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思い込みが自信を崩壊させる


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記事:伊藤千織(ライティング・ゼミ日曜コース)

 
 
「自分に自信がない。もうどうしたらいいのかわからない」
 
3年前、すがる思いで母に相談したことを、今でも鮮明に覚えている。
 
大学を卒業し、総合職として新卒で採用された会社で、私の配属先は大阪だった。東京で生まれ育った私には、知らない土地で暮らしていくことはとても新鮮で、希望に満ち溢れていた。
 
大阪は、刺激的だった。
先輩社員やお客様の話す関西弁でのやりとりが、テレビでよく見るお笑い芸人の掛け合いそのもので、楽しかった。
先輩社員は、現地に友達のない私のことを良く気にかけてくれた。仕事終わりに社員数人で、会社の近くの居酒屋によく連れて行ってくれた。
 
皆が私に興味津々だった。外国から留学生がやってきた時のように、家族のことや東京のこと、趣味のことなど隅々まで質問してくれた。
こんなに私自身に興味を持ってもらえるような経験は初めてだった。私は皆が気にかけてくれることが嬉しく、それに応えたかった。会話をよく聞き、いつも同じ空間にいたかった。
 
しかし、いつしか、皆と心の距離が離れてしまっていた。
大阪に配属されてから3か月経つと、仕事終わりによく飲み会に行っていた習慣が、ある日突然なくなった。昼休み中、よく話しかけてくれていたのに、会話がなくなり静まり返ることがあった。
永遠にあの楽しい日々は続くのだと思っていたが、その日々は急に途絶えてしまったのだ。
 
当時は理由がわからず、単純に私への興味がなくなったのだと思った。当時の私にとっては、友達を失ったような喪失感と恐怖感があった。もうこの世界で私の話を聞いてくれる人はいない。この世界には私しかいないのだとさえ思った。
大げさに思うかもしれないが、友達のいない環境がこんなにもつらいものだとは想像もしていなかった。SNSを開けば、東京にいる友達は皆週末に気軽に集まれたり、私以外で旅行していたりと、とても楽しそうな様子ばかりが目に入った。
 
行けないのはわかっているけど、せめて誘ってくれるだけでもしてほしかった。
皆、私がいなくても全然楽しそうで、私なんて必要ないな。
私の生きる価値って何だろう。
何のために生きているのだろう。
 
そんなことばかり毎日考えては、泣いていた。
 
仕事でも、私は失敗ばかりしていた。
私が配属された営業所は関西一の忙しさだった。電話が鳴りっぱなしで、自分の仕事をする暇を作る時間がなかった。その中でお客様の注文を聞き逃してクレームが来たり、重複で受注してしまい経費が無駄になってしまったりと、とにかく周囲に迷惑をかけてばかりだった。
 
これ以上迷惑をかけないようにと、私は仕事終わりに毎日ファミレスへ通い、その日に教わったことを復習していた。その日にとったメモを見返し、新しいノートに清書して自分の中に落とし込んでいった。
それでも追いつかなかった。毎日のように怒られた。どうしてこんなに私は人に迷惑をかけてしまうのだろうかと自分を責め続け、すっかり自信を失ってしまった。
 
ある日、仕事から帰り、いつものように泣いていると、母親から電話がかかってきた。
 
「最近どうなの? 連絡ないけど、ちゃんとやっているの?」
 
私から親に電話をすることはめったになく、いつも親の方から2週間に1回のペースで心配の電話をかけてきた。私は親には心配させたくなく、いつも適当にあしらってきた。自立してやっている姿を見せたかったため、両親が大阪に遊びに来た時も、強がって本音を言ってこなかった。
 
しかしこの時はさすがに辛く、はじめて親に仕事での愚痴や自分の自信のなさを吐露してしまった。
母親は私の話を一通り聞くと、1拍おいて、ひとこと言った。
 
「仕事ができないとか、自分はダメだとか言っているけど、それって誰かに言われたの?」
「……言われてはいない」
「言われていないなら、それを相手が本当にそう思っているかどうかわからなくない? あなたが勝手に思い込んでいるだけじゃない? コンプレックスもそうだよ。コンプレックスなんてすべて自分が勝手に考えていることであって、相手は何とも思ってないんだから」
 
私ははっとした。確かにそうだ、と思った。これまでの悩みは私が全て勝手に考えていることであって、必要以上に相手の顔色をうかがいすぎていたのかもしれない。
 
電話を切ると、私の頭の中はすっきりしていた。空を覆っていた厚い雲が消え、青い空が見えた晴れ晴れしさがあった。私は母親から言われた言葉を忘れないように手帳に書き込んだ。そして金輪際、コンプレックスや自信のなさを言い訳にしないことを誓った。
 
それから私は、仕事がつらくても必要以上に落ち込むことはなくなった。そして仕事以外でイベントに参加するなど、積極的に自分を解放できる場を作りに行った。
外の世界は、自分が考えるよりも圧倒的に大きかった。無理に自分を追い込まなくてもいい。友達なんて新しく作ればいい。これまでと180度考え方が変わった。
 
あの時に母親に相談していなかったら、今の私はいなかったかもしれない。母には感謝しかない。これからはもっと素直になって、母と向き合って話してみようと思った。

 
 
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2018-06-20 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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