リスがどんぐりを埋めるように、画家はスケッチを繰り返す
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
記事:曽我真(26 年 9 月ライティングゼミ with AI)
長雨の続く、九月。平日午後五時の原宿にいる。
JR原宿駅の三階には猿田彦コーヒーが店舗を構えている。中央には一枚板の長テーブルがあり、その一角が私のお気に入りだ。
間接照明がテーブルを照らし、中央に電源ケーブルが引かれている。
電源コードに、手持ちのMacを繋ぐ。MacからはiPhoneにも接続して、鞄の中で充電させてもらう。持ち込んでいるカメラ機材用の大型バッグが場所を取る上に、電力の消費量も多い。
バレルエイジド珈琲なるものを注文する。少しお高いが、かまわない。周囲の人たちより余分なスペースと電力をいただいている、という後ろめたさの埋め合わせで、お勧めのスペシャリティが堪能できるのだから。
iPhoneのアプリからオーダーを出し、カップをカウンターから受け取ったら、AirPodsを両耳に挟み込む。ノイズキャンセリングが周囲の雑音をさっとかき消してくれる。
Macを開くと、目の前には真っ白なディスプレイ。カーソルが点滅している。テーマは何も浮かんでこない。
と思ったら、たった今「スケッチ」という発想が頭をよぎったので、ここまでの文章を10分で書いてみた。
この春、娘が大学受験を終えた。
無事デザイン系の第一志望の大学に入学できることになり、親としてはほっと胸をなで下ろしたところだ。
早速一人暮らしを始めたが、ある週末に帰ってきて、実家に残っている私物の断捨離をすることになった。
彼女は中学三年のときデザインに興味を持ち、近所の画塾に通っていた。高校二年生までは週に一回六時間。受験期となれば、基本、休みは毎日デッサンや平面構成に取り組んでいた。
四年間描き込んできたデッサンは、平積みにしてみると圧巻であり、そのまま倒れそうだった。一メートルと言えば大げさだが、50~60センチはあっただろうか。画用紙は厚みのある紙とはいえ、全部重ねてみれば、相当な枚数を描き込んで大学受験に臨んだことが理解できた。
おぉなんか、かっけーな、と思った。
デザインを目指す一学生の習作たち。画塾では講師からの講評はあるものの、特に誰に見せる訳でもないデッサン。これをコツコツと描き続ける行為に、興味を持った。
なぜ、デッサンし続けるのか。画塾では、生徒が相当に上手くなった後も、どうして描き続けるよう指導するのだろう。
ざっとネット検索したところ、模写やクロッキーといった手法を含めて、デッサンには様々な効用があるようだ。詳細は省くが、ひとつの説明として深くうなずけるものがあった。
「人の脳は、物事を記号化して捉えがちだ。見たいもの、という固定観念をはずして、あるがままを見るのがデッサン。上手くなった人こそ、日常の風景や人々の姿をスケッチブックにストックしている。それがオリジナル作品を描く際のアイデアの源、リファレンスになる」
ライティング講座にて、まとまった2,000文字の文章を書くようになって気づいたのだが、関心のある分野はどれも似通ってくる。私で言えば、人の心理だったり、身体の骨格の構造の話が好みなので、何度もテーマとして取り上げることになる。
自分が興味のあることをスマホ片手にAIに問えば、どんなテーマであっても、信憑性の高そうな説明が三秒で返ってくる。整合性の高い、完成された文章そのものはあっという間に生成されてしまう時代に、その人ならではのオリジナリティーあふれる文章とは何なのだろうか。
絵画の分野だと、スケッチはオリジナル作品を描く際のアイデアの源になるのか……空想を巡らせているうちに、森の小さなリスたちがどんぐりやクルミを探し回っている映像が脳内に浮かんだ。
せわしなく地面を走り回りながら、リスたちが森の木の実を集めている。すぐその場で食べてしまうどんぐりもあれば、冬支度として土に埋める用のクルミもある。
リスは適当にランダムな場所に貯蔵するわけじゃない。ちゃんと空間把握能力を発揮して、かなりの割合を後から見つけられるようにしているようだ。
あの白樺の木の北側に1つ。このミズナラの南側のふかふかの土地に1つ……ライバルのリスに見つからないように、丁寧に葉っぱで隠したりするのかも知れない。
冬になれば木や岩からの方角はもちろん、ニオイも手がかりにしながら、貯蓄した収穫物を掘り起こす。でも大量の木の実をせっせと埋め込むものだから、全部を回収できるわけじゃない。
見つけられなかったどんぐりやクルミは、春に発芽して新しい木の芽になるという話には科学的な裏付けがあるようだ。森の小動物リスは意図せずして、餌を埋めた場所を忘れることで、森を広げていることになる。
画家はスケッチするとき、対象をよく見て選り分け、記憶の奥底にその造型をしまい込む。せっせと大量に仕込むあまり、忘れてしまってもかまわない。というより、忘れることでオリジナリティーが出てくると期待しているのではないだろうか。
AIが、三十秒もあればデジタル絵画を生成する時代だからこそ、画家やデザイナーたちはオリジナリティとは何かを模索し、スケッチを欠かさないだろう。「その」リスがいたからこそ、意図せずして、オリジナルの森が生まれるのだから。
文章力を磨くライターの卵として、このスケッチの手法を採り入れたい。日常の中で、10分の時間を見つけたら、目の前で起こっていることを文章で綴ってみるのだ。
書いたことは忘れてもいい。忘れた方がいい。将来記事を作るとき、どこかでひょっこりオリジナリティーの芽が飛び出すかも知れないのだから。
≪終わり≫
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