貢ぐ女。
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
【4月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《日曜コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:白樺いつき(スピードライティング特講)
「あー、楽しかったなあ。でも、お金……たくさん使っちゃったなあ……」
お店を出て帰路に着きながら、今日の出来事を振り返って気づく。その場では夢中で全く気づかなかったけれど、それなりの金額を使っていた。
私は自分で言うのも少々おこがましいけれど、どちらかといえばしっかり者タイプだと思う。お金は、家計簿を付けて管理している。支払い項目ごとに予算を決め、1ヶ月に必要な金額を銀行で引き出すのが習慣だ。その中で収まるように生活をし、追加でお金を引き出す事はしないようにしている。だけど、彼らに会うと調子が狂ってしまい、ついつい財布の紐が緩んでしまう。
「つい先日に1ヶ月分を引き出したばっかりなのに。もう、今月の予算分くらい使っちゃった……今月はこれでおしまいか、他の予算から調整するか……かな」
だって……と言うと、とても言い訳がましいが、彼らはとても物知りで楽しくて魅力的だからだ。そして、彼らを紹介してくれる見事なお店がたくさんあるから。お店では、素敵な彼らをこれでもかと揃えていたり、催し物を開いていたり、店主が彼らと合う人の特徴を教えてくれたりする。そんな事をされたら、しっかり者の私も夢中になってしまうじゃないか。断じて、私の気持ちが弱い訳ではない……と思う。
「あ、この人。今の私の気持ちに寄り添ってくれそう」
ある彼は、とても誠実で真面目な人だった。仕事で悩んでいる私の話を、静かに聞いてくれた。なかなか仕事の詳細な話ができる人がいなかったので、真剣に聞いてくれるだけでもとてもありがたかったのに、的確なアドバイスまでしてくれた。そのアドバイスは、私の悩みに効果的で、常々そのアドバイスを思い出して実践している。彼には、感謝してもしきれない。
「音楽の話が楽しめそう」
ある彼は、クラシック音楽に精通していた。クラシック音楽初心者の私にも、丁寧にやさしい言葉で話をしてくれた。幼い頃にクラシックピアノを習っていたけれど、曲名や作曲者はまるで分からない。仕事でも教養としても、知っておいた方が良いと感じていたので、とても勉強になった。
「男の人でも、こんなに猫好きの人っているんだ」
ある彼は知的でハンサム、そして、とても猫が好きな人だった。なんと「生活になくてはならない」と言わしめる程。その気持ちが私に向いたら……と危うく妄想しそうになってしまった。猫と言うと、女性が好きなイメージがあった。私は、今までペットを飼った事がなく、特に猫が好きという訳でもない。ただ、猫の事を語る彼の目尻のしわや表情に、男の人だけど可愛らしいなんて思ってしまった。
「今ひとつタイプかどうか、自分でも正直よく分からないな……」
ある彼は、初対面で強く好意を寄せる事はなかったものの、信頼を寄せている人に紹介してもらったので時間を過ごすことになった。最初は、ちょっと違うかも……なんて思ってしまっていた。でも、時間を過ごすうちに、どんどん彼に惹かれていった。世の中を見る視点に、はっとさせられる点が多く、自分の日常の行動を鑑みる機会になった。
「わわ、ちょっと危険な香りがする……でも……試してみたい」
見た目が派手で、危険な香りのする彼。良い評判を耳にしていたので、ぜひ一緒に時間を過ごしたいと思っていた。最初から、評判を裏切らない滑り出しに、私は一心不乱になってしまう。彼と別れた時には、それまで呼吸を忘れていたかのように深く息をし、余韻に浸ってしまった。
彼らは、私に寄り添って助けてくれる神様のようであり、物事を教え背中を押してくれる年長者のようであり、わくわくする楽しさや穏やかな癒しを与えてくれる存在である。
私がお金を貢ぐ彼らは、本である。その理由は、私の人生に本が必要だからである。
「小さな頃から、本で何でも学んできたよね」
私は、家族からそう言われる事がある。自分で何でもできる事はかっこいいと思っていた幼い私に、新しい事を教えてくれる本は、とても魅力的で信頼できる存在だったのだろう。児童書で物足りなくなり、図書館の一般書の棚へ足を踏み入れた時は、急に大人になったような気がして、どきどきした。
学生の時は、本の貸し借りができる友人ができた。それまで、私は自分だけの世界で満足していた。読書を通じて知った事や感じた事、そこから考えた事は、特に他人と共有しようと思わなかったのだ。だけど、本の話をする事はとても楽しく、より相手と仲良くなれたような気もした。その時、読書は人を繋げてくれるのだと知った。
社会人になってからは、ビジネス書にお世話になる事が増えた。自分の課題に気がついた時や困った時には、書店に向かった。本は、私の不安を解消し、気分を前向きにしてくれた。また、自分の知っている世界は何と狭いのだと、世界の広さを思い知る事も多々あった。
文章を書くようになった昨年秋からは、書く仕事や書店、出版業界にも興味の幅が広がった。本のイベントにも行ってみた。そこでは本に関わる仕事をしている書店員や編集者とお話しする機会に恵まれ、とても興味深かった。
おそらく、私は死ぬまで喜々として、本に貢ぎ続けるのだろう。ただ、彼らのこれまでの功績や今後の展望を考えれば、この金額も高くはないのかもしれない。
「『言葉にできる』は武器になる。」著者 梅田悟司
「やさしいクラシック」監修 飯尾洋一
「500匹と暮らした文豪 大佛次郎と猫」監修 大佛次郎記念館
「本を守ろうとする猫の話」著者 夏川草介
「殺し屋のマーケティング」著者 三浦崇典
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