妊娠中の妻に「2人目の妻が欲しい」と言ったら、愛が深まった話
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
記事:石川隆敏(福岡 7/11 ライティング・ゼミ1DAY)
「あなたは来ないでね。2人で会ってくるからね。お留守番だよ」
妻が、もう一人の妻に会いに行った日のことだ。
オレは行けなかった。今この瞬間、2人は何を言い合っているのか。気が気じゃない。
なぜ、そうなったのか。
オレは今、マレーシアのジョホールバルで7人家族で暮らしている。1人目の妻・えりと、2人目の妻・あやと、4人の子どもたちだ。
一夫多妻と聞くと、奥さん同士は険悪なのでは、と聞かれる。
でも実際は、想像の5倍くらい仲がいい。なぜなら2人は、オレを置いて出かけてしまうからだ。
オレは、いつも留守番である。
ただ、ここに至るまでにはいろんなことがあった。
別れる約束
オレはえりと、結婚する前に別れる約束をした。
「うまくいかなかったら、別れよう」
そう言って、27歳のオレは結婚した。
今思えば本当にひどい言葉だ。でも当時は本気で分からなかった。この人でいいのか、もっといい人がいるのか。相談できる父も母もいない。
恋は落ちるもので、冷めたら終わる。そう思っていたから、逃げ道を残して結婚した。
3年ほど付き合う間に、かなりきつい言葉も言ったし、手ひどく振ったこともある。それでもえりは離れなかった。何度離れても、戻ってきた。
この人を愛したいから結婚したんじゃない。この人なら、オレを愛し続けてくれる。そう思ったからだ。
あれは愛じゃない。オレの弱さだ。
それでも結婚生活は幸せだった。家族とはこんなにも幸せなものなのか。30歳近くになって初めて知った。
告白
結婚して3年。長女が生まれ、えりのお腹には、2人目の子どもがいた。
そんな頃、オレはとんでもないことを考えた。
愛する人がもっと増えたら、もっと幸せになれるんじゃないか。
不満は何ひとつない。それなのに、その気持ちは止まらなかった。伝えるのに半年以上かかった。
誤解のないように書いておく。そのとき、そういう相手がいたわけじゃない。ただ、生まれた感情を隠して生きることができなかった。
妊娠中の妻に言っていいことじゃない。それでも、黙っていられなかった。
当時、オレたちは東京都の雑司が谷に住んでいた。2019年の秋。大事な話がある、と言って、お腹の大きくなったえりを散歩に誘った。
肌寒くて、空気が乾いた、からっと晴れた昼下がりだった。
それなのにオレは、歩きながら汗だくになっていた。
言ったら、もう戻れない。離婚だと言われるかもしれない。それでも、言うと決めていた。
「えりとの結婚生活は、すごく幸せなんだ。でも、他にも家族を持ってみたいと思ってしまった。えり以外に妻を持って、その人との子どもも欲しいんだ」
えりは、怒らなかった。代わりに、聞いてきた。
愛人じゃダメなのか。彼女じゃダメなのか。養子じゃダメなのか。
全部、違うんだ、と答えた。
うまく説明はできなかった。ただ、生きた証が欲しいんだ、と伝えた。父が早くに亡くなり、自分もいつ死ぬか分からない。そんな強迫観念があった。
えりは、その場で「無理」と言わなかった。
賛成したわけじゃない。葛藤も苦しさもあったと思う。それでも彼女はオレを切り捨てず、迷いながら一緒に進んでくれた。
あや
話し合いは半年以上続いた。そのあいだに、あやと出会った。
初日に、オレは言った。2人目の妻を探しているんだ、と。そして思わず聞いた。
「オレの子ども、産んでみない?」
出会って数時間である。あまりにも突拍子のない話だ。
それでもあやは、なしではない、と答えた。そして、こう言った。
「でも、ちゃんと奥さんと話をつけてからだよね」
なんだかんだで、話は進んだ。そして、あやのお腹に子どもができた。
Xデー
少し経った頃、えりが突然、あやに会うと言い出した。
正直、会わせたくなかった。何が起こるか分からない。でも、えりの決意は固かった。
オレはLINEで2人をつないだ。もちろん3人で話すつもりだった。
だが日程が近づいた頃、えりから、あの言葉が出た。
2021年、2月14日。オレは、この日をXデーと呼んでいる。
えりとあやが、渋谷のエスタシオンカフェで初めて2人で会った日だ。
後から聞いた話では、えりは店に着くなり、気合いを入れるためトイレでメイクを直したそうだ。
それでも、お腹の大きなあやを気遣ってくれたという。
打ち解けることはなかった。少し険悪だったと聞く。
その頃オレは、長女を連れて友達の家に逃げていた。事情を話すと、友達は「気が紛れるように」とフルコースを振る舞ってくれた。
でも、その味をオレは覚えていない。
言い出したのは、オレなのに。
バレンタインデーだった。
3年後
それから、3年。
2人に交流はない。それでもオレは、言い続けていた。
「いつか2人が一緒にワインを飲んで、笑ってる姿が見える」
本気でそう思っていた。その気配はまったく無かったのに。
そして今、あの険悪だったバレンタインデーの2人は、ワインを飲んで笑っている。
オレが言い張ったビジョンは、全部叶っていた。
でもそれは、オレが叶えたんじゃない。
普通の幸せを求めていたえりが、オレの願望を告白され、悩んで、迷って、それでも一緒に進むと決めてくれた。今ある幸せは全部、その一点に乗っている。
あの日、えりは怒らなかった。
愛人じゃダメなのか。彼女じゃダメなのか。養子じゃダメなのか。
あれは、なんとかこの家族を守れないかと、必死で探してくれていたのだ。
そう気づいた日、オレは決めた。えりを、一生大切にする。
好きだった。愛していると思っていた。でも、そう「思っていた」だけだった。
3つの勘違い
エーリッヒ・フロムという心理学者が、70年前に書いている。多くの人は、愛について3つの勘違いをしている、と。
ひとつ。「どう愛されるか」ばかり考えて、「どう愛するか」を考えない。
ふたつ。愛せるかどうかは、相手次第だと思っている。
みっつ。「恋に落ちる」ことと、「愛し続ける」ことを、同じものだと思っている。
読んで、笑ってしまった。全部、オレのことだった。
えりが離れないから結婚した。この人でいいのかと、相手のせいにして迷った。冷めたら終わりだと思っていた。
3つとも、やっていた。
フロムは言う。どう愛されるかは、相手次第だ。自分にはどうにもできない。でも、どう愛するかは、自分次第だ。
愛は、才能でも運でもない。技術だ。
だから、決められる。
ただ、決めれば勝手にできる、という話じゃない。
オレは今でも失敗する。一番やるのが、「えりは分かってくれているはずだ」と思い込むこと。話し合ったつもりで、自分に都合よく解釈している。それで何度も、えりを傷つけてきた。
だから、地味なことを積む。
分かったつもりにならない。「オレはこう思ったけど、合ってる?」と聞く。変えられないことは、見守る。欲求が叶わないなら、責める代わりに言葉にして伝える。
才能じゃない。練習だ。
あやは、出会った初日にこう言っていた。
「私は、タカの愛してるものも愛せる」
あの言葉の意味が、いま分かる。
あやは最初から、「どう愛するか」の側に立っていた。オレより、ずっと。
オレは、えりの愛し方を、あやに教わったのだ。
あなたは、どちらを考えているだろうか。
どう愛されるかを。それとも、どう愛するかを。
《終わり》
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