暗闇の中で食べた絶品、それは、うどんだった。
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:藤原 宏輝(ライティング・ゼミ5月コース)
「そろそろ、おうどんを頼んでおこうか」
お友達と2人、毎月おうどんを食べる。という日、地元名古屋の有名なおうどん屋さんへ出かけた時のこと。
ちょっとした名店で、いつも行列がお店の外までできている。でもその日は、線状降水帯の影響でとんでもない大雨が降っていて、行列はなく店内にたった3人のお客さん。
「ラッキー、今日は待たずに座れるね」
と私たちはカウンターに腰を下ろし、天ぷらをつまみながら他愛もない話に花を咲かせた。
私は、この店名物の“生醤油うどん”を注文。何でも「うどんのお刺身」と言われるほどの逸品らしい。
しばらくして、厨房が活気づき始めた。どうやら他のお客さんが2組ほど入り、次々とオーダーが入っているようだった。お友達のうどんが先に届き、「いただきまーす」と彼女はおいしそうに食べ始めた。
その後すぐに、私のうどんが背後から差し出され、「ありがとうございます」と受け取って、カウンターにお膳ごと置こうとしたその瞬間——。
バシッ!
何とも言えぬ鈍い音とともに、店内が真っ暗になり、
「きゃあー、なに、何? え、いきなり停電?」
と一気に騒がしくなった。どうやら、店内の電気がすべて落ちたようだ。
皆さんに、ここで真っ暗闇の店内を想像してみてほしい。
私は、おうどんをお膳ごと持ったまま、突然の漆黒。外からの明かりもほぼ全く届かない、ビルの谷間にあるこのお店は、完全なる“暗闇”に包まれたのだ。
突然の出来事に私の脳内はフリーズしつつも、なんとか冷静を装い、おうどんをそろりと目の前に置いた。お皿にぶつからないように慎重に、お膳をそっとスライドさせた。
厨房では「ブレーカー確認して!」という怒号。何度もカチカチと音がするが、明かりは戻らない。
ふと横を見ると、友達はすでにスマホのライトをつけて、さも当然のように麺をすすっていた。「うん、やっぱり美味しい」と言いながら。
「私も食べよう…」
と思いスマホのライトを点けたものの、あろうことか! お箸が見つからない。
あちこちを手探りしながら、ようやくお箸を発見。次は薬味だ。
「いや、これはお漬物? それとも、何もない空の皿? 薬味のお皿?」
と照明なしの体験は、なかなかスリリングだ。
しかもこの生醤油うどん、自分で少しずつ醤油を垂らして食べる“調整型”スタイル。照明がなければ‘入れすぎ注意’かどうかもわからない。とにかく慎重に、恐る恐る、少しずつすこしずつ。
食べてびっくり!
真っ暗闇の中でも、その塩味と麺のコシ、薬味との絶妙なハーモニーは、確かに“うどんのお刺身”だった。
店内は他のお客さまも、店員さんたちもだんだん騒然としてきた。開けたままの玄関扉の向こうの方には、お向かいの店が見えた。明かりがついている、停電はこの店だけだったのだ。
そして、徐々に店内の蒸し暑さと注文しただけで、真っ暗闇の中当然ではあるが調理もストップしてしまい“うどん難民”たちの空腹イライラが高まってきているようだった。
すると、店主がついに決断。
「お代は結構です! そのままお帰りください!」と店員さんが、お客様に声をかけ始めた。
「えッ! 全員? 無料?」
よく耳にする“人はお腹が空くと、不機嫌になる理論”がリアルに炸裂しそうな中、店主は全力で事態の収拾を図り、対応に追われていた。
でも、そんな空気を全く読まない友達は、暗闇の中で涼しい顔。
「せっかくだから、やっぱり慌てずにおうどん全部食べよう。だって美味しいもん」
と言いながら、自分のおうどんを完食し、私の食べ残しにまで手を伸ばす始末。もう、笑うしかない。
食べ終えた頃には、お客は私たちだけになっていた。
さすがに、これだけ食べてお金を払わずに。はないよね。
と私は暗闇の中、レジへと向かった。しかし、店員さんも、奥の店主も
「お代は、今日は結構です」と譲らなかった。
結果、そそくさと外へ出ることに。雨は止んでいた。
「全部食べたのにタダなんて、申し訳ないよね」と私が言うと、
お友達はあっけらかんと、
「ラッキーだったね! 数分でもオーダーするのが遅かったら、人生初の生醬油うどんを食べられなかったかもね! しかも、オーダーしたもの全てを、おいしく頂いて無料(タダ)なんて、すごいよねー!」と嬉しそうに言った。
確かに、その通り。でも、なんだろう? この、もやっとした気持ち。
「また近いうちに、生醬油うどんを食べに来ようね。今日の御礼にその時は倍くらい色々とオーダーして、きちんとお代を支払おうね」
私にとって……。人生初の停電。人生初の生醤油うどん。人生初の「お代はいりませんから」
思いがけず、“真っ暗闇の中でのおうどん”になったけれど、貴重な体験だった。
そのお店を選んだこと、時間、おうどんオーダーのタイミング。
全ての出来事は偶然ではなく、必然だ。という人もいる。
これらの1つ1つが、大切なタイミングであり、おうどんが提供された最後が私、だったこと。
‘私が、生醤油うどんを引き寄せた’のか?
これからの人生もしっかりと様々なタイミングを見極め、真っ暗闇でおうどんを楽しめたように、何が起ころうと冷静に前向きに進んでいこう! と強く思った。
***
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