君はシリアスゲームというジャンルを知っているか
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:足立明弘(ライティング・ゼミ日曜コース)
僕はかつて北極に260人置き去りにしたことがある。
もちろん、ゲームの中の話だ。
これは「大航海時代」というゲームをプレイしている最中に発生した事故によるものである。
北極海を探検していた我々は見通しの甘さのせいで北極海のど真ん中で食糧不足に陥ってしまった。
5隻の艦隊の乗組員は総勢300人ほど。どの乗組員もこれまで海賊との戦いや南洋の冒険を共に分かち合った仲間だ。
「このままではあと5日もすれば食料が底をつく……」
提督である僕は決断を迫られた。
もちろんこのまま次の港が見えるまで航海を続けてもいい。しかし、次の港が見えるまではおそらく1ヶ月程度の時間が必要だった。
やむを得ない。
僕は北極に接岸し、260人を降ろした。
そして船を操作できる最低限の人数を船に残し、そのまま出帆した……
たかがゲームじゃないか。
そうかもしれない。
しかし、小学生だった僕にとってはその日の夢に置き去りにした船員たちが出てきたほどトラウマになる出来事だったのだ。
ここ数年、僕の「古傷」をえぐるような「シリアスゲーム」が話題をさらっている。
11bit studioという開発会社がある。まだ設立から7年程度の若い会社だ。
この会社が4年前に開発した「This war of mine(ディス・ウォー・オブ・マイン)
」というゲームがある。
現実の戦争を舞台に、普通の市民を主人公にした「シリアスゲーム」だ。
ボスニア紛争を題材とし、包囲された首都サラエボで、主人公である一般市民が自分たちの隠れ家を強化しつつ、40日以上生き残ればゲームクリアだ。
しかし、ゲームはプレイヤーの倫理観と精神を容赦なく試しに来る。
主人公は生き残るため、郊外で慎ましく暮らしている老夫婦から食料を脅し取る。主人公は極悪非道の悪人でも、感情のないロボットでもない。普通の市民だ。当然、落ち込む。
「俺はあんな老夫婦から食事を脅し取ってしまった。生き残るために仕方がなかったとは言え、本当にすべて奪って良かったんだろうか? 少しは残しておくべきだったのではないか?」
またある時はスーパーマーケットで若い女性が民兵に襲われている。相手は強力なライフルを持っている。こちらはやっとのことで自作した護身用の拳銃1丁。
勝てるはずがない。しかし、人間としてこれを見過ごしていいのか。
ゲームはプレイヤーに決断を迫る。
僕はこの決断で1人の仲間を失った。傷ついた他の仲間を助けるために食料や医薬品を探していた唯一の元気な男だった。
彼を失ったことで病気のメンバーは回復することなく死に、連鎖的に隠れ家は崩壊した。
「This war of mine」は絶妙なゲームバランスの上に成り立っている。
心を鬼にしながら資材や食料を集め隠れ家を強化しても、他の生き残った市民が襲ってくるし、親を失った子どもたちが食料を分けてほしいと隠れ家へやってくる。プレイヤーはそれに全て対処しなければならない。決断を促されるたびに倫理観が試される。
久しぶりに古傷がうずいた。
このゲームはまさしく「シリアスゲーム」の金字塔だ。
現実を題材として、単純な正義感やゲーム的な割り切りを許さない重厚なストーリーとゲームシステム。数あるシリアスゲームジャンルの中でこのゲームが2015年の話題を総ざらいしたのは当然と言える。
おそらくこの記事の読者の皆さんは本好きの方が多いだろう。
本好きの方からすれば、ゲームなんて子供だまし、暇つぶし。スマホでゲームするくらいなら電子書籍読んでたほうがいいという方もいるかも知れない。
だが、世界のゲームは日々進化している。
もちろんグラフィックスが進化したという見た目の進化もそうだが、大人の鑑賞に耐えうる懐の深いプレイ体験を提供するゲームも数多く存在するのだ。
そんな大人の鑑賞に耐えうる新作が11bit studioから先月発売された。
「frostpunk(フロストパンク)」。
舞台は蒸気機関が普及した19世紀。謎の大寒波が世界を襲い、人々は最後の希望を求め石炭が豊富な北極へ向かった。
プレイヤーは避難民のリーダーとして人々を統率し、資材を集め、家を立て、研究開発をし、効率よく資源を開発しながら来るべき「嵐」に備えなければならない。
もちろん「This war of mine」を作ったスタジオの新作だ。ここでもプレイヤーの心を折りにくる。
子供を労働力として炭鉱で働かせるか、それとも未来のために教育を施すのか。怪我をした労働者にどれだけの食事を与えるのか。ホッキョクグマに襲われている難民を助けるために捜索隊の命を危険に晒すのか。「嵐」から逃げてくる難民をすべて受け入れるのか、それとも乏しい食料のために動けない病人は切り捨てるのか。
そして数多くの犠牲の上に成り立った街は「嵐」に耐えられるのか。耐えた後、その街に果たして希望は残っているのか。
その結末はあなたの目で確かめてほしい。
読書家の皆さんであればきっと心ゆくまで堪能できる名作だ。
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