メディアグランプリ

もらい物には福がある。


 

 

 

 

*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

記事:米田 笑(26年9月ライティングゼミwithAI)

 

いつかの4月18日。駅前で数名の男女が白い袋を配っていた。

 

チラシやティッシュペーパーを配っていても基本素通りする私が、なんとなく気になって受け取ってしまったその袋には、「お香の日」と書かれていました。

 

中には、それぞれ3から4本ずつ入った3種類の線香、マッチ箱、そして簡易的なお香立て。これがあれば今すぐにお香が焚ける一式がそろっています。

 

賃貸に住んでいることもあり、火を使うアロマキャンドルなどには抵抗がありました。そもそもお香には一切興味がなく、お仏壇やお墓で使うイメージしかありませんでした。インテリアとして楽しむものだとは思ってもいなかったのです。香りを楽しむためにわざわざ良いお香を買う人の気持ちもわかりませんでした。

とは言えせっかくもらったし、そのまま捨てて無駄にするのも申し訳ない気がするなぁ。と思いつつ、そのまま、袋ごと部屋の片隅に放置していました。

 

ある休みの日、掃除をしていたらたまたま目に入った「お香」の文字。
休憩がてら袋を手に取り、中のマッチ棒を取り出して見てみると、そこには「なぜ4月18日がお香の日なのか」が書いてありました。なんでも、『日本書紀』に“推古3年4月、日本に沈香が漂着する”と記述があったことから4月に、そして「香」の字を分解して上から読むと、「一」「十」「八」「日」になるからだそう。まさかの米寿みたいな決め方。(笑)

普段はレシートやお店のクーポン、チラシなどで散らばりがちなテーブルの上も、掃除して片付いている今だからこそ、お香を使うベストタイミングかもしれない。そう思ってこの日初めて、試供品のお香を焚く決心がつきました。

 

適当なお香を1本取り出し、お香立てに立てる。マッチを擦る。ぼわっと火が灯りましたが、無料配布なだけあってすぐに折れてしまいそうな、心もとないマッチ棒でした。

 

お香に近づけると火が移る。火を消すと煙が立ち昇る。かすかに香るお花っぽい匂い。先端が赤くなり、徐々に下へ下へと進み始めた。燃え切った部分は灰色になり、1~2センチほどのびると、ポタッと下へ落ちる。

 

その様子をなんとなく見つめていると、まるで瞑想をしているような、何とも言えない空白の時間が生まれました。スマホやパソコンから目を離して約5~10分ほど何も考えなかったのは、いつぶりだろう。忙しなく過ぎていく生活の中で、この時だけは時間が止まった感覚でした。

 

それから週に1~2回、お香を焚くようになりました。試供品がなくなる前に、100円ショップでも買い足しました。

正直、試供品はどれも香りが弱く、100円ショップのお香も香りそのものを楽しむほどではありません。それでも、煙を見つめる時間が好きでした。

煙が立ち昇る様子を見ているだけで、周りの音がなくなったような感覚になるんです。外部からの生活音だけでなく、室内で音楽をかけていた日もありますが、流れる音楽さえも一瞬消えて、静寂の空間に包まれる。

よく、エリート企業ではマインドフルネスを取り入れていると聞きます。だけどいざ、瞑想しようとして「何も考えないようにしよう」と思えば思うほど、あれこれどうでもいいことが思い浮かんでしまう。お香の煙をただ見つめる方法が、瞑想への導入法として私に合っていました。

 

関西に住んでいる私は時々、京都へふらっと遊びに行きます。その日も目的は済ませた後で行くあても決めずに街歩きをしていると、たまたま目に入ってきたお店がありました。

「サンガインセンス」

 

チラッと覗くと、コーヒーマシン?が見えてカフェかと思いきや、看板をよく見るとお香を販売している様子。つい気になって、立ち寄りました。

 

ドアを開けるとふわっと広がる店内の優しい香り。


「いらっしゃいませ」

 

可愛らしい女性の店員さんが出迎えてくれました。並んだお香を見ながら、最近お香にハマっていると話すと、「このお店のお香は全て、人工的な香料を一切使わず、天然の素材で作られている」と教えてくれました。自然香料恐るべし。こんなに心地の良い香りが生まれるとは。

 

なんでも、オーナーさんが世界を旅して出会った伝統的な香料を用いて作っているそう。始まりはカフェでも提供しているチャイに使用しているスパイス。お香ってスパイスからも作れるのか。

 

試供品と安いお香しか知らなかった私は、ここで初めて「香りを楽しむ」という感覚を知りました。ただ煙を眺めるのとはまた違う、お気に入りの香りに包まれる幸福感です。

一つに絞れず、9種類が5本ずつ入ったセットを購入。それぞれ試して、お気に入りを決めよう。

その日の夜、ワクワクしながらお香のパッケージを開けます。お香屋さんも様々な香りがあるのに、混ざっていても全く不快に感じなかったように、9種パックのお香セットを開けてもやはり、鼻に優しい香りでした。

 

香りによって色が分かれているので、気分で選ぶ。その日選んだのは、オレンジ色パッケージの「コパル/琥珀香」。漂う香りの上品さもさることながら、立ち昇る煙がなんとも美しい。1日目にして一番好きな香りかもしれない。

 

今でも定期的に、お風呂上りのリラックスタイムにお香を焚いてぼーっと煙が昇っていくのを見つめる時間を作ります。お気に入りのお香を見つけたことで、お香を眺める瞑想だけでなく、お香を焚き終わったあとも、部屋に残った香りに包まれて幸せな気持ちのまま、就寝。最高です。

 

数か月後の旅行先でも、お気に入りのお香立てに出会って衝動買いするくらいには、お香の世界にハマってしまいました。あの日駅前で、白い袋を配っていた人たちの思うツボ過ぎるなぁ。とは言え、私の生活の質は爆上がりしたので、感謝しかありません。


普段は気にも留めない町での無料配布物。それがたとえチラシやティッシュだったとしても、それをもらってみると案外あなたの生活の質が上がるきっかけになるかもしれませんよ。 

 

≪終わり≫

 

 

 

 

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