何度でも、ありがとう
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
記事:福乃 玲(ライティング・ゼミ名古屋会場)
「ママ、『申し訳ない』ばっかり言ってるじゃん」
息子にそう言われたとき、私はドキッとした。
「え? そんなに言ってる?」
そう返事をすると、
「うん。今日も何回も言ってたよ」
子どもは本当によく見ている。
息子は小学二年生になった。
最近は門限までなら、一人で近所の公園へ遊びに行っていいことにした。
最初は公園で鬼ごっこをしたり、虫を捕まえたりしていた。
ところが、いつの間にか友達の家へ遊びに行くようになった。
私は仕事で帰宅が遅い日も多い。
だから自然と友達のお母さんが面倒を見てくれ、
帰りには家まで送ってくれることも少なくない。
そのたびに私は、
「いつも申し訳ないです」
そんな言葉ばかり口にしていた。
もちろん感謝している。
でも先に出てくるのは、
「ありがとう」
ではなく、
「申し訳ない」
だった。
この口癖は前から気になっていた。
夫にも、
「そんなに謝らなくてもいいんじゃない?」
と言われたことがある。
夫は本当に悪いことをしたときにはきちんと謝る。
でも、それ以外ではほとんど謝らない。
友達が親切にしてくれたら、
「ありがとう!」
近所の人が手伝ってくれたら、
「助かりました!」
実にシンプルだ。
そして人の好意もありがたく受け取るタイプだ。
私の母が服を買ってあげるというと、
「ありがとうございます!」と言って何なら好きなデザインを選び、遠慮無く受け取るのだ。
ある日、友達のお母さんに息子を家まで送っていただいたことを夫に話した。
「申し訳ないよね」
そう言うと、
夫は少し不思議そうな顔をして、
「いいんじゃない? またうちにも来てもらったらいいじゃん」
と言った。
そう言われればそのとおりだ。
「申し訳ありません」
と言われると、
相手は決まって、
「いえいえ」
と返す。
そんな会話がいつも繰り広げられる。
でも、
「ありがとうございます」
と言うと、
「また遊びに来てね」
「うちの子も楽しそうだったよ」
そんなやりとりが続くことが多い。
同じ出来事なのに、
言葉一つで空気が変わる。
どうして私はこんなに謝る人になったのだろう。
そう考えていたら、一つ思い出した出来事がある。
大学生の頃だった。
まつげエクステのお店へ行った時、中国出身と思われるスタッフが担当してくれた。
施術中、
「まつげ長いですね〜」
と言われた。
私は昔からまつげだけはよく褒められる。
その日は疲れていたこともあって、深く考えず、
「ありがとうございます」
と答えた。
すると、その方は笑いながら、
「ありがとうございますって言う人、初めて聞きました!」
と言った。
私は、
「え? 褒めたのそっちですよね?」
と内心、ツッコミを入れた。
でも、その出来事が妙に印象に残った。
中国人スタッフの中でも、褒められてお礼を言う日本人が、ただ珍しかったのかもしれない。
だから、「そんなことないです」
と言う方が自然だったのかもしれない。
あの出来事以来というより、日本では「そんなことないです」とへりくだる方が自然なのだと、どこかで思うようになったのかもしれない。
気付けば私は、親切にしてもらったときまで、「ありがとう」より先に「申し訳ない」が口をついて出るようになっていた。
でも最近、
少しずつ変えてみようと思っている。
まずは家の中から。
先日、体調を崩して一日寝込んだ。
夫は子ども二人を連れて実家へ泊まりに行き、
翌日はプールにまで連れて行ってくれた。
以前の私なら、
「ごめんね」
と言って終わっていた。
でも今回は、
「おかげで、ゆっくり休めたよ。 本当にありがとう!」
と言ってみた。
夫は、
「それならよかった」
と笑った。
それだけだった。
でも、その笑顔がいつもより少し嬉しそうに見えた。
別の日。
気付けば布団のシーツが洗ってある。
以前なら、
「ごめんね、やらせちゃったね」
だった。
今回は、
「今日、洗いたてのシーツで眠れて、すごく気持ちよかった。 洗ってくれてありがとう!」
と言った。
夫は少し照れくさそうに笑った。
私はその笑顔を見て思った。
「ありがとう」は、
相手のためだけじゃない。
言った自分の心まで温かくしてくれる言葉なんだ、と。
そして数日後。
息子が友達のお母さんに送ってもらった。
玄関で私は、
「ありがとうございました!」
と言った。
すると息子が横で、
「ママ、今日は『申し訳ない』って言わなかったね」
と言った。
どうやら、ちゃんと見られている。
子どもは親の言葉を、本当によく聞いている。
もちろん、謝るべきときはある。
でも、親切にしてもらったときまで、
申し訳なさを返してしまうより、
感謝を返せる人でいたい。
「ありがとう」
この言葉は、何回言っても減らない。
むしろ言えば言うほど、
相手も、自分も、少し幸せになる。
先日、ラジオでこんな話を聞いた。
一日に「ありがとう」と言える場面は、三十回ほどあるのに、実際に口にしているのは平均して七回ほどだというのだ。
年齢を重ねるにつれて思う。
「ありがとう」と言って減るものは何もない。
むしろ、人との距離が少し近づき、自分の心まで温かくなる。
だから私は、これからも何度でも、「ありがとう」を伝えていきたい。
《終わり》
お問い合わせ
■メールでのお問い合わせ:お問い合せフォーム
■各店舗へのお問い合わせ
*天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。
■天狼院カフェSHIBUYA
〒150-0001 東京都渋谷区神宮前6丁目20番10号
MIYASHITA PARK South 3階 30000
TEL:03-6450-6261/FAX:03-6450-6262
営業時間:11:00〜21:00
■天狼院書店「京都天狼院」
〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5
TEL:075-708-3930/FAX:075-708-3931
営業時間:10:00〜22:00
■天狼院書店「名古屋天狼院」
〒460-0002 愛知県名古屋市中区丸の内3-5-14先
Hisaya-odori Park ZONE1
TEL:052-211-9791
営業時間:10:00〜20:00
■天狼院書店「福岡天狼院」
〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階
TEL:092-518-7435/FAX:092-518-4149
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00







